第三十七話 欲望|懲りない少年
「えっとね、お薬…だけじゃ‥なくて……、しょー…どく‥…お掃除の‥‥とき…あとは、おせんたく‥!まっ白に…する‥ため……にも、つかわれているの……!」
乎鞠が一生懸命に思い出しながら答えると、レックスは「なるほど」と深く頷いた。
「洗剤や漂白剤として使われているのであれば、多くの人々が日常的に消費する日用品ということになりますね。図鑑の生態を見ても繁殖力が非常に強いとありますし、希少な珍しい薬草というわけではなさそうです。王都の市場や商会であれば、まず間違いなく在庫が手に入るでしょう」
流通量が多ければ、人間界での調達のハードルは劇的に下がる。最悪の事態は避けられそうだという確信を得て、ゼノとレックスの表情に安堵の色が浮かんだ。
「よかった……! これで兄者の治療薬は作れるね」
胸を撫で下ろしたゼノは、そこでふと思い出したようにパッと顔を輝かせた。
「よし、ルナスティックリーフの目処は立った! じゃあ、あとはもう一つの『鬼灯』だね!」
そして、ゼノは満面の笑みで、乎鞠のほうへと身を乗り出した。
「ねえ、乎鞠。もう一回あの……、ええと、丸くてぽよんとして、中に小さな実が入ってるアレのジェスチャー、見せてくれるかい?」
すでに鬼灯の正体がこの世界でどう呼ばれているかを探るフェーズはゼノの中で終わっている。ぶっちゃけて言えば、ここから治療に関する新たな実用的な情報など一切得られないことは明白だった。
純粋に、先ほどの可愛すぎる身振りをもう一度生で拝みたいという、第二王子の個人的な欲望だけで繰り出されたリクエストだった。
何も裏の意図など微塵も疑っていない乎鞠は、「うん!」と元気よく返事をすると、またあの可愛らしい小さな両手を丸く構え、空中でぽよんぽよんと揺らし始めたのだった。




