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Case.3 ── ダイヤの原石 ──

負傷したアンジーは部隊にメディックが必要なことを悟り、アンジーと共にリクルートへ赴く。

一方その頃ルフィナは膝上切断の後遺症とリハビリに苦しんでいた……

ルフィナ・P・スノフスカヤはCLAWを裏切ったニーナ・カルミアによって膝上切断になる重傷を負わされた。


傷口が完全に塞がるまでに丸二ヶ月を要した上、デスウィッシャーの台頭によってリハビリの予約すらマトモに取れない状態であり、九ヶ月経った現在でも車椅子を手放すことができない。


更に追い打ちをかけるようにCLAWでの会計仕事が山積みとなり、再び歩くという希望がどんどん遠ざかっていく日々に彼女は苛立ちを募らせ続けていた。


「ル゛ルフィナ゛ァ゛……は、激しすぎるって゛ぇっ!゛」


カルラはもう既に半日ほどルフィナと性行為を続けているが、会うのはかなり久しぶりでいつもよりも一層激しく過激だった。


──ようやく勇気を振り出して同性婚を行ったにも関わらず、毎日会うことができない焦がれた苛立ち。


腕を丸ごと挿入されて下半身を耕され、よだれも涙も鼻水も垂らしてただカルラは吠えることしかできなくなっていた。


その一方でルフィナはただひたすら頭に血が上って、自分のオーガズムよりもカルラを壊すことに夢中になってしまっていた。


外陰部も肛門も手首を丸ごと入れられぐちゃぐちゃにされたカルラを見てひたすらうっとりとし、自分の強烈なサディズムを満たし続けた。


「やめて゛!……もうやめて゛!」


カルラは今より一時間ほど前からずっとセーフサインをルフィナに送っていたが、全く反応してもらえない状態にいた。もう既に合計70回はルフィナに絶頂させられている。


これ以上やれば命に関わると感じ、ついに限界になってしまったカルラは行為中にルフィナを力づくで押し退けると、ベッドから倒れて冷たい地面に横たわった。


「なんでやめるんですの!まだまだこれからなのに!」とルフィナは怒り心頭でカルラに大声を浴びせた。


「わかんない、わかんないよ……!でも、これ以上やったら死ぬって思った。何度もサインを出したのに反応してもらえなかった!一体どうしちゃったの……!」


「カルラに何日も会えなかったからですわ!わたくしがどれだけ欲求不満だったかわかりますの!」


「だとしてもだよ!今まではある程度で満足してた!でも最近のルフィナはずっと私のことを突いてばっかり!キスも前戯もない!それに首絞めやアナルにフィストまで手を出すようになった!……ホントに一体どうしちゃったの!……もういい、ちょっと距離を置かせて……お願いだから……」


