第四十五話 萌々|少年に課された試練
クッションの山にそのまま倒れ込むように眠っていたおかげで、不運中の幸いか、被害は乎鞠の腰のあたりに敷かれていたクッション一個だけに綺麗に収まっていた。
ゼノは状況を把握すると、サッと周囲を確認し、被害の程を冷静に見極めた。
しかし、その当事者である乎鞠は、あまりのショックとパニックから立ち直れず、まだクッションに顔をうずめたまま「はぅはぅ、うぅ……しとねが、ごめんなさい、ちがうの、こまが……うにゅうにゅ……っ」と、支離滅裂で辿々しい言い訳を必死にブツブツ呟き続けている。
(……くっ、なんて可愛いんだ……「しとね」って何なんだ‥!)
泣き濡れた顔で必死に取り乱すその姿を、このままいつまでも愛おしく眺めていたいという邪な独占欲がゼノの胸をかすめた。だが、すぐに第二王子としての理性が「いや、今そんなことを考えている場合じゃない!」と正気に引き戻す。
まだ熱の残る体に加え、おねしょで汚れてしまったままでは体が冷えてしまうし、何より衛生面でもよくない。
ゼノは優しく微笑むと、ガタガタと震える乎鞠の背中にそっと手を置き、蕩けそうなほど甘く優しい声で宥めた。
「大丈夫だよ、乎鞠。そんなに気負わないで、誰だってそういうことはあるからさ。ほら、お風呂の準備をしてあげるから、体を綺麗にさっぱりさせようね」
「うぅ……ぜの……ごめんなさい……やさしくしてくれて、ありがと……う……」
乎鞠は真っ赤に染まった顔をさらにクッションの奥へと押し付けながら、消え入りそうな声で、辿々しくも必死に謝罪と感謝の言葉を紡いだ。恥ずかしさのあまり湯気が立ち上りそうなほど顔を赤らめているその少女の破壊力抜群な姿に、ゼノはしばしの間、言葉を失ってうっとりと見惚れてしまった。
(……はぁ、本当にどこまで守りたくなる生き物なんだ……)
ひとしきりその愛らしい姿を目に焼き付けた後、ゼノは「よし、それじゃあ行ってくるね!」と気合を入れ直すと、テキパキと身支度を整えて自室の浴室へと向かった。
お湯を張り、アロマの香る石鹸を用意し、ふかふかのタオルを棚に並べる。完璧な手際で準備を進め、さあ乎鞠を迎えに行こうと振り返ったその瞬間――。
バチィッ! と、ゼノの脳内で凄まじい警報音が鳴り響いた。
「……っ!? ま、待てよ……?」
血の気が一気に引き、次の瞬間、ゼノの顔面は先ほどとは比べ物にならないほどの猛烈な勢いで、盛大に火を吹いた。
乎鞠は現在、全身に深い怪我を負っており、足を引きずらなければ歩けないほどの状態だ。そんな彼女が、一人で浴室に入り、服を脱ぎ、頭や体を洗って湯船に浸かるなど――物理的に、完全に、絶対に不可能であるという現実が、残酷なまでに脳裏を駆け巡ったのだ。
「ひ、ひとりでは入れないってことは……ぼ、僕が……洗う……の……っ?! 一緒に入るの……っ!?」
誰もいない静かな浴室の中で、小さな次王子は真っ赤な顔のまま、ガタガタと全身を震わせるのであった。




