第二十一話 家族|執事の心に灯った火
レックスは、目の前で繰り広げられている光景をぼんやりと眺めながら、胸の奥が熱くなるのを覚えていた。
彼には、最初から「親」という存在がなかった。
記憶の始まりは血生臭い闘技場か、あるいは荒涼とした魔界の深い闇か。初代魔王の気まぐれとも実験ともつかぬ強大な魔術によって、彼は魔界に巣食う最も凶暴な魔獣の肉体に、人のような理性と形を与えられただけの「生体兵器」、あるいは「物」として生み出された。
心など不要とされ、ただ主の命ずるままに刃を振るい、殺し合うだけの人生。自分に血の繋がった家族などできるはずもないと、心のどこかで諦めていた。
――だが、今、目の前に広がっているこの光景は一体なんだろう。
自分を「レックス」と呼び、温かく迎え入れてくれる愛しい若様――ゼノがいる。
そして、その隣には、傷だらけでボロボロだったはずが、まるで奇跡のように愛らしい表情でスプーンを動かす、守るべき小さな少女――いや、この瞬間、レックスの胸の中でも確信に変わっていた。
これはもう、護衛や従者といった枠組みを超えている。まるで、かけがえのない「愛しい娘」だ。
二人が他愛のない言葉を交わし、笑い合いながら食事を共にするテーブル。その穏やかな輪の中に、かつて「魔獣の成れの果て」「道具」でしかなかった自分が、自然と招き入れられている。
(これが……家族、というものなのだろうか……)
レックスは自分のスプーンを持つ手がわずかに震えているのに気づき、慌てて視線を皿に落とした。
胸にこみ上げてくる熱いものが何なのか、名前はわからない。けれど、かつて冷え切っていたはずの彼の胸のうちは、今、形容しがたいほどの幸福感と、この平穏を何としても守り抜くという熱い忠誠心で満たされていた。




