↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『「俺の前では、ただの女の子でいい」――孤独な天才産婦人科医は、絶望する彼女のすべてを守りたい』  作者: 優涼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/19

第15話 命の鼓動と、変わらぬ愛


1. 安定期と、愛おしい丸み


つわりの嵐が去り、季節は穏やかな秋から冬へと差し掛かっていた。


莉菜の妊娠は無事に16週――いわゆる「安定期(妊娠5ヶ月)」を迎えていた。


かつて子宮腺筋症の手術を受けた「術後子宮」というリスクを抱えていた莉菜だったが、主治医である高峰一樹の定期健診でも経過はきわめて良好。


経過観察のエコーでも、赤ちゃんは順調すぎるほどすくすくと育っていた。


「――莉菜、寒くはないかい? 足元を冷やすのが一番良くない。このオーガニックコットンのブランケットを使いなさい」


日曜日の午後。陽光が差し込むリビングで、英治が過保護な手つきで莉菜に膝掛けをかけた。


「ふふ、英治さん、ありがとうございます。でも私、妊婦健診でも『血流も完璧です』って高峰先生に太鼓判押されたんですよ?」


「高峰がどう言おうと、俺の診察(目)は誤魔化せないよ。……ほら、おいで」


英治はソファに腰掛けると、莉菜を自分の膝の上に優しく招き入れた。


ゆったりとしたマタニティドレスを身にまとった莉菜。そのお腹は、妊娠5ヶ月を迎えてぽっこりと愛らしく丸みを帯び始めていた。


英治は温かく大きな手を、莉菜の丸いお腹の上に優しく添えた。


「……大きくなったね。ここに、俺たちの赤ちゃんが生きているんだな」


「はい。最近、なんだか食欲もすごくて……ちょっと太っちゃったかなって、便秘気味でもあるし心配なんですけど……」


莉菜が少し照れくさそうに俯くと、英治は彼女の顎を指先でクイと持ち上げ、柔らかい唇に優しくキスを落とした。


「何を言っているんだい。今の君は、出会ったどの瞬間よりも綺麗で、神々しいよ。ふっくらとした君の体も、丸みを帯びたお腹も……すべてが俺にとって愛おしくてたまらないんだ」


「英治さん……っ」


ストレートで甘すぎる大人の言葉に、莉菜の頬がポッと赤く染まった。


「それに、妊娠中の便秘はより自然なものだよ。妊娠初期は黄体ホルモンの分泌量が増えたり、つわりによる影響が大きいな。莉菜はもう妊娠中期に入ってきてるから、黄体ホルモンだけではなく、運動不足や鉄剤の影響もあるかもしれないな。」


「ちょっ、英治さんっ。」


「酸化マグネシウムもいいが、より安全なのはモビコールだな。水に溶かして飲むタイプで、溶かした水をそのまま便まで届かせることができるんだ。小児から使えて、妊婦にもエビデンスがある安全な薬剤だよ。塩化ナトリウムが入ってるから少ししょっぱいが、まあ便秘に効くポカリスウェットと思えば...」