そういうとカルラは早々と服に着替えて部屋を出ていった。


ルフィナはそれを必死に追いかけようとするが、ベッドを降りた途端に〝自分の足が無い〟ことに気づくと、地面に顔面を激突させ鈍い痛みが走る。


「待って……待ってくださいまし……カルラ、カルラ……いかないで……わたくしを置いていかないでくださいまし……見捨てないで……見捨てないで……」


ルフィナは必死に光の先に手を伸ばすが、バタンと音が鳴ると周りは薄暗い景色に戻る。


そして少し経った頃に足の切断部の耐え難い痒みと満足に体重を支えることができない苦痛にもだえ苦しむ。


「かゆ゛い……かゆ゛い゛っ……!いたい゛っ!……なんで、なんでぇ、なんでこんな目に……カルラ、助けて……なんで行っちゃうのっ、お願いだから!」


まるで玩具を買ってもらえない子供かの如く地面を這いながら泣き叫ぶが、その声は誰にも届かない。


するとルフィナの携帯に一通の通知が届く。


それはシバサンのインスタグラムの通知であり、写真を開くと楽しそうに新婚生活を送る二人の写真が収めらていた。


ルフィナは苛立ちの衝動を抑えられなくなると、壁に投げつけて液晶を叩き割った。


そして薄暗い部屋の中でただひたすらにずっと泣き続けた。






「よし、よし、いけいけ!」


タイラーはアンジーと共にモータルコンバットを遊んでいた。


互いにコマンドはマトモに覚えておらず、ただひたすらに適当にボタンを押して殴り合うという状態だったが、それでも楽しい時間だった。


タイラーが操作していたサブ・ゼロがアンジーの操作していたライデンの脊髄を引き抜いて断末魔がこだますると試合は終わった。


「よし、また勝ったぞ!やっぱり相棒は格ゲー苦手なんだな!」とタイラーが煽ると、アンジーは降参というばかりに白旗を振った。


「……なぁ、人数は着実に増えて仕事の役割分担もできるようになった。ただ、前と比べると腕が立つ奴は減っちまった。お陰で怪我する奴も増えた。私も含めてな。次に必要なのは……メディックだと思う。」


そういうとアンジーは手元の封筒から一枚の書類を取り出してタイラーに見せた。


「ガルシア・ヨシュア。警察病院で働いてた医師の一人。真面目で成績優秀だし、戦術救急医療の資格を持ってるからSWATでメディックとして従事してた経歴がある。犯罪歴どころか違反歴すらない真っ白な奴さ。」


「そんな成績優秀な奴がなんで不良警官リストなんかに?」


「ああ……それがな……ええと、コイツが師事してた医師が問題だった。覚えてるか?クリストハルト・シェーンコプフだ。」


「はぁ!?」


クリストハルト・シェーンコプフは警察病院の非常に優秀な医者で、様々な革新的技術を生み出した権威であったが、その実態は常軌を逸するほど喉に対して執着する猟奇殺人機であり、シバサンの夫であるナギサ・ハヤセを襲い強姦殺人未遂を行った末に射殺された人物であった。


その話は一気に世間へと広まると警察病院には凄まじいバッシングが浴びせられるに至り、話にどんどん陰謀論者によって尾びれが付けられていくと、クリストハルトを師事していたガルシアはペドフィリアの食人鬼であるという噂を広められてしまい、病院を停職処分にさせられたのだ。


「なんか可哀そうな奴だな……シバサンと会ったら気まずい関係になりそうだ。」


「私はコイツなんていいんじゃないかと思う。カイリン・リェン。こいつの経歴は凄いぞ……」


アンジーはカイリンの経歴を読んでいると、そこは驚きの連続であった。


17歳の頃に士官候補生としてアメリカ海軍へと入隊、艦載機であったシコルスキー社製のMH-60Rシーホークのパイロットとして3年従事。その後アメリカ海軍特殊部隊であるNavy SEALsへ志願し、入隊後にティア1部隊であったSEALIONsに衛生兵として移籍し、戦地で命がけで仲間を救った功績により名誉勲章を授与。


しかし、少佐に昇進した28歳になって突然軍を除隊、今度はアニマル市警へと入隊するとSWATチームの一員となり、それと同時並行で州兵グリーンベレーの試験も突破していた。


「こ、こんなダイヤそのものな人材がいるなんて……」とアンジーは言葉を漏らす。


しかし、あくまでも彼女は〝不良警官リスト〟の一員。


履歴の最後の項目でアメリカの英雄とも言える彼女の経歴が全てが台無しになっていた。


「え~、2026年に公然猥褻で二度逮捕。今年になってもう一度真昼間に公園で全裸で自慰行為を行い、公然わいせつで逮捕されて名誉勲章を剥奪……自宅謹慎処分……なんじゃあ、こりゃ!」


「まあ……優秀な反動で物凄いアブノーマルなヤツってことなんだろ……多分。でも、だからこそウチに合う人材なんじゃないかと思ってな。」


「ま、まぁ確かに信頼はできそうだな……できるか?」


二人が話を終えて再度モータルコンバットに勤しもうとすると、何やら物ありげにチェルシーが現れグーグルスライドで作ったであろう車両作成に関する計画書類を手渡した。


「あーえー……日産・NV3500パッセンジャーをベースとしたCLAW簡易移動指令所?」


「そうや。この街中やとグルカは目立ってしゃーない。それに通報が来て出るにも遅すぎる。だから早い話覆面装甲車が必要なんや無いかと思ってな。一般車に紛れ込んで街中で待機、警察無線を仕込んで通報を聞きつけたら直ぐに現地に~ってな感じや。」


