第六話 選択|繋いだ手は温かかった
「ゼノ様ーっ! ゼノ様ーっ!」
ピキッ、と洞穴の空気が張り詰めた。外から響いてきたのは、少年を必死に探す大人の切羽詰まった声だ。 自分の名前を呼ばれた少年――ゼノは、ハッとしたように一度洞穴の出口の方を振り返り、それから再び乎鞠に向き直った。
「ここに、大怪我をした子が倒れてるんだ!」
外の男に向かってそう叫ぶと、ゼノはもう一度、乎鞠の方へ視線を戻す。
先ほどまでの焦りから一転、ゼノは怯える乎鞠を怖がらせないように、ふっと柔らかく優しい笑顔を浮かべた。
「僕は魔界の第二王子のゼノ。安心して、君を傷つけたりしないよ。ただ、君を助けたいだけなんだ」
「はぅ……っ、はぅ……っ」
「第二王子」という言葉の意味は幼い乎鞠にはよく分からなかったけれど、その名前と、目の前の少年のまっすぐな優しい瞳が、不思議とトゲを少しだけ溶かしていく。
ゼノはもう一度、ゆっくりと手のひらを上に向けて差し出した。
(助けたい……? 本当に……?)
これまでの絶望の日々が脳裏をかすめるけれど、このままでは本当に凍えて死んでしまう。 乎鞠は小さく震えながらも、しばらく迷った末に――意を決したように、傷だらけの小さな手を、恐る恐るゼノの大きな手のひらへと伸ばした。
ふわり、と手が触れ合ったその瞬間。
「っ!」
ゼノは子供とは思えないほど素早く、そして驚くほど力強く、泥だらけで血まみれになった乎鞠の体を軽々と「お姫様抱っこ」でふわりと抱き上げた。
「はぅ……!?!?」
不意を突かれた乎鞠は、浮き上がった恐怖と驚きで目をまん丸に見開き、間抜けな声を漏らしてしまう。 しかし、ゼノの腕の中は思っていたよりもずっと温かく、そして不思議なほど安定していた。折れた左足が痛まないように、ゼノはそっと自分の胸元へと引き寄せながら、優しく微笑みかける。
「大丈夫だよ、もう安心だ」
――こうして、血まみれの異邦の神子は、魔界の第二王子であるゼノに抱き上げられ、初めて「温もり」を知る者との出会いを果たすのだった。




