第四十二話 疑問|WHO?
ゼノのまっすぐで温かい言葉に、乎鞠の中で凍りついていた何かがゆっくりと溶けていく。ゼノはそんな彼女の小さな変化を受け止めると、改めて、もう一度優しく問いかけた。
「……ねえ、乎鞠。僕のお嫁さんになってくれる……?」
先ほどとは違い、今度は迷いのない、どこまでも真剣で優しい声だった。
その問いを聞いた瞬間、乎鞠は堪えきれなくなったように大粒の涙を再びあふれさせながらも、今度は力強く、何度も何度も大きく頷いた。
「うん……っ、うん……っ……!」
「よかった! 約束だからね、絶対に僕のお嫁さんだよ!」
ゼノはパッと顔を輝かせると、嬉しさと愛おしさが爆発するように、乎鞠の小さな体をふわりと優しく包み込むように抱きしめた。
乎鞠もまた、震える両手をそっとゼノの背中に回し、しっかりと捕まりながら小さな声で「……うん、おやくそく、だよ……」と懸命に返事をした。
しばらくの間、温かい体温を感じ合いながら互いの鼓動を確かめ合っていた二人だったが、やがて乎鞠の激しい泣き声もしだいに落ち着き、小さく肩を震わせるだけになっていった。
ふと、涙を拭いながら鼻水をぐずっと啜った乎鞠は、何かを思い出したように、こてんと首を傾げた。そして、潤んだ瞳でじっとゼノを見つめ、辿々しい口調でポツリと疑問を口にした。
「あのね……ぜの……」
「ん? どうしたの、乎鞠?」
「……ぜのは、なんで……こまのおなまえ、しっているの……?」
その言葉に、ゼノは「え……?」と動きを止めた。ゼノの頭の上に、大きな『?』がぽっかりと浮かび上がる。
乎鞠は小さな指で自分の鼻をこすりながら、不思議そうに続けた。
「こま、ぜのに……たすけてもらってから、じ分のおなまえ、いちども……おしえて、ないよ……?」
言われてみれば確かにそうだ。出会ってからこれまで、互いの境遇や命のやり取り、そして先ほどのプロポーズに夢中で、乎鞠が自分の口で「乎鞠」と名乗った瞬間など一度もなかった。ゼノは一体、どうやってこの少女の名前を知ったのだろうか。