「今みたいな状況下だからこそ必要な車だな。そうだな……名前は〝ベルベットⅡ〟なんてどうだ?イカしてるだろ。」


「なんでベルベットなんや?」


「その昔、私たちが長いこと使い倒したグルカがあったんだ。防弾ガラスは何度も砕け散り、衝突を繰り返して最後はフレームが歪んでぶっ壊れた。そのマシーンの名前がベルベット・カスタムだったのさ。心臓だけは今も他所で生きてるがな。まあわかった。警部に書類を提出しておく。」


「わかったわ。お願いやから頼むで~!」






ルフィナは久しぶりの休日の朝に頭痛と酷い喉の渇きで目を覚ますと、昨日の晩にあのまま泣きつかれて地面で眠ったことを思い出した。


ずっと硬い地面に振れて圧された体は嫌に痛み、髪は痛んで自分の身の回りのことができていないことを実感した。


ふと立ち上がろうとするとまたしても地面へと転落してしまう。


自分の足がないことに九ヶ月経った今でもなれることができていない。


それどころか、治療の間にトレーニングをする時間も確保できなかったためにテーブルの上にある水の入ったピッチャーにすら重力を感じ、ふと腹部を見てみると腹筋は消えて膨れていた。


ベッドに張ってなんとか座り、コップに入れた水を飲むと壁に叩きつけられ液晶が飛び散ったスマホを見て顔を手で覆いながらため息をついて自己嫌悪に陥る。


そしてほっと息をつくがその瞬間に今日が待ちに待ったリハビリの日であることに気づくと、身だしなみも気にせずに車椅子を手早く漕いでフロントに電話を借り、タクシーを呼び出してアニマル市警の警察病院へと向かう。


エル・アルテサーノによる大規模テロによって、ルフィナ以外にも多くの警官が破片や残骸に巻き込まれて身体の一部を失ってしまった。


それに現在の混乱が合わさってリハビリの時間が取れるのは奇跡に等しい状態だった。


「始めまして。僕はガルシア・ヨシュアと言います。ルフィナさんのリハビリのお手伝いをさせていただきます。よろしくお願いします。」


ガルシアと名乗る理学療法士は丁寧にルフィナへ挨拶すると、義足を取り付ける手伝いをし始めた。


皮膚が盛り上がってピンク色の桃のような形になってしまった膝上を清潔な布巾で綺麗にした後、ライナーというシリコン製のクッション材を取り付ける。


ライナーは足先に触れた瞬間は驚くほど冷たいが、次第に体温と一体になっていく。


このライナーに触れる瞬間は痒みを和らげてくれるため、苛立ちの中にある束の間の至福の時であると言える。


その後ライナーを皮膚でソケットにピンが入るまで押し込むと、その瞬間に患部に少し痛みが入る。


手すりを持ちながら軽く大腿部に体重をかけて義足がズレないかをチェックして立ち上がり、調整ネジを細かく回しながら最終調整を行った。


そして手すりを伝いながら一歩、また一歩と歩を進めていく。


「ゆっくりでいいですよ。焦っちゃいけません。そーっと、そーっと。」


当たり前ではあるが健在の部分は全く違和感なく歩けるのに対し、義足の部分に自分の体重を預けるとまるで椅子引きの如く途端にバランスが崩れてしまう。


──故に一歩目はどうしても〝躊躇って〟しまう。


最悪なのは立ち上がる段階で既に衰えた義足側の筋力を使い尽くしていることにあり、歩いているように動いてはいるが実際のところはバランスを保ちながらただ手すりを伝っているだけに等しく、その気持ちが焦りを加速させていく。


