第九話 異質|美しき衣は異世界から
目の前で起きたバチッという閃光と電撃に、乎鞠自身が一番目を丸くして驚いていた。
(……これ、わたしの……服……?)
思い返せば、社に幽閉されていた頃に身につけていたのは、擦り切れたボロ布の着古した衣だったはずだ。しかし、泥や血で汚れているもののその下には、息を呑むほど美しい衣装が隠れていた。
純白の生地に、眩い金色と鮮やかな緋色の糸で精緻な文様が織りなされた、見るからに神々しい着物。泥まみれになっていようとも、その底知れぬ気品と神聖さは一目でわかるものだった。
これまでの人生で、こんなにも高価で美しい布に触れたことすら一度もない。もちろん、いつの間にこんな衣に着替えたのか、記憶の糸をたぐっても全く覚えがなかった。
「……ふむ」
レックスはピリピリと静電気を放つ乎鞠の袖を観察しながら、腕を組んで低く唸った。
「ただの強力な防御魔法や結界が施された代物ってわけじゃなさそうですね……。この魔力の質、そして物質の理を歪めるような拒絶反応。おそらく、この衣にはこの世界――魔界のものですらない、まったく別の『異世界の加護』が定着しています」
レックスの鋭い分析に、ゼノは「異世界の……?」と深紅の瞳をぱちくりとさせる。
「ゼノ様がこの子を直接抱えても弾かれないところを見ると、悪意の有無や、あるいは純粋な魂の持ち主には反応しない仕組みかもしれません。ですが……」
レックスは自分の痺れた指先を軽く払いながら、困ったように眉をひそめた。
「このままでは、折れた左足や全身の傷口に包帯を巻くことも、消毒薬を塗ることもできません。衣をどうにか脱がせるか、あるいは加護を一時的に相殺しなければ、手当てそのものが不可能ですな」
ゼノは腕の中の乎鞠を心配そうに覗き込み、小さな体でブルブルと震える我が新しい友達に語りかけた。
「ねえ、びっくりさせてごめんね。痛いところ、このままじゃ治してあげられないんだ。……この服、自分で脱げそうかな?」




