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12 ちょいと、祭りを盛り上げるだけだ

「おい、今の声なんだ? てめぇのポークビッツでも噛み切られたか」


 一人の男が小汚い笑い声を上げながら入ってきた。

 男は顔を歪ませる。


「何だ? この匂い」


 男が異臭に顔をしかめる。

 その瞬間、男の首筋に光るものが突き付けられた。

 男はびくりと動いたため、鈍く光るナイフがわずかに刺さりそこから赤が一筋流れ出す。


「声を出すなよ。奪った武器はどこだ? あと、印章だ」

「俺は知らん。下っ端なんだ」


 そうか、ロクドーはつぶやくと、男の体を腰ぎんちゃくの方を向かせる。

 いまだに顔から煙が上がっていた。

 男は、ヒィッと小さく叫ぶ。


「お前はどこがいい? けつの穴、焼きつぶしてやろうか?」

「そ、そこの扉だ。あるかわからんが、盗んだもんはだいたいそこの扉の中にある。宝物庫になってんだ」


 ロクドーがリィネに目配せすると、その扉の中に入っていった。


「ここには全部で何人いる? 武器は豊富にあるのか?」

「五十より少ない。全員個人の武器だから、知らん」


 あの時、弓を抱えていた奴らも幻術かもしれない。

 ロクドーは表で起きたことを思い出す。


「魔術師は何人いる?」

「よ、四人だ」

「一人、桁違いの魔術師がいるだろ」

「り、リックか? 最近来た奴だ。砦を森に化けさせちまいやがった」


 リック。どこかで聞いた名前。

 どこだっけと思っているとリィネが部屋から出てくる。

 その左手には金の手甲がはめられていた。


「印章は?」

「あったよ」


 リィネが右手に持っていたのは金で作られたものであった。

 彫られている図形も確かにマダムの部屋で見たような気がする。


「な、な。あったろ? 頼むよ、助けてくれよ」

「まだだ。お前らのボスはどこだ?」

「ぼ、ボスはいねぇ、と思う。四人ボス格の奴がいるんだ。そいつらが、うまい話を持ち寄って集まるらしい。俺たちは、そいつらに集められただけだ」


 悪臭。

 ロクドーが目をやると男の股間が濡れていた。

 恐怖からであろうか。

 思わず顔をしかめた。

 が、その異臭のせいではなく胸糞悪くなったからだ。


 ロクドーはあたりを見渡した。

 女性たちは体を震わせている。

 奥の女性など、それもできないのか、身体を横たわらせたまま、うつろに目をロクドーに向けていた。


 この女性たちに比べたらこの男の死の恐怖など万分の一にもならない。

 そう思うと、ナイフを握る手に力が入る。


 しかし、ナイフを引くと即座に男の後頭部の髪をつかんだ。

 そして、短く息を吐くとその男を壁に叩き付ける。

 顔面を強かに打ち付け、バウンドした男を捕まえると、今度はそのまま地面に叩き付けた。

 気絶した男をロクドーは縛りあげる。


「こっからどうするん?」


 リィネは女性たちに服代わりに布を配っていく。

 取り出した場所はもちろん宝物庫だ。

 リィネは金糸の豪華な装飾の布を使い、なんのお構いなしに女性の鼻血をぬぐってやっている。

 ロクドーは思わず出そうになった言葉を飲み込むと、別の言葉に変えた。


「とりあえず、ここを出る」


 ロクドーは監禁部屋を先に出た。

 辺りを警戒する。

 騒動に気が付いたのは、どうやらいない様だ。


「で、どうするん?」

「待て、その前にやることがある」


 ロクドーは、縛り上げた男を部屋の外に放りだすと布切れや絵画を片っ端から集め始めた。

 そして、その周りを、木切れなどで覆う。


「もったいねぇなぁ」


 飲み込んだ言葉がいまさら出てきた。

 ロクドーは少しだけ目をつぶると覚悟を決める。

 そして、壁に添えつけてあった粗末な燭台を引きちぎると布切れの中に投げ込んだ。

 わずかの時を置いて火は炎へと変じる。


「この人たちを座敷牢までつれていこう。表まで行くのは無理だからあの座敷牢の壁なりなんなりをぶっ壊して逃げる」


◆◆◆


 火事だ! だとか、早く集めろ! だとかそんな大声が至る所であげられている。

 そんな喧噪中、薄暗い通路を煙から逃げるように、しかし、息をひそめて移動していく集団があった。

 その先頭を行くロクドーは汗をぬぐうと後ろを振り返る。


 その後ろには女性たちが数人。

 裸に布を巻き付けただけの様相で、全員が何とか歩けているといった状況だ。

 最後をリィネが立ち上がることさえ困難な女性を支えながら歩いていた。


 土を均しただけの地面は歩きづらいようで何度もこけそうになっている。

 ロクドーは立ち止った。

 しかし、遅れている彼女たちを待つためではない。


 ロクドーが火をつけた理由は二つあった。

 一つは陽動のため。

 もう一つは敵の行動を制限しようと考えたのだ。


 敵は複数いる。

 そして、明確な指揮系統がない。

 恐らくほとんどの敵は自身の利益を守ろうと宝物庫へ集まるはずだと。


 ロクドーの予想は当たっていた。

 様々な集団が宝物庫へ殺到している。

 あとは、そこまでの通路で選ばれなさそうな道を選べばよいのだ。

 ロクドーは、必死に砦内の通路を思い出していた。


「兄ちゃんどうしたん?」


 背後から声がかかる。

 ロクドーは眉根にしわを寄せたままリィネの方に近づく。

 そしてロクドーは、リィネに鍵束を押し付けた。


「何これ?」

「お前が捕まってた部屋のカギだ」


 リィネは首をかしげながら鍵束を受け取った。

 と、足音が聞こえだした。

 こちらへ向かってくる。

 女性たちは恐怖からか、身を震わせる。


「いいか、あとはまっすぐ行け。突き当りを左に行けばさっきの座敷牢だ」

「兄ちゃんは?」


 ロクドーは首巻を首から取った。

 そして印を切る。

 空間が揺らめいた。

 その揺らぎが収まると、それはわずかに反った片刃の剣、刀へと変じていた。


「ちょいと、祭りを盛り上げるだけだ」


 リィネは少しだけ躊躇したようにロクドーを見たが、女性たちを連れて歩き出した。

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新作書いてます。良かったらどうぞ。 最強のデク
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