「英治さん、ストップ!もうわかりましたっ!恥ずかしいですし、家なのに診察受けてるみたい...」


「はっ、すまない。つい。」


先程の恥ずかしさとは別の恥ずかしさで、莉菜は頬を赤くした。


2. 初めての「胎動」――手から伝わる命


その日の夜。


入浴を済ませ、ベッドの中で二人は身体を寄せ合っていた。


英治はいつものように、莉菜の背後から包み込むように抱きしめ、服越しにお腹を優しく撫でていた。


「英治さん、病院のお仕事、忙しいのに……毎日私のためにご飯作ってくれて、ありがとうございます」


「当たり前のことだ。君と赤ちゃんのために尽くすことが、今の俺の生き甲斐なんだからね。……ん?」


ふいに、英治の手がピタリと止まった。


莉菜のお腹の奥で――コクン、と小さな、水泡が弾けるような可愛らしい衝撃が走ったのだ。


「あ……っ!」


莉菜が息を呑むと同時に、英治も目を見開いた。


「り、莉菜……今のは……!?」


「胎動……です! 赤ちゃん、動きました……っ!」


「あ……あぁ……っ!」


英治はお腹に当てた手にぐっと力を込め、その感触を確かめるように耳をお腹に押し当てた。


すると再び、ぽこん!と、今度ははっきりとした元気なキックが英治の頬に伝わってきた。


「動いた……! 生きて……俺の手を、蹴っている……っ!」


あの冷静沈着な天才名医が、まるで無邪気な少年のように目を輝かせ、声を弾ませている。


「莉菜……聞こえるよ、力強い鼓動が……! 君の命が、俺の手の中で力強く育っている……!」


「はい……! パパの手が温かいから、喜んでるのかもしれません」


英治は顔を上げると、感動に震える瞳で莉菜を見つめ、彼女のおでこや頬、唇に何度も何度も誓いのキスを刻んだ。


「ありがとう……莉菜。俺を父親にしてくれて……この感動を与えてくれて……本当にありがとう!」


3. 妊娠中の愛の確かめ合い(R15)


胎動の感動が冷めやらぬまま、部屋の中にはどこか熱っぽく甘い空気が満ちていた。


「英治さん……?」


英治の眼差しが、いつもの「優しいパパ・主治医」から、一人の「莉菜を求める男」の光へと変化していた。


彼の大きな手が、マタニティ用のスリープウェアのボタンをひとつずつ、丁寧に解いていく。


「莉菜……安定期に入った。高峰からも『体調に問題がなければ、夫婦の営みも無理のない範囲で可』と許可をもらっている」


「あ……っ、高峰先生にそんなこと聞いたんですか……!?」


「当然だ。俺は夫だからね。……莉菜、ずっと我慢させてごめんね。今夜は……君を抱いてもいいかい?」


英治の低いバリトンボイスが、莉菜の耳元で甘く響く。


妊娠して豊満さを増した莉菜の胸や、丸みを帯びた腰つきを、英治の手が慈しむように優しく愛撫していく。


「英治さん……私、身体が変わっちゃったから……恥ずかしくて……」


「恥ずかしがる必要なんてどこにもない。今の君は、俺の愛を全身で受けて輝いているんだ。……愛しているよ、莉菜」


英治は莉菜のお腹に負担がかからないよう、優しく横から抱きしめる姿勢を取り、彼女のからだを気遣いながら、愛おしそうに自身の熱を滑り込ませた。


「ああぁっ……! 英治さん……っ! 温かい……っ!」


「莉菜……っ! 負担はないかい? 痛くはないか?」


「はい……っ、全然……っ! すごく、気持ちいい……英治さんの愛が、いっぱい伝わってきます……っ!」


ゆっくりと、しかし確実に刻まれる甘い愛の交わり。


術後の恐怖も、妊娠の不安もすべて溶かしていくように、英治は夜が明けるまで、莉菜への無限の愛を身体中で注ぎ続けたのだった。


4. 安産祈願と、膨らむ未来


週末。


二人は安産祈願で有名な神社を訪れていた。

初冬の澄んだ空気の中、莉菜は絵馬に願い事を書き込んでいた。


『元気な赤ちゃんが無事に生まれてきますように。英治さんと三人で、幸せな家族になれますように』


隣で絵馬を吊るす英治を見上げると、彼も真剣な表情で絵馬を結び終えたところだった。


「英治さんは、なんて書いたんですか?」


「内緒だよ。……まあ、『妻と子の命を、俺の全存在をかけて守る』と書いたのだがね」


「ふふ、英治さんらしいです」


神社からの帰り道、二人は仲良く手を繋いで歩いた。


ポケットの中で重なる二人の手、そして左手の薬指に輝く指輪。


「莉菜。お腹の赤ちゃん、男の子と女の子、どちらだと思う?」


「うーん……どっちでも嬉しいですけど、英治さんに似たかっこいい男の子か、英治さんに甘えられる女の子がいいな」


「どちらでも、君に似て優しく強い子に育ってくれれば、俺はそれだけで十分だよ」


英治は莉菜の肩を抱き寄せ、優しく微笑んだ。


つわりを乗り越え、安定期を迎え、順風満帆に見える二人のマタニティライフ。


しかし、妊娠後期に向け――「術後子宮」ゆえの、避けられない医療的試練が、静かに二人の前に近づこうとしていた。


それでも、二人なら絶対に乗り越えられる。


命の芽生えから、感動の「誕生」へ向けて、物語は進んでいくのだった。



(第15話・了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。