第二十二話 乎鞠|乎鞠の意外な特技
目の前で繰り広げられる、愛しい息子と娘の微笑ましい会話に、レックスは心の底から目を細めていた。
「ねえ、乎鞠。何か得意なことってある?」
ゼノがスープを一口飲みながら、興味津々といった様子で尋ねる。
乎鞠は、ゼノからの問いかけに少しだけ体をぴくりと震わせたが、せっかくの質問に答えようと、一生懸命に言葉を探した。話すのが苦手で、どうしても途中でつっかえてしまう。それでも、ゼノのまっすぐな瞳を見つめながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「と、得意な、のは……お、お料理と……お薬を、つくる‥こと、です……」
たどたどしいがはっきりと紡がれたその答えに、ゼノも、そしてスープを口に運んでいたレックスも、ピタリと動きを止めた。
驚きを隠せない二人の視線を浴びて、乎鞠は少し恥ずかしそうに俯きながら、さらに言葉を続ける。
「とと……様が、くすりうり、で……お家では、ずーっと……お料理と、お薬を、つくるのが……こまの、お仕事、だったから……」
(――薬売りだった男の家で、料理と調薬を?)
ゼノとレックスは内心で大きく目を見張った。
聖なる神々と古の血を引く神聖な存在でありながら、過酷な虐待を受けていたと思っていた少女の口から語られたのは、あまりにも家庭的で、どこか穏やかな過去の一幕だった。もちろん、彼女が育った環境が過酷を極めたものであったことは想像に難くないが、それでも彼女が身につけたその技術は、思いがけないものだった。
「へえ……! 乎鞠が薬を作ったり、料理をしたりするんだね。すごいな、僕、薬の調合なんて全然分からないや」
ゼノは純粋な感嘆の声を漏らし、パッと表情を輝かせた。
「いつかさ、乎鞠の作ったご飯、僕にも食べさせてよ。すっごく美味しそうだな」
その言葉を聞いた瞬間、乎鞠の頬にふわっと綺麗な朱色が広がった。
自分が誰かに必要とされること、そして料理を褒められることが初めてだったのか、乎鞠は胸がいっぱいになりながらも、照れくさそうに、しかし嬉しそうにこくんと大きく頷いた。
「うん……! こ、今度……いっぱい、作るね……!」
そのあどけなくも愛らしい笑顔に、ゼノは胸を撃ち抜かれたように頬を染め、レックスはそんな二人の姿を眩しそうに見つめながら、静かに目を細めて微笑むのだった。




