第十五話 見惚|女神降臨
汚れや血がすっかり洗い流され、ゼノのぶかぶかとしたシャツをまとった乎鞠の姿――。
そこに現れたのは、息を呑むほどに神秘的で、言葉を失うような圧倒的な美しさだった。
頭部には、白銀の膝下まで届くほどの長さを誇る、ほんのりとウェーブがかった美しい髪。それはどこか光を纏っているかのようにきらめき、まるで古の神話に登場する「伝説の龍の髭」を思わせる高貴な輝きを放っている。
その白銀の髪の隙間から、額の両脇には、ちょこんと愛らしく、しかし確かに神聖な気配を宿した小さな巻き角が生えていた。
雪のように滑らかで透き通るような白い肌に、対比するように際立つ、吸い込まれそうに深く鮮烈な金色の瞳。
泥にまみれ、ボロボロだった時には隠されていたその姿は、人間でも、魔族でも、あるいは聖界の住人ですらなく――この世のどこにも存在しないはずの、完全な神秘の結晶だった。
部屋の空気が、まるで彼女の美しさに当てられたかのように静まり返る。
ゼノは目を丸くしたまま言葉を失い、あの百戦錬磨の剣豪レックスすらも、小さく息を呑んでその場に固まっていた。
「……すご……」
ゼノは、目の前に座る少女があまりにも世離れした美しさを放っていることに気圧されながらも、どこか見とれたようにぽつりと呟いた。
「これじゃあ、あの衣が強力な加護を纏っていた理由も頷けますな……。見たところ、ただの人間や魔族の血ではない。……いや、それ以上の、この世界全体の理すら超越した存在のようです」
レックスも驚きを隠せない様子で、髭を撫でながら低い声でそう分析した。 自分たちがどれほどとんでもない少女をこの城に連れ帰ってしまったのかを、改めて痛感する二人だった。
そんな周囲の圧倒された視線に気づいたのか、乎鞠は恥ずかしそうに白銀の髪を揺らしながら、ぶかぶかのシャツの裾をキュッと小さく握りしめた。
「はぅ……っ……」
その少し怯えたような、けれどどこか愛らしい仕草に、ゼノはハッと我に返る。
(危ない危ない……! 兄者や、万が一にも父上にこんな姿を見られたら、それこそ一発レッドカードだ……!)
ゼノはキュッと気を引き締めると、乎鞠を安心させるように優しく微笑みかけ、胸を張って言った。
「大丈夫だよ、乎鞠。外の人には絶対に秘密にするし、僕がこの部屋でしっかり守ってあげるからね!」




