第四十四話 子供|少女の失態
「はぅ、はぅ……」
窓から差し込む静かな月明かりに包まれて、乎鞠はゆっくりと目を覚ました。
どこか心地よい、包み込まれるような温もりにすっかり安心しきって、いつの間にか深い眠りに落ちていたようだ。
目を凝らすと、すっかり日は沈み、魔界特有の妖しくも美しい紫色に輝く双月の光が、静かに部屋の床を照らし出していた。
ふと見上げれば、すぐ近くでゼノが整った美しい顔を安らかに緩め、健やかな寝息を立ててスヤスヤと眠っている。
(ぜの……すごく、きもちよさそうにねてる……)
胸がキュッと温かくなるのを感じながら、乎鞠はふと、自分の下半身あたりに違和感を覚えた。
なんだか、腰のあたりが異様に冷たい。ひんやりとした感覚が、心地よい温もりの中にぽっかりと冷たい穴を開けているようだった。
「……? なんだろ……これ……」
寝ぼけ眼のまま、乎鞠は自分の腰のあたりへとそっと小さな手を伸ばした。
ひんやりとした布の感触。
触れた瞬間の冷たさと、そこに広がる生暖かい湿り気。
その正体が脳内で結びついた瞬間、乎鞠の中で何かが完全にフリーズした。
……。 ……………………?!
「はぅっ!? はぅはぅ、はぅはぅ……っ!?」
あまりの衝撃と恥ずかしさに、乎鞠は思わず小さな声を上げてひっくり返りそうになった。
熱発と極限の緊張、そして安心感の緩みから、ついにやってはいけない失敗をしてしまっていたのだ。そう、乎鞠は盛大にお漏らしをしてしまっていたのである。
その慌てふためいた可愛い声とバタバタと暴れる気配に、隣で眠っていたゼノが「ん……?」と眉をひそめながら目を覚ました。
「……ん……どうしたの、乎鞠……?」
寝起きの掠れた低い声で優しく問いかけながら、ゼノはゆっくりとまぶたを持ち上げる。
しかし、目の前で起きたあまりの光景と状況に、乎鞠はすっかりパニックの極みに達していた。
「ひゃ、はぅっ……! 違うの、あのね、これは……その……! おみずじゃなくて、あの、しとねが、じ、じぶんから……じゃなくて……っ、はぅはぅふぎゅぅ……っ!」
頬を真っ赤に染め上げ、涙目で意味不明な言葉を必死に羅列しながら、クッションの山でエビのように体を丸めてガタガタと震え続ける乎鞠。
突然のことにゼノの脳内はまだ半分夢の中だったが、しだいに状況を把握し始めて――さて、王子様はこの可愛いハプニングにどう反応するのだろうか。