しかもその歩みはまるで遅く、今までウサギだったのがいきなり亀になったような気持ちに襲われる。


たかだか数歩程度の往復をしただけで全身は滝のように汗だらけになり、患部から噴き出した汗はまるで耳元で鳴り続ける蚊の羽音が如く苛立ちを募らせる。


更には義足を付けた患部の皮脂と汗に雑菌が増殖し、近づくとかなり強めのアンモニア臭が漂う。


車椅子で休憩を取ると隣の患者が見事に手すり無しで立ち上がり、別の理学療法士の「いい感じですよ!その調子です!はい、1、2!」という元気な掛け声が聴こえてくる様は苦痛でしかなく、奥歯を強く噛み締め耐えるほか無かった。


その患者がバランスを崩して倒れそうになると、少し嬉しくなってしまう気持ちが嫌で仕方なかった。


自分も負けていられないと手すりを持って立ち上がり、ガルシアの指示を無視して走るように動くと次の一歩を義足側で踏みしめることができたが、その瞬間に幻肢痛に襲われてバランスを崩すと地面に真っ逆さまに落下した。


「ダメですよそれじゃ!僕が指示をしてるのはこんな風に怪我しないようにするためなんですよ!隣の人が手摺りなしで歩けたからといって焦らないでください!スピードというものがありますから。」


ルフィナはガルシアの手を掴みながら、何故厳しい特殊部隊の訓練に耐えられた自分がただ立ち上がるためだけにここまで苦労しないといけないのかと苦しい気持ちで一杯になった。


──あの時ニーナなんか相手にしなければ良かった。


その後悔がルフィナの心優しい心を一層ささくれ立たせるが、その一方で心の中でニーナを救えなかったことに対する公開もまた彼女を苦しめた。


そんな時だった。リハビリ施設の扉に見知った顔の二人が入ってきた。


「君がガルシア・ヨシュアか?って、ルフィナもいるじゃないか。」


焼けた浅黒い肌をしたドイツ系の医者はキョトンとした顔で不思議そうに応対する。


「ええと、あなた方は……?」


「アニマル市警のタイラー・ナイトウッドとアンジリーナ・アレクサンドロヴナ・アントノワだ。単刀直入に言うんだが今部隊のメディックを探してる。そこで……君が候補に挙がった。」


「確かにアニマル市警のSWATで一時期メディックを務めてましたが……一応言っておきますが僕はあくまで戦術救急医療の資格を持ってるだけで警察官じゃありません。理学療法士を兼任してる外科医です。射撃だって苦手だ。」


「そんなことは重々承知さ。お前みたいな腕の立つ医者が今後絶対必要になると考えてるから口説いてるんだ。それに、お前今無給で働いてるだろ。」


アンジーがそういうとガルシアは図星であるかのように動揺した。


「殺人鬼クリストハルト・シェーンコプフに師事したが、彼の死後にメディアで大きく叩かれ話に尾びれがついていくと、やがて自身もペドフィリアのカニバリズム野郎と罵倒され非難を浴び停職……それでも折れずにボランティアで仕事をしてる。」


「──……ッ!先生のことを殺人鬼と呼ぶなッ!」とガルシアは叫ぶと、アンジーの胸倉を掴んで睨んだが、ハッとした顔になると直ぐに手を離した。


「……僕は、クリストハルト先生に12歳の頃に命を救われたんです。神経の一部が傷つき、足の大動脈が破裂して酷い出血だった……それでもクリストハルト先生は僕の足を綺麗に直してリハビリにも付き合ってくれた……それがキッカケで外科医も理学療法士も両方目指そうと思って今までの人生を歩んできた。だから……あの事件は本当に……」


「お前が何も悪くないのはわかってる。私だってそうだ……警部に無茶ぶりされて気が付いたらこんな遠くまで来てしまった……なあ、お前も救える命は救いたいだろ?今の街じゃ殉職する警官の数は増えてばかりだ。それどころか今は犯罪者が市民に殺される状態だ……これを食い止める為にも力を貸してほしい。」


