第13話 科学的な愛と、芽生えた奇跡
1. 産婦人科医(夫)の過保護な妊活スケジュール
「――莉菜、基礎体温計のデータ転送は終わったかい?」
妊活解禁から一ヶ月が経った、ある土曜日の朝。
宮本家のダイニングテーブルには、ノートパソコンを開いた英治と、すっぴんにパジャマ姿の莉菜が向かい合っていた。
画面に表示されているのは、英治が独自に作成した「宮本莉菜・排卵周期&コンディション管理シート」。
基礎体温の推移グラフ、LHサージ(排卵検査薬)の数値、食事の栄養素計算、さらには莉菜のストレス度合いまでが、完璧なグラフとなって可視化されていた。
「え、えーっと……スマホアプリで同期したから、今英治さんのパソコンに届いてると思うけど……」
「うん、確認したよ。素晴らしいね。今月の低温期は非常に安定している。基礎体温の二相性も美しい。……よし、計算通り、今月の排卵予定日は『明後日の月曜日』だ」
英治は眼鏡のブリッジをクイッと押し上げ、真面目な顔で宣言した。
「というわけで、今夜から火曜日にかけて、隔日でタイミングを取る。莉菜、今週末の予定はすべてキャンセルして、俺と一緒に家でじっくり静養兼『妊活』に集中しよう」
「えぇぇっ!? か、隔日って……! 英治さん、言い方がすごく臨床的だよ~っ!」
顔を真っ赤にしてポカポカと英治の胸を叩く莉菜。
だが英治は、そんな莉菜の手を優しく捕まえると、愛おしそうにその甲にキスをした。
「臨床的で結構。俺は君の主治医であり、夫だからね。……科学的なアプローチと、男としての情熱。その両方を駆使して、確実に君に赤ちゃんを授けてみせるよ」
「もう……英治さんのバカ……っ」
呆れつつも、自分と未来の赤ちゃんのためにここまで真剣になってくれる英治の姿に、莉菜の胸は温かい愛おしさで満たされていくのだった。
2. 情熱のタイミング法(R15)
その日の夜。
部屋の照明は極限まで落とされ、間接照明の柔らかな琥珀色の光が、寝室を優しく包み込んでいた。
「英治さん……なんだか、すごく緊張しちゃいます……」
ベッドの上、シルクのナイトウェアを着た莉菜が、照れくさそうに上目遣いで英治を見つめる。
英治は普段の白衣でもスーツでもなく、黒のVネックTシャツ姿だ。鍛え抜かれた胸筋と鎖骨が覗き、大人の男の色気が溢れ出している。
「緊張する必要はないよ、莉菜。……排卵日だからといって『作業』にするつもりは一切ない。俺がしたいのは、君への愛を注ぐことだけだ」
英治はゆっくりと莉菜の上に覆いかぶさり、その細い首筋に優しいキスを落とした。
指先がナイトウェアの紐を解き、彼女の柔らかな肌を撫で上げていく。
「あ……んっ……英治さん……っ」
「子宮の血流を良くすることが、受精と着床には一番効果的だ。だから……今夜はいつも以上に、君を気持ちよくしてあげるよ」
「んぁっ……! もう、またそういうお医者さんみたいなこと言う……っ!」
英治の長くて器用な指先が、莉菜の敏感な場所を優しく、しかし正確に愛撫していく。
ジエノゲストの治療を終え、健全な女性ホルモンに満ちた莉菜の身体は、英治の愛撫に素直に反応し、すぐに蜜の滴を溢れ出させた。
「見なさい、莉菜。君の身体はこんなにも俺を求めている。素晴らしい状態だ……」
「英治さん……お願い……焦らさないで、入ってきて……っ」
莉菜が潤んだ瞳で懇願すると、英治は低い甘い吐息を漏らし、彼女の脚を大きく広げた。
そして、自身の熱く巨大なモノを、彼女の子宮口をノックするように、ゆっくりと、しかし奥深くへと貫いていった。
「あぁぁぁぁっ……! 英治さんっ……! 奥まで……届いてる……っ!」
「莉菜……っ! 俺の愛を受け取ってくれ……! 君と一緒に、新しい家族を作るんだ……!」
甘く、情熱的な夜。
科学的な計算を超えた、二人の命と魂の深いつながりが、何度も甘い絶頂となって二人を包み込んだ。
3. 訪れた異変と、小さなサイン
タイミングを取ってから、約三週間後。
デザイン会社のデスクでパソコンに向かっていた莉菜は、ふいに強い目眩と吐き気に襲われた。
「くっ……う……っ」
口元を押さえて給湯室へ駆け込む莉菜。
水道の水で口をすすぎ、鏡に映る自分の顔を見る。どこか顔色が白く、胸が張ってチクチクとした痛みを感じていた。
(あれ……? 今月、生理の予定日を3日過ぎてる……)
以前の子宮腺筋症の時のように、鈍い激痛があるわけではない。
代わりに感じるのは、お腹の奥がじわーっと温かいような、不思議な感覚。
(もしかして……まさか……!?)
