第三十四話 趣味|愛らしい姿
ゼノが自室に戻る。
「どうだい、乎鞠? この中に似たような薬草はありそうかい?」
ゼノが持って帰ってきた四冊の分厚い図鑑を広げると、乎鞠は真剣な表情で小さなお顔をくっつけるようにページをめくり始めた。しかし、古い文献ゆえに載っているのはどれもモノクロの素朴なスケッチばかりで、決定的な手がかりがつかめない。
「えっとね、これはちょっとちがうの……こっちも、葉っぱのかたちが……」
小さな眉をキュッと寄せながら首を傾げる乎鞠に、ゼノは「じゃあ、『鬼灯』のほうの特徴を教えてくれるかい?」と優しく問いかけた。
「うん! あのね、ほおずきはね……」
乎鞠は説明しようと、小さな体を一生懸命に動かし始めた。
両手をふんわりと丸く広げて、自分の顔の前に掲げる。
「まずね、まっかっかで……、えっと、ちょうちん、みたいなの!」
「ちょうちん……? んん?」
この世界の魔界や人間界には「提灯」という文化や概念が存在しない。ゼノが首をかしげていると、乎鞠はさらにジェスチャーのレベルを上げていく。
小さな体をぷるぷるさせながら、手で丸い形を作っては「ぽよん、ぽよん」と空中で揺らし、最後に両手をパッと開いて中を指す。
「でね! その、まん中に、まるくてちいさい実が、ひとつだけぽんって、入ってるの!」
全身を使って、必死に、それはもう全力で「鬼灯」の姿を再現しようとする乎鞠。
だが、白黒の図鑑と「提灯」という未知の単語の前では、その説明はあまりにも抽象的だった。わかったのは――乎鞠の表現があまりにも健気で、破壊力抜群に可愛らしいということだけだった。
(……ふわぁ……なにこれ、可愛すぎる……)
ゼノは手元の図鑑に目を落とすふりをしながら、心の中で盛大に悶絶した。
肝心の薬草の手がかりは最後の「丸い小さな実」という情報くらいしか残らなかったが、目の前で必死に全身を使ってアピールしてくれている乎鞠があまりにも愛おしすぎて、ゼノの脳内では「もっとこの動きを見たい」という邪な欲求がむくむくと頭をもたげていた。
「えっと、じゃあさ、乎鞠……その、ええと……」
「うん!」
「その、ええと、夜露草っていうのは……どんなふうに生えているんだっけ? もっと詳しく教えてもらえるかな?」
本当は次の手順へ進むべきなのだが、もっと可愛い身振り手振りが見たくなったゼノは、治療に必要かどうかすら怪しいマニアックな質問をいくつか重ねてしまうのだった。
純粋に頼りにされていると思って、一生懸命に手をパタパタさせて答えようとする乎鞠の姿に、レックスもまた遠い目で微笑ましくその様子を見守っているのだった。