そんな会話を続けている中、一人置いて行かれたルフィナは更に焦りを募らせていた。


つい一年前までは毎日のようにドアを蹴り上げていた自分が、今は警察官ですらない人間にすらCLAWでの居場所を奪われそうになっている。


──自分はもう必要とされていないのではないか。


という気持ちが心の中にぐるぐると纏わりついて離れなかった。


やがてルフィナの瞳から一粒の涙が溢れると、衝動に駆られて諦めの言葉が不意に出た。


「も……もういいですわ……リハビリなんてっ!」


そうルフィナは叫ぶと車椅子のホイールに手をかけその場から逃げようと必死になった。


「お、おい待てよルフィナ!」


「わたくしなんてもうCLAWに必要ないんですわ!結局もう立ち上がることなんてできないんですわ……!」


「おい待て、そんなこと私たちは一言も言ってないだろっ!お前が必要ないなんてそんなこと滅多に言うもんじゃない!それにお前にはカルラがいるじゃないか!」


「カルラは……私と距離を置くと言いましたわ……結局、誰もわたくしのことなんて助けてくれないんですの……見てくださいまし……この有様を……きゃっ!」


ルフィナは手すりも無しに無理矢理立ち上がろうとすると、その場から転んで地面に顔をぶつけた。


「やめろって!」


地面に鼻血が垂れ、鈍い痛みに襲われるが自暴自棄になったルフィナはその場で何度も立ち上がっては転ぶを繰り返した。


──その様はまるで翼をもがれた蝶のようであった。


自傷行為を行うように何度も体を地面にぶつけ、やがてルフィナの体は青痣だらけになってしまった。


しかしその鈍い痛みを感じたところで所詮は逃げ道の一つでしかなかった。


「……やっぱりダメですわぁ……わたくしは……もう二度と……」


顔中を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして泣き崩れたルフィナにガルシアはそっと手を差し伸べた。


「……僕もそういうの経験あるんですよ。昔は陸上競技をよくやってたんです。でも、怪我のせいで半年はマトモに立ち上がることができなかった。凄く焦りました。周りの皆がどんどん結果を残していく中で僕はベッドで寝そべることしかできなかったわけですから。貴女のように僕も何度も転んで体を痣だらけにしてリハビリに励みました。」


ガルシアはルフィナの手を掴むとそのまま楽な態勢をキープしたまま車椅子へと運ぶと話を続けた。


「人間、やっぱり立ち直るまでが一番苦しいんですよ。心の病も体の病も。でも、立ち直れた時にあの時耐え抜いておいてよかったって心底思う。大丈夫、貴女はきっと立ち直れます。僕だって今はどん底……だからこそ、一緒に這い上がりましょう。」


ガルシアが優しい言葉を掛けると、ルフィナも落ち着いたのか泣き止んで静かに返事を返した。


「お二人ともお待たせしてすみません。とりあえず事情はわかりました。ただし条件があります。犯罪者であろうが無かろうが死にかけていたら治療をさせてください。それが条件です。命は等しく平等で尊い……できる限りのことはさせて欲しいんです。」


「わかった。約束しよう。この後時間が出来たらブルドッグウェイにあるアニマル市警の旧署まで来てくれ。住所はココに書いてある。」


「わかりました。それではルフィナさんのリハビリの続きをするので話はこの辺で切り上げて貰えないでしょうか?ここ最近は中々時間が取れないもので。」


「ああ、わかった。ルフィナ……上手く言葉が出なくて月並みな表現しかできないが……頑張ったな。いつでも私たちはお前を待ってる。また美味い紅茶を淹れてくれよな!」


そう言葉をかけた二人はリハビリ施設を後にすると、もう一人の候補のリクルートへと向かった。






パンダモニカ・ピアはアニマルシティでも屈指の観光名所として知られる場所である。


特に桟橋の上に位置するパシフィック・パークにある観覧車はある種のアイコンとして知られている。


一年前は水着の美女とボディビルダーたちが肌を焼いている姿を拝むことができたが、今はその面影はまるでなくパシフィック・パークも休業し続けている状態ですっかり寂れてしまっていた。


