第十七話 融解|少女の心を少年が溶かして行く
「友達」――その響きを耳にした瞬間、乎鞠の胸の奥で何かが堰を切ったように溢れ出した。
言葉すら紡げず、ただぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら、乎鞠は咽び泣いた。
生まれてこの方、「友達」なんてできたことが一度もなかった。同じ年頃の子供たちからは、理由も分からず石を投げられて痛めつけられるか、薄汚い化物だと罵声を浴びせられることしかなかった。温かい言葉をかけられることも、対等に向き合ってもらうことも、乎鞠にとっては夢のまた夢だった。
(……私に、友達が……できる、の……?)
震える細い肩を激しく揺らし、自分のシャツの袖で必死に涙を拭おうとする姿に、ゼノの胸が締め付けられるように痛んだ。
これほどまでに小さく、傷だらけの少女が背負ってきた過去がどれほど過酷だったのか。言葉にしなくても、その怯えた涙がすべてを物語っていた。
(……この子は、何も聞かなくていい。これ以上、過去の痛みを無理に掘り起こしたりはしない……)
ゼノは瞬時にそう悟ると、あぐらをかいていた姿勢からスッと立ち上がり、ベッドの上の乎鞠へと迷いなく駆け寄った。 そして、その小さな体を包み込むように、そっと優しく力強く抱きしめた。
「もう大丈夫だよ……。泣かないで、乎鞠」
ゼノの胸元から伝わる体温は、これまで冷え切っていた乎鞠の心と体をじんわりと温めていく。
冷酷な魔界に生まれ、過酷な運命を背負う第二王子と、世界から拒絶され傷ついてきた異世界の少女。 小さなベッドの上で、二人の温もりがそっと重なり合うのだった。




