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第二十七話 忍足|忍び寄る影
ゼノは一晩中、乎鞠の額に当てた布を冷たい水で洗い続け、うっすらと汗をかいた小さな体を懸命に拭き続けた。
そうして迎えた早朝。熱そのものはまだ完全に下がってはいないものの、乎鞠の表情は昨夜の苦痛に満ちたものから、いくぶんか穏やかな寝顔へと変わっていた。
ゼノはこれまで、王子としての誇りと義務感から、朝の鍛錬を一日たりとも欠かしたことがなかった。しかし、今はそれどころではない。緊急事態だった。
窓の外を見やると、城の中では早朝の支度を始める使用人や衛兵たちがバタバタと忙しなく動き回り始めており、廊下はあちこちに人の気配が満ちている。
(今なら、この人の出入りのざわめきに紛れれば……!)
ゼノは、今こそレックスの部屋へ走り、今日の鍛錬の休止と、乎鞠の看病への協力を求めようと決意した。
スヤスヤと心地よさそうに深い眠りを続けるその寝顔に「すぐ戻るからね」と小さく囁くと、ゼノは音を立てぬよう慎重にベッドを抜け出し、自室の扉をそっと開けて廊下へと飛び出した。
主を失い、静まり返った薄暗い部屋。 一人残された乎鞠は、ただ穏やかな寝息を立てている。
――だが。
カチリ、と。 さっきゼノが確実に閉めたはずの重厚な扉が、まるで最初から鍵などかかっていなかったかのように、音もなく、不穏に、ススッと開き始めた。




