第四十六話 失敗|Call of Duty
「わぁ……! もくもくだぁ!」
恥ずかしさとパニックをどうにか押し隠しながら浴室へとやってきた乎鞠は、開口一番、ぱっと目を輝かせて無邪気に声を上げた。
その「もくもく」の正体は、異常なほどに浴室全体を埋め尽くす濃厚な湯気だった。一寸先はすべて白く煙り、自分の手元すら危ういほどの濃霧状態。
そう、これはパニックに陥ったゼノが、苦肉の策としてひねり出した「湯気で物理的にモザイクをかける」という、恥ずかしさを乗り切るための必死すぎる荒技だったのだ。
しかし、肝心のモザイクが濃すぎたせいで、前が全く見えないという想定外の弊害が生まれていた。
「ええと……こっちかな、それともこっち……?」
ゼノは真っ赤な顔をしながらも真剣そのもので、手探りで恐る恐る乎鞠の体を洗っていく。だが、まだ怪我を負っている乎鞠の体はどこが触れて大丈夫な場所で、どこがまだ痛むのかが全くわからない。
「ひゃっ……! うふふ、あのね、ぜの、そこ……くすぐったいよぅ……」
乎鞠がくすぐったそうに、ころころと鈴を転がすような可愛い声を零した。
その無防備すぎる反応に、ゼノは「ひゃああ! ご、ごめんね!? 痛かった!? 怒ってる!?」と、なぜか怒られてもいないのに謎の焦りを爆発させながら、必死に平謝りを繰り返してしまう。
冷や汗を流しながらもどうにか全身の洗い残しがないかを入念に確認し、いよいよ次の難関、洗髪ミッションへと移行した。
「つ、次は頭を洗うからね……! 目を閉じててね、乎鞠」
ゼノは後ろからそっと回り込み、緊張で震える指先に全神経を集中させて、優しく丁寧に髪と頭皮を洗い上げていく。
あまりの緊張に、いつの間にかゼノ自身もぎゅっと固く目を閉じてしまっていた。
シャンプーの泡を流すためにそっと指を動かしていたその時、ふと、指先に固い感触が触れた。
(ん……? これは何だ……?)
目を開けて確認してみると、そこにあったのは、乎鞠の額の横にちょこんと可愛らしく生えた、彼女の最大のチャームポイントである小さな巻角だった。
(へぇ……。乎鞠の角って、見た目はツルツルしてそうだけど、触ると結構ザラザラしてるんだな……)
そんな妙なところに感心しながら、ハッと気づいてゼノは目を見開き、周囲を見回した。
――あれ? 浴室のモザイクだったはずの「もくもく」が、影も形もない。
あまりにも慎重に、そして悪戦苦闘しながら時間をかけすぎてしまったせいで、すっかり湯気は消え去り、浴室の中はすっきりとクリアになってしまっていたのだ。
「あ……」
見事に視界が開けたその場所で、服を着ていない乎鞠と、泡だらけの手で固まっているゼノの姿が、残酷なまでにくっきりと映し出されていた。
「……任務、失敗、だ……」
ゼノの顔面から、今度こそ音を立てて絶望の湯気が立ち上るのであった。




