第二十六話 看守|ただ守りたいだけ
?!
いけない、とゼノはハッと我に返り、頭を激しく振った。
見つめていた唇から慌てて視線を外し、乎鞠の頬にそっと添えていた指先に意識を集中させる。すると、先ほどまでの甘美な熱とは違う、妙な熱さに気づいた。
指先から伝わってくる乎鞠の体温が、明らかに高い。熱を帯びているのだ。
骨折に、全身に及ぶ数々の酷い裂傷――。それだけの重傷を負っていれば、傷口が炎症を起こして発熱するのは当然だった。
(……そうだ、怪我人の熱を甘く見ちゃいけないんだ……!)
ゼノの聡明な頭脳が、一瞬で色恋の迷いを吹き飛ばし、冷静な判断モードへと切り替わる。
今すぐレックスを大声で呼ぶべきか? いや、それは賢明ではない。こんな深夜に皇子の寝室から騒ぎを起こしたり、普段と違う慌ただしい動きを見せれば、城の警備や他の者たちに変な勘繰りや無駄な注目を集めてしまう。まだ乎鞠の存在を隠しておかなければならない状況下では、動揺した姿を晒すのは悪手だ。
もし自分がこのまま眠ってしまい、その間に容体が急変したりしたら――。
想像しただけで、ゼノの背筋に冷たいものが走った。
(今夜は、僕が寝ないで看病する……!)
ゼノは静かにベッドから起き上がると、きりっと引き締まった表情で行動を開始した。
まずは体温の調節がしやすいように、熱に浮かされてうっすらと汗をかいた乎鞠の肌を綺麗に拭ってやること。そして、水分を補給できるように水を用意すること。
清潔な布と水を入れた水差しをそっと持ってくると、ゼノは乎鞠のベッドの脇に再び腰を下ろした。
「大丈夫だよ、乎鞠。僕がついてるからね」
まだ幼い小さな額にそっと優しく触れながら、ゼノは今夜一晩、決して気を抜かないと心に誓い、たった一人の寝ずの番を静かに始めたのだった。