アンジーのゴルフから降りたタイラーはその光景を見てなんだか感慨深い気持ちになると、電子タバコをふかして物思いにふけった。


そしてあたりを見回していると体にタトゥーの入った女が一糸も纏わぬ姿でビーチを散歩していた。


「……本当にいた……ヌーディストビーチじゃないってのに……」


タイラーとアンジーはそのままビーチへと降りると全裸の人物へと声を掛けた。


「あー……えぇと……カイリン・リェンさん?」


すると、全裸の女は太陽に照らされながら背伸びをして二人に振り返る。


「もっと……私を見て。」


「ああ、違うんです、そういうわけじゃなくて……」


カイリンは頬を赤らめながら意図的にいやらしい動きをすると、二人は頭を抱えて話し合った。


「おい、想像以上に頭おかしい奴じゃねえか!どうすんだよ……」


「でも写真と顔が一致してるから本人で間違いはないんだよ!」


「えぇ……」


二人は咳払いをしてもう一度改まると再度カイリンへ話しかけた。


「えー、アニマル市警SWATに所属してるカイリン・リェン四等巡査ですね?」


するとカイリンはニヤリと笑い「真面目な話は後で……お姉さんと一緒に楽しまない……?」と答えた。


そういうとカイリンは自分の胸を揉みしだいて二人を誘惑するが、平常心を保ちながら話を続けた。


「ヘリパイロットにして元海軍特殊部隊のメディックで生きながら名誉勲章まで授与され、現役でアニマル市警のSWATと州兵のグリーンベレーを兼任している傑物……言うなれば〝ピンクダイヤ〟か。あんたみたいな化け物がウチには必要なんだ……CLAWにな。今の街の惨状は十二分にわかってるはずだ。」


「……そのおかげでこうやって全てをさらけ出しても怒られないから……」


「ともかく、優秀な人材が必要だ。そうだ、人がいっぱいいるところで露出した方が興奮するだろ!」


「相棒ってそういう趣味があるんだ……」


「違う誤解だ馬鹿やめろ!」


「うん……一理あるかも。じゃあ、そこに入ったら全てをさらけ出しても?」


「何もさらけ出すな!とにかく服を着ろ!手錠掛けられたいのか!」


「持ってきてない……散歩して来たから……」


二人はピンクダイヤのあまりのつかみどころの無さに頭を抱えた。


「もういい、わかった。さらけ出そうが好きにしろ!ただCLAWに入るか入らないか!二つに一つ今決めてくれ!給料は元より多く出す!」


「お金、あんまり困ってない。そうだ、じゃあこの場でみんなで楽しいことするのが条件ってどう?」


「え、いや……さ、流石に親友とするのは……こう、違うだろ……!」とアンジーは漏らすが、ピンクダイヤは真顔で「じゃあ、私とだけは約束してくれる?」と返し、腕をがっちりと掴むとひたすら瞳を合わせ続けた。


アンジーはその圧に耐えきれなくなると、諦めの言葉を漏らした。


「……クソ、わかったよ……やればいいんだろっ!相棒……車に戻っててくれ……見るなよ絶対……」


「えぇ……いいのかそれで……」


「やった、嬉しい。」


ピンクダイヤは手を叩きながらアンジーは着ていた服をゆっくりと脱ぎ始めた。


布が擦れる音でテンションが上がったのかピンクダイヤはウキウキとした表情をして生き生きとしている。


だが、アンジーがエドウィナによって数日前に付けられた掌底による寸勁の傷跡を見ると途端に表情が一変して途端に真顔になった。


「……この傷どこで?」


「……抉られた。ジークンドーさ。」


「……エドウィナ・ブライトバーンにやられた?」


「知っているのか……!?」


「同じ部隊だった。Navy SEALIONsでもアニマル市警でも。……途中で左遷されたとかでいなくなったけど。」


「私たちは今コイツを追ってる。ネットに〝エイデン〟と名乗ってアニマル市警の秘密をリークし、私の友達も殺した。何より……私もかつてはエドウィナと同じ部隊だったからな。お前の言う〝左遷先〟で。」


