第四十九話 召歌|浄化の光
簡単な夜食をトレイに乗せ、そっと部屋の扉を開けたゼノは、そこで完全に足を踏み止めた。
持っていたトレイを取り落としそうになり、ゼノは息を呑んだまま、ただその場に立ち尽くす。
静まり返った深夜の部屋。 窓から差し込む紫色の双月の光の中、乎鞠は小さな体を揺らしながら、儚くも芯のある、聴いたこともない美しい歌声を響かせていた。
そして、信じられない光景が目の前に広がっていた。
乎鞠の周りには、白銀の毛並みを持つリスくらいの大きさの不思議な小動物が1匹、まるで音の精霊のようにチョロチョロと楽しげに走り回っている。その小動物の足元から、あるいは乎鞠の歌声から生まれたのか、眩い温かい光の粒子が、苦しげに眠るルシアの体を包み込むようにふわりふわりと降り注いでいたのだ。
ルシアの顔に浮かんでいた毒の胞子による黒い紋様が、その光を浴びるたびにスッと薄れ、苦痛に歪んでいた眉間がわずかに緩んでいく。
――やがて、乎鞠が最後のフレーズを歌い終えると、部屋に満ちていた優しい歌声がふっと消えた。
それに合わせるように、白銀の小さな生き物は満足したように可愛らしくピョンと跳ねると、霧のように泡となって夜気の中に溶け込み、ルシアを包んでいた光もゆっくりと消えていく。
ただ、ルシアの呼吸は先ほどまでとは比べ物にならないほど穏やかになっていた。
圧倒的な神秘と、目の前で起きた奇跡の余韻に圧倒され、ゼノは言葉を失ったまま、トレイを持った手すら動かせずにその場で固まっていた。




