第十一話 変態|紳士の計らい
レックスは、ぽつんと一人残されてガタガタと震えている乎鞠の姿を見て、どうにかして安心させられないものかと頭を悩ませていた。
いかつい男社会の荒波で生きてきた彼にとって、こうしたか弱く傷ついた子供への接し方は勝手が分からない。だが、せめてこの極限の恐怖と痛みを少しでも和らげてやりたいと思ったのだろう。
レックスは不器用な動作で足元にしゃがみ込み、生い茂る草花の中から一輪の野花をそっと摘み取った。そして、強面の顔をできる限り柔らかくほころばせ、乎鞠の目の前へとその花を差し出した――まさにその時だった。
「――ただいま!」
風を切る音と共に、たった今飛び立ったばかりのゼノが、猛スピードで舞い戻ってきたのだ。
目の前の光景に、ゼノはピタリと動きを止めた。
強面の大男が、全身傷だらけの幼い少女の前に片膝をつき、愛しい人でも見るような真剣な眼差しで花を捧げ持っている。
――それはどう見ても、騎士が姫君に愛を誓うプロポーズの瞬間にしか見えなかった。
ゼノはジトっとした白い目を向けながら、ドン引きしたようなトーンで突っ込む。
「……レックス。いったい、何してるの……?」
「っ……!? ち、違いますゼノ様! これは誤解でっ!」
普段は気高い剣豪であり執事であるレックスが、人生で一度も経験したことのないほどの強烈な気まずさと恥ずかしさに顔を真っ赤に染め、盛大にどもりながらガタガタと体を揺らした。乎鞠もまた、予想外の展開についていけず、ぽかんと目を見開くばかりだった。
「もう、変なところで変なことしないでよ」
ゼノは呆れたようにため息をつくと、すぐに真剣な表情に戻り、手際よく自分の目的を果たそうとした。 ゼノが手に持っていたのは、深い紫色をした魔界猪の毛皮だった。なんと、ゼノはほんの一瞬の間に周辺を飛び回り、その巨獣を自らの手で仕留めて剥ぎ取ってきたのだ。流石は魔界の第二王子、伊達に強い血を引いていない。
「これで、あの服の光る魔力も隠せるはずだよ」
ゼノは手際よくその温かな毛皮で乎鞠の体をふわりと包み込み、神々しい衣の光と気配をすっぽりと覆い隠した。これなら、城の門をくぐっても誰も怪しまないだろう。
「よし、これで大丈夫。城へ行こう」
ゼノは再び、折れた足を優しくかばうように乎鞠を大事そうにお姫様抱っこした。 先ほどのレックスの「プロポーズ事件」で少しだけ張り詰めていた空気が和らぎ、乎鞠の胸にあった恐怖もほんの少しだけ薄れていた。
レックスは恥ずかしさを紛らわせるように咳払いをして姿勢を正すと、二人の護衛をするように大きく漆黒の翼を広げた。 こうして三人は、誰にも見つからないよう夜空を蹴り、ゼノの待つ王城へと飛び立っていくのだった。




