第三十六話 発見|続く難問
「あっ……!」
乎鞠が小さな指先でポンと図鑑の一点を指し示した。そこに描かれていたのは、夜露草の特徴である「繊維状の葉」のシルエットが幾重にも重なった、見慣れない草木のスケッチだった。
「本当かい? どれどれ……」
ゼノは慌てて顔の赤みを引っ込めると、乎鞠が指さしたページの横に記された解説の文字に目を走らせた。まだ文字が十分に読めない乎鞠の代わりに、ゼノがその名称と説明を声に出して読み上げていく。
「……『ルナスティックリーフ』。聖界の植物、ソードリーフ科……。殺菌作用が非常に強く、素手で触れるだけでも皮膚が爛れてしまう危険な性質を持つ。主に湿地帯で繁殖し、葉の半分以上が泥の中に埋まっている、か……」
読み進めるうちに、ゼノの眉間に自然とシワが寄った。
聖界の植物ということは、魔界や人間界に自生しているものではない。これを聞いたゼノは、ふと暗澹たる気持ちになり、呟いた。
「聖界に行かないと入手は難しいのかな……? でも、僕たち魔族が気軽に聖界へ行くなんて、まず無理だし……」
もし聖界への密入国や交渉が必要だとなれば、それだけで何日、何週間とかかってしまう。ルシアの命がそこまで持つかどうか分からない。
絶望的な空気が部屋を覆いかけたその時、レックスが腕を組んだまま冷静に口を開いた。
「若様、悲観するのはまだ早いです。たしかに魔界から聖界へ赴くのは困難ですが、人間界であれば話は別です。人間界は聖界と貿易協定を結んでいるため、王都の大きな薬種問屋や商会であれば、こうした聖界産の希少な植物が流通している可能性があります」
「人間界の市場なら……!」
ゼノの顔にわずかに希望の光が戻る。しかし、すぐに別の問題が頭をよぎった。今すぐ人間界へ買い出しに行くとして、どれほどの時間がかかるのか。そして、この毒の胞子の進行をそこまで抑えられるのか。
レックスは思考を巡らせながら、ふたたび乎鞠へと視線を向けた。
「お嬢様、大変重要な手がかりをありがとうございます。……もう一つお伺いしたいのですが、このルナスティックリーフには、薬としての用途以外に、例えば人間界や聖界で『何かに加工される』といった、別の使われ方はあるのでしょうか? もし別の目的で広く流通しているなら、探す手がかりになるかもしれません」
レックスの問いかけに、乎鞠は小さな首をこてんと傾げ、記憶の糸をたぐり寄せるようにじっと考え込み始めた。




