第三十話 求助|少女の切なる叫び
「――ルシアさま、しっかり、して……っ! おき、て……っ!」
廊下を急ぎ足で戻ってきたゼノとレックスの耳に飛び込んできたのは、部屋の中から響く、乎鞠の必死でか細い泣き声だった。乎鞠に何か大変なことが起きたのだと察知したゼノは、血の気が引く思いで重い扉を力任せに押し開けた。
「乎鞠……っ!」
ゼノが叫びながら部屋に飛び込み、レックスもすぐ背後で身構えて踏み込む。しかし、そこに広がっていたのは予想もしない光景だった。
血まみれの第一王子ルシアがベッドに倒れ込み、その傍らで、乎鞠がボロボロと涙を流しながら必死にルシアの体を揺さぶっていたのだ。
「ゼ、ゼノ……っ!」
ゼノの姿を見つけた瞬間、乎鞠の瞳から更に大粒の涙があふれ出す。
ゼノはすぐさま乎鞠の元へ駆け寄り、震える小さな体を両手で包み込むように抱き寄せた。
「乎鞠、大丈夫!? 怪我はないかい? どこか痛むところは……っ!」
「……っ、ううん……っ、ぜの、いて……、あのね……、このひとが、きゅうに、ばたって……」
ゼノが乎鞠の全身を必死な目でまさぐり、危害が及んでいないこと、そして新たな怪我がないことを確認すると、ようやくホッと安堵の息を漏らして胸を撫で下ろした。
しかし、極度のパニックと恐怖の余韻が残っているため、乎鞠は頭の中が真っ白になっていた。ルシアに何が起きたのかを伝えようと一生懸命に苦手な言葉を紡ぎ、懸命に説明しようとするものの、息は荒く、言葉は完全に支離滅裂になってしまっている。
「はぁ、はぅ……ちが、いっぱい……で、おそいかかってきたんじゃなくて、ばたって……たおれて、どしゃって……!」
パニックで唇を震わせ、泣きじゃくりながら要領を得ない説明を繰り返す乎鞠。
そんな彼女を落ち着かせようと、ゼノは優しく小さな背中をぽんぽんとリズミカルに叩き続けた。
「大丈夫、落ち着いて乎鞠。もう怖がらなくていいからね。僕とレックスがついているから」
「お嬢様、息を整えてくださいませ。……若様の言う通り、もう安全でございますよ」
レックスもまた、倒れているルシアを一瞥した上で、低く落ち着いた優しい声色で乎鞠に語りかける。 魔界最強の剣士と心優しい第二王子の二人が発する穏やかな温もりに包まれて、乎鞠の激しい動悸と震えは、ようやく少しずつ静まっていくのだった。




