第10話 指輪の誓いと、真実の家族
1. 平穏の戻った日常と、ひとつの決意
後藤龍路が懲戒解雇に近い形で会社を去り、病院では嶺町雫が別の関連病院へと人事異動となった。
二人の間に立ちはだかっていた「影」が完全に消え去り、莉菜と宮本英治の日常には、穏やかで甘い時間が戻っていた。
週末の午後。
英治のマンションの明るいリビングで、莉菜はエプロン姿でキッチンに立っていた。
術後の体調も完全に安定し、肌には健康的なツヤが戻り、笑顔が増えた莉菜。
その姿を、ダイニングテーブルでコーヒーを傾けながら愛おしそうに見つめる英治がいた。
「莉菜」
「はい? どうしたんですか、英治さん?」
ふいに名前を呼ばれ、莉菜が振り返ると、英治は静かに立ち上がり、莉菜の元へと歩み寄った。
彼の右手には、小さな紺色のスエードの箱が握られていた。
「え……? それ……」
「開けてごらん」
英治が優しく微笑み、箱を莉菜の手に渡す。
震える指先でリボンを解き、フタを開けると――そこには、初夏の陽光を反射して眩しく輝く、プラチナのシンプルなダイヤモンドリングが収められていた。
内側には、二人のイニシャルと、小さな誕生石が埋め込まれている。
「英治、さん……これって……」
「ずっと考えていたんだ。君を病気から救ったあの日から……いや、君が泣きながら俺の手を握り返してくれたあの日から」
英治は莉菜の左手を取り、その薬指に、サイズもあつらえたようにピッタリの指輪を静かに滑り込ませた。
「莉菜。俺は46歳で、バツイチで、君より20年も長く生きている。医師としての仕事ばかりで、プライベートでは不器用な男だ。……だけど、君のこれからの人生のすべてを、俺に預けてくれないだろうか。君の子宮を守ったように、君のこれからの笑顔も、未来も、命の限り俺が守り続ける。……俺と、結婚してください」
「英治さん……っ……!」
絶望の淵で出会った、白衣の名医。
冷たかった自分の人生を、その大きくて温かい手で救い上げてくれた唯一無二の男。
莉菜の目から、溢れ出す涙が止まらない。
「はい……! はいっ……! 私、英治さんの奥さんになりたいです……! 私のすべてを、英治さんに捧げます……っ!」
莉菜が抱きつくと、英治はその細い身体をギュッと力強く抱きしめ、何度も彼女の髪や頬に愛おしいキスを重ねた。
2. 20歳差の壁、両親との対峙
プロポーズから二週間後。
二人は、莉菜の実家がある埼玉の閑静な住宅街を訪れていた。
「英治さん……大丈夫ですか? すごく緊張していらっしゃいますけど……」
タクシーを降りたところで、莉菜が英治の顔を覗き込む。
仕立ての良い最高級のダークスーツに身を包んだ英治は、背筋をピンと伸ばし、普段の手術前のそれ以上に張り詰めた表情をしていた。
「……当たり前だろう。これまで数千件の手術をこなしてきたが、こんなに緊張するのは人生で初めてだ。君のご両親に、20歳も年上の男が娘さんをくださいとお願いしに行くんだからね」
苦笑いする英治だが、その瞳には強い覚悟が宿っていた。
玄関のドアが開き、莉菜の父親(52歳)と母親(50歳)が出迎えた。
父親は大手メーカーの勤め人で、真面目で頑固な人柄だ。
リビングに通され、お茶が運ばれてきた後、室内には重苦しい沈黙が流れた。
父親は、目の前に座る英治を、品定めするようにじっと見つめた。
「……宮本さん、とおっしゃいましたね。莉菜から話は聞いています。莉菜の命を救ってくださった主治医の先生だと。……まずは、娘を助けていただいたこと、心から感謝いたします」
父親は深く頭を下げた。しかし、すぐに顔を上げ、表情を硬くした。
「ですが……『結婚したい』というのは、どういうことですか? あなたは46歳、莉菜は26歳だ。年の差は20歳もある。失礼ですが、ご離婚の経験もおありだとか。……親として、素直に喜べる話ではありません」
「お父さん、やめてよ! 英治さんは本当に素敵な人で――」
莉菜が思わずかばおうと立ち上がりかけたが、英治が静かに手を挙げて莉菜を制した。
「莉菜さん、いいんだ」
英治はゆっくりとソファから立ち上がると、床に直接正座をし、ご両親に向かって深く頭を下げた。
「お父様、お母様。おっしゃる通りです。私は莉菜さんより20歳も年上であり、一度家庭に失敗した過去もあります。ご両親がご心配されるのは、当然のことです」
「英治さん……」
英治は頭を上げた。その眼差しは、まっすぐに父親の瞳を射抜いていた。
「私は医師として、莉菜さんの『子宮腺筋症』という酷い病気と向き合いました。一歩間違えれば、彼女は子宮を失い、女性としての将来に絶望していたかもしれない。……しかし、彼女は逃げなかった。私の治療を信じ、苦しい副作用に耐え、見事に病気を克服してくれたのです」
英治の声に、熱い感情が宿っていく。
