第三十三話 順番|テキパキと
隔離されたソファーのそばに跪き、レックスは厳重にマスクと手袋を整えると、真摯な眼差しで乎鞠に向き直った。
「お嬢様、落ち着いていて素晴らしいご判断です。……それで、その『夜露草』と『鬼灯』を用いた具体的な生成法を教えていただけますか?」
レックスの頼もしくも穏やかな問いかけに、乎鞠はこくりと頷き、ちいさな手を精一杯動かしながら必死に手順を説明し始めた。
「えっとね……、えっと、まず……夜露草は、あの……繊維を、こう……ゆびで、ぴーってひっぱって、ほぐして……!」
慣れない言葉と緊張で、乎鞠は何度も息を詰まらせる。
「はぅ、はぅ……えっと、はっぱと、せんいを……わけて……。つかうのは、その、せんいの方なの……!」
「ふむ、葉ではなく繊維の方を使うのですね」
「そう……! でね、その、とれたせんいを、おなべでにて……でね、つぶした、ほおずきの実を、その、にだしに……たして……。で、すいぶんが、半分になるまで、むしはたして、あ、ちがう、にいつめて……!」
言葉がもつれ、小さな頭を抱えて「はぅ、はぅ……っ」と涙目になりながらも必死に言葉を絞り出す乎鞠。しかし、レックスは少しも急かすことなく、大きな温かい手で優しく乎鞠の頭をそっと撫でた。
「お嬢様、焦らなくて大丈夫ですよ。ゆっくり、お聞かせくださいませ。ちゃんとすべて受け止めておりますから」
その包み込むような優しさに、乎鞠はホッと息を吐き出し、最後の手順を伝える。
「うん……さいごに、それを、しおにふくませて……きずついたところに、ぬりこむの……!」
「なるほど、塩に含ませて患部に塗布するわけですね。承知いたしました」
レックスがテキパキと必要な道具の準備を心の中で整え始めたその頃――。
ゼノは城の広大な書庫に駆け込んでいた。棚の隙間に並ぶ膨大な古文書の中から、薬草や植物の生態が記された書典を探し出す。
その背表紙を次々と確認していくゼノの視界の端に、ふと、書庫のさらに奥に広がる薄暗い一角が飛び込んできた。
そこは、通常の管理区域ではない場所――『禁忌の書庫』。
なぜかその扉の隙間から、ぞわりとするような不思議な気配と、まるで自分を呼んでいるかのような奇妙な引力がゼノの胸を打った。
(……今の、なに……? なぜか、呼ばれているような気がする……)
一瞬、足がすっとそちらへ引き寄せられそうになったが、ゼノは力強く頭を振って邪念を追い払った。
(ダメだ! 今は兄者の治療が先だ……!)
ゼノは自分自身を叱咤するように背筋を伸ばし、目の前にある薬草の書典の中から四冊選ぶと、しっかりと抱え込んで自分の部屋へと全速力で引き返していくのだった。