「……わかった。じゃあ手伝う。その代わり、私が好き勝手脱ぐことに口出ししないでね。」


「ああ……わかった。」


ピンクダイヤに差し伸べられた手を取り、アンジーはゴルフの元へと戻った。


「ああ、相棒……随分と早かったんだな。それで……シたんだな?うん。」


「シてねえよ!神に誓ってヤってねえからな!!!」






三人が本部へと到着すると服を着せる為にロッカーへと連れていくが、そこではCLAWのメンバーの奇異の目があった。


「あ、おかえ……タイラーさん、この女なんで全裸なんですか?」


「ああ、これにはいろいろと事情が……」


「三人で……少し楽しいことしたの……」とピンクダイヤが嘯くと、ルースの表情が豹変した。


「な……なんて……言いましたか……?」


「三人で……少し楽しいこと。」


「はぁ……はぁ……こ……この……この泥棒猫が……許さん、許さんぞ貴様っ!」


狂乱のルースは立てかけていた戦術盾を取ってピンクダイヤへと振り下ろすが、アッサリと回避されると、そのまま唇を奪われた。


「なっ……!タ、タイラーさんのために取っておいた私のファーストキス……こ、これじゃタイラーさんのお婿に行けない……」


「初めてのキス、奪っちゃったね。大人のこともっと知りたい?」と顎を持ち上げると、ルースは今まで見たことないほどに赤面した。


壁に盾がぶつかった音を聞きつけて他のメンバーがやってくるも、その光景に皆が「何故彼女が全裸なのか?」と問う事態になった。


「これが私らしさ……今まで色んなことをやってきたけれど、これが一番自分らしく居られる……」と唇を艶めかせながら、うっとりとした表情で呟くと周りにいるCLAWのクルー全員があきれ果てた。


「ああ……ええと、サイズ合いそうなユニフォームがあったけど……着てくれない?」


「任務じゃなきゃ絶対着ない。」


あまりにも真っすぐな目で着衣を拒否するその様に根負けしたタイラーはユニフォームを仕舞って彼女をここへ呼んだことを酷く後悔した。


しばらく経つと警察病院の医者であるガルシアがCLAW本部へと訪れた。


「え、ええと……すいません……始めまして……て、なんで裸なんですかっ!服を、服を着てください!」とガルシアは自分の目を手で覆った。


「あら?イケメン……お姉さんと楽しいことしない……?」


「もういい、気にするな。目を向けようが向けまいがあっちは興奮してくるんだ。リンボーダンスしようが誘ってこようが無いものと思え。」


「は……はぁ……」


「まぁいい……おい、みんな聞け!この二人が新入りのガルシア・ヨシュアとカイリン・リェンだ。二人ともメディックとして超一流。助けてほしかったら仲良くするんだ。それからまともな銃を持ってない新入りたちには私がチョイスした新しい銃を用意したから各自射撃場で使い方を覚えろ!」


アンジーはそういうと新入りたちを射撃場へと誘導する。


するとそこには複数の新品のポリマーの香りがするペリカンケースが複数鎮座していた。


チェルシーの名前が書かれたペリカンケースにはマキシムディフェンス・PDXとキンバー・KDS9Cが入っていた。


「ウチ、銃の使い方は正直全く自信ないねん……車のパーツなら何でもわかるんやけど、これはどれがどうとかよーわからんわ~。」


「戦闘経験がほとんどないことを見越して弾がデカくて短い奴を用意したんだ。それからピストルも引き金が軽い高品質な9mm仕様の1911クローンだ。お前がオーストラリアから持ってきたピストルは酷いもんだ。固着してスライドが動かなかったぞ。」