「彼女のその強さと美しさに、私は医師としてだけでなく、一人の男として心を奪われました。……私が彼女を愛したのは、彼女が患者だったからではありません。小石川莉菜という一人の女性が、私の人生にとってかけがえのない存在になったからです」
英治は、懐から一枚のカルテの写しと、自室で準備してきた「今後の人生設計書」を取り出し、テーブルの上に置いた。
「私は、彼女より早く老いていくでしょう。だからこそ、彼女が将来何不自由なく暮らせるだけの経済的基盤を整え、健康管理を徹底し、彼女がもし新しい命(子供)を望むのであれば、産婦人科医としてのすべての知識と技術をかけて、全力でサポートします。……彼女の残りの人生のすべてを、幸せにすることを誓います。どうか……莉菜さんを、私にください」
頭を床に擦り付けるようにして深く下げる英治。
大学病院の准教授であり、神業を持つ名医と呼ばれる男が、娘のためにプライドを捨て、なりふり構わず頭を下げている。
その真摯すぎる姿に、父親の頑なだった表情が、徐々に崩れていった。
「……宮本先生。頭を上げてください」
父親は深いため息をつき、静かに言った。
「莉菜が入院していた時、電話で毎日のように『宮本先生が優しくしてくれる』『先生のおかげで怖くない』と話していました。……あんなに怯えていた娘が、あなたと出会ってから、本当に強く、綺麗になった。……娘がこれほどまでに信頼し、愛している人だ。私に、断る理由なんて最初からなかったのかもしれません」
父親は照れくさそうに目を細め、英治に向かって手を差し出した。
「……不器用な娘ですが、どうかよろしくお願いします、宮本さん」
「……っ! ありがとうございます……! 必ず、幸せにします!」
英治は父親の手を強く握り返した。
横で見ていた母親も涙を浮かべて拍手をし、莉菜は英治の肩に抱きついて涙を流したのだった。
3. 永遠を誓う夜(R15)
実家からの帰り道。
夜空には満天の星が輝いていた。
二人は英治のマンションに戻り、静かな部屋の中でワイングラスを傾けていた。
ご両親からの許しを得て、晴れて「婚約者」となった二人。
「英治さん……今日、本当にかっこよかった」
莉菜が英治の膝の上にちょこんと座り、彼の首に腕を回す。
「ふぅ……生きた心地がしなかったよ。手術室の百倍緊張した」
英治はふっと表情を緩め、莉菜のウエストを抱き寄せた。
「でも、お父様に認めていただけて本当によかった。これで堂々と、君を『俺の妻』と呼べる」
英治の低い声が、莉菜の耳元で甘く囁く。
彼の大きな手が、莉菜のサマーワンピースのジッパーをゆっくりと下ろしていく。
「英治さん……んっ……」
「莉菜。今夜は……本当の意味で、君を俺のものにしたい」
白衣を脱ぎ、両親の前で見せた誠実な仮面も脱ぎ捨てた英治の瞳には、男としての激しい情欲が宿っていた。
彼は莉菜をソファの上に押し倒し、その濡れた唇を深く、深く奪った。
「んむ……っ、あ……英治、さん……っ」
舌が熱く絡み合い、互いの体温が跳ね上がっていく。
英治の手が莉菜の胸元を優しく肌蹴させ、術後の傷跡に、そしてふっくらとした乳房へと伸びる。
彼の長くて器用な指先が先端を優しく摘み、転がすたびに、莉菜の口から甘い歓喜の悲鳴が上がった。
「あぁぁっ……すごい……気持ちいい……っ!」
「莉菜……君の子宮も、心も、未来も……全部俺のものだ」
英治は莉菜の服をすべて脱がせると、完全に回復し、愛おしさに満ち溢れた彼女の秘められた場所へと、自身の熱く硬いモノを、ゆっくりと、しかし確かな存在感で根元まで挿入した。
「あぁぁぁぁっ……! 英治さん……! 入ってきた……っ!」
「莉菜……っ! 愛している……永遠に、君だけを愛する……!」
深く、激しく重ね合わされる腰の打撃。
莉菜の子宮は、彼を運命のパートナーとして強く受け入れ、キュウキュウと締め付けながら、二人は何度も同時に甘い絶頂の波へと呑み込まれていったのだった。
4. 次なるステージへの予兆
それから数ヶ月後。
二人は静かで温かい挙式を執り行い、正式に夫婦となった。
小石川莉菜は、「宮本莉菜」となり、英治との甘くて幸せな新婚生活をスタートさせた。
そして、物語は新たなステージへと進んでいく。
完治した子宮、そして30代を前にした莉菜の中に芽生える「英治さんとの子供がほしい」という切なる願い。
しかし、46歳という英治の年齢、そして一度腺筋症の手術を受けた子宮での「妊娠・出産(高齢・リスク妊婦)」という、新たな医療の壁が二人の前に立ちはだかる。
産婦人科医としての冷静なリスク管理と、夫としての愛の間で揺れる英治。
そして、二人の幸せな新婚生活を温かく(時にちょっと意地悪に)見守る新たな登場人物たち――。
二人で手を取り合い、さらなる深い愛と未来を紡いでいく物語が、ここから始まろうとしていた。
(第10話・第1章完結 / 第11話へ続く)
<あとがき>
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