莉菜は会社からの帰り道、ドラッグストアに飛び込み、妊娠検査薬を買い求めた。
マンションに戻ると、英治が帰宅する前に、震える手でトイレへと向かった。
指定された時間を待つ、数十秒間。
心臓が破裂しそうなほど速く鼓動する。
「神様……英治さん……お願い……っ!」
そうっと目を開け、小さなスティックの窓を覗き込んだ。
そこには――
はっきりとした、鮮やかな「陽性(+)」の紫色のラインが浮かび上がっていた。
「あ……あぁ……っ!!」
莉菜はその場に泣き崩れた。
かつて「子宮全摘」の恐怖に怯え、絶望していた自分が。
英治と出会い、彼の神業のような手術で子宮を守られ、そして今、彼の命をその子宮の中に宿すことができたのだ。
4. 奇跡の報告と、涙の誓い
ガチャリ。
「莉菜、ただいま。遅くなってごめん――」
夜8時。
当直明けから一度帰宅した英治が、玄関の扉を開けた。
リビングに入ると、そこにはテーブルにぽつんと座り、目元を真っ赤にした莉菜がいた。
「莉菜!? どうしたんだい、体調でも悪いのか!?」
英治は慌てて駆け寄り、莉菜の肩を抱きしめた。
「英治さん……っ……これ……見てください……っ」
莉菜は涙で濡れた手で、小さなリボンを巻きつけた箱を英治に手渡した。
英治が怪しみながら箱のフタを開けると、そこには一本の妊娠検査薬――くっきりと「陽性」の出たスティックと、小さなメッセージカードが入っていた。
『英治さん、私をお母さんにしてくれてありがとう。二人の赤ちゃんが、お腹にきてくれました』
「……っ!?」
あの「天才産婦人科医」としてどんな修羅場でも冷静さを崩さなかった宮本英治が、目を見開き、固まった。
「莉菜……これ、は……本当に……?」
「はい……! 今日、検査薬をやったら、陽性が出ました……! 私たち、パパとママになるんです、英治さん……っ!」
「あ……あぁ……っ!」
次の瞬間、英治は莉菜を壊れ物でも扱うかのように、しかし力強く抱きしめた。
彼の目から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出し、莉菜の肩を濡らした。
「ありがとう……莉菜……! ありがとう……っ! 君が……君が俺に、最高の奇跡をくれた……!」
「英治さん、泣かないで……っ」
「泣かずにいられるか……! 医師として、夫として……これ以上の喜びはないよ……!」
英治は莉菜のお腹にそっと大きな手を当て、そこに確かに存在する小さな命を感じ取るように、何度も何度も愛おしそうに撫でた。
「莉菜。これからの十ヶ月間……俺の医師としての人生のすべてをかけて、君とこの子を守り抜く。絶対につわりも、リスクも、俺が全部支えてみせるからね」
「はい……っ! ふたりで、元気に生みましょうね、英治さん!」
絶望の淵から始まった二人の物語は、ついに「新しい命の誕生」という最高の奇跡へと結びついたのだった。
(第13話・了)




