第八話 拒絶|魔の者を拒絶する
「レックス、口を慎め」
ゼノが発した凛とした声音に、その場の空気がキュッと引き締まった。 年の離れた小さな主からの真っ直ぐな叱責に、レックスはふっと目を細め、どこか誇らしげな笑みを浮かべる。 レックスにとって、ゼノの命令は絶対の法であり、そして何より――彼はゼノを自分の本当の我が子のように愛おしく思っていた。ゼノの笑顔はこの世の何よりも尊く、レックスのすべてを捧げるべき命そのものだったのだ。
だからこそ、ゼノが「客人として迎え入れる」と決めたのなら、レックスがそれに異を唱えることなどあり得ない。
「――はっ。失礼いたしました、ゼノ様」
レックスはさきほどの強面な剣豪の雰囲気をすっと消し去り、背筋をピッと伸ばすと、まるで王宮に仕える古き良き執事のような流麗な物腰へと変わった。これこそが、レックスの本来の姿である。誰よりも気高く、そして誰よりも礼儀を重んじる紳士。
レックスは膝を折り、ゼノの腕の中にいる乎鞠と視線を合わせると、そっと頭を下げた。
「おびえさせてしまい、心よりお詫び申し上げます、小さな客人殿。私はレックスと申します。……お怪我の具合を拝見したいのですが、その腕や衣服に触れてもよろしいでしょうか?」
トゲのない、どこか心地のいい低音で丁寧に許可を乞うレックスに、乎鞠は少しだけ警戒を解くように小さくこくんと頷いた。
レックスが、ゼノの腕に抱かれた乎鞠の泥だらけの袖へと、そっと指先を伸ばした――その瞬間。
バチッ……! と、空気が裂けるような鋭い閃光が走り、周囲に激しい電撃の音が響き渡った。
「っ……!?」
レックスは素早く身を引き、ゼノは驚きで乎鞠を庇うように腕を引いた。 二人の目の前で、乎鞠の着ている衣の繊維から、青白く禍々しい魔力の光がパチパチと脈打っている。
レックスは自分の痺れる指先を見つめ、険しい顔つきで呟いた。
「……これは……。この衣、魔力を弾く性質を持っているな」