「だってちっちゃいのバラすと直せんくなるし……ま、ええわ。」


チェルシーはPDXに7.62×39mm弾の入ったマガジンを装填してチャージングハンドルを引くと、慎重に照準を定めて引き金を引いた。


その瞬間想定していたよりも強烈な反動と共に弾が的へと発射されると、チェルシーは思わず銃を落としそうになった。


「な、なんやこれ、反動強すぎるわ!」


「それが制御できるように練習しろってことさ。」


「なんやねんそれ……」


その隣ではガルシアがストライクインダストリーズ製のシャーシキットが組み込まれたFN・P90をまじまじと見つめていた。


「ああ、すいません。この銃はどこにマガジンがあってどこがマガジンキャッチボタンなんですか?AR-15の教練は受けているんですがそれ以外からっきしで……」


「マガジンは上部分についてる半透明の奴だ。後ろに付いてるでっぱりがマガジンキャッチボタンさ。」


「ええと、こう構えればいいんですかね?」


とガルシアは言うと前後逆にP90を構え、アンジーは慌てて正しい姿勢での構え方をレクチャーした。


「なんというか、体にフィットする感じがしていいですね。重くも無いですし。」


「人間工学に基づいて設計されてるからな。それに弾薬も五十発入る。5.7mm弾は貫通力が高いから身を守るには十分だ。」


そんな素人向けの説明をしてる隣でピンクダイヤは黙々と自身に与えられた銃器を撃ち続けていた。


まるで反動が存在しないかの如く軽やかに射撃を行い、撃った弾の一部はワンホールで着弾するという腕前でアンジーは呆気に取られた。


「流石にプロ中のプロは違うな……動きから何から何まで手慣れてる……裸なのがちょっと気になるけどな。」


引き金を引いている最中のピンクダイヤは数分前の淫乱さとは異なり、ずっと無表情でまるで掃除をこなすかの如く冷静沈着だった。


20発の射撃を終えて弾倉を抜き、目にも止まらぬ速さでスライドを二回引いて安全を確認するとピストルを置いた。


「釈迦に説法かもしれないが、それはタランタクティカル・ヴァイパーピストルだ。ちょっと背伸びしちまって危ない橋を渡ったガンマニアから頂戴した。アンタみたいなプロにはちょうどいいだろ?」


「確実な信頼性があればそれ以外は些細な問題。トリガープルがどうとかグリップの握りやすさがどうとかを気にする余裕があったら引き金を引くべき。」


「ワオ、プロらしい素晴らしいごもっともな意見だな。裸だから全く説得力ないけど……」


するとピンクダイヤはハッとした表情をしてヴァイパーピストルのスライドストップを外し、スライドを抜き取ってバレルとリコイルスプリングを外すと、アイオンボンドでカッパーカラーになった美しいバレルを取り外した。


「今日はこれを入れてシてもいい?」とピンクダイヤは尋ねると、アンジーは呆れて「好きにしろ!」と返してその場を後にした。


するとピンクダイヤは突然ガルシアの元へと向かうと、彼の肩に顎を乗せた。


「ひぇっ、なんですか!」


「腰が引けすぎ……もっとちゃんと脱力して……姿勢よく……」


ガルシアの背中に二つの巨峰がぶつかると途端に頬を赤らめていく。


「あ、あのあの、あ、あ、当たってるんですが……」


「……?当ててるけど?」


全裸の女が背中にまとわりついている状態でマトモに射撃をこなせるはずもなく、集中力を無くしたガルシアはその場を立ち去ろうとするが、ピンクダイヤがそれを許さない。


「……ねえ、お姉さんと楽しいことしない?」


「え、え!?楽しいってそんなっ、駄目です今日が初対面なのにっ!」


するとピンクダイヤは艶めかしい手つきでガルシアの腰に手を回す。


「男の子が大好きなこと……一緒にしたいな♡」


「……え!?な、何を、何をするっていうんですか!?」


「一緒に来て……」



数分後アニマルシティの街中にフェラーリ・849テスタロッサの3990cc・V型8気筒ツインターボエンジンの爆音が響いた。

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