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悪役令嬢は消耗しない  作者: 南蛇井


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第九話 改革開始

王宮は、

静かに荒れていた。


 


「聞きましたか? 例の改革案」


「業務記録を義務化するらしいぞ」


「正気か?」


 


廊下のあちこちで、

そんな囁きが飛び交っている。


 


レティシア・ヴァレンフォール

が提出した改革案は、

当然のように嫌われていた。


 


「冷酷」

「現場を知らない」

「理想論」


評判は最悪だ。


 


だが。


 


北部飢饉対応で、

実際に官僚が倒れた。


その事実が重かった。


 


完全否決にはできない。


少なくとも、

“何かしなければならない”

という空気だけは生まれていた。


 


結果。


 


限定的な試験導入が決まる。


 


・業務記録


・引き継ぎ表


・労働時間記録


 


まずは一部部署のみ。


小さな改革。


 


だが。


 


王宮にとっては、

革命に等しかった。


 


 


「誰が何をやってるか書けだと!?」


 


朝一番から、

財務局で怒声が響く。


 


初老のベテラン官僚が、

新しい記録用紙を見て顔を真っ赤にしていた。


 


「そんな暇があるなら仕事を進めるべきだろう!」


「ですが記録がないと引き継ぎが――」


若手官僚が恐る恐る言う。


 


「引き継ぎは見て覚えるものだ!」


 


周囲が気まずそうに黙る。


 


別の部署ではさらに混乱していた。


 


「担当者名を書け?」


「いや、ずっと“いつもの担当”で回してたので……」


「“いつもの担当”は誰です?」


「……え?」


 


地獄だった。


 


今まで。


 


頭の中。


暗黙知。


根性。


 


それだけで回っていたのである。


 


レティシアは各部署を巡回しながら、

淡々と状況を確認していた。


 


「こちらの決裁経路は?」


「た、多分、副局長です」


「“多分”では困ります」


 


「輸送管理担当は?」


「現在確認中で……」


「確認中?」


「本人しかわからなくて……本日休暇を……」


 


レティシアは静かに額を押さえた。


 


想像以上に酷い。


 


というより。


 


今までよくこれで国家運営できていたわね……?


 


ほとんどホラーである。


 


その時、

廊下の向こうで若い官僚の声が聞こえた。


 


「逆に今まで記録なかったんですか……?」


 


場が静まる。


 


ベテランたちが、

微妙な顔で彼を見る。


 


若手官僚は本気で驚いていた。


「いや、普通必要では……?」


 


世代差だった。


 


若い世代ほど、

改革に順応が早い。


 


逆に古参ほど、


“経験と根性で回す”


文化が身体に染みついている。


 


「最近の若い奴らは」


「すぐ仕組みに頼ろうとする」


「苦労が足りん」


 


そんな声も聞こえる。


 


しかし同時に。


 


「……でも、記録あると楽ですね」


「引き継ぎ早いな」


「前任者いなくても確認できる……」


 


小さな変化も、

少しずつ起き始めていた。


 


 


夕方。


 


レティシアの執務室には、

大量の苦情書類が積み上がっていた。


 


「記録作業で時間が取られる」


「現場負担増大」


「官僚への不信ではないか」


 


文句。


批判。


抗議。


 


山のようだ。


 


レティシアは無言で読み続ける。


 


目が疲れる。


肩が重い。


頭痛もする。


 


でも。


 


彼女は一枚の書類で手を止めた。


 


『引き継ぎ表のおかげで、本日初めて定時帰宅が可能となった』


 


短い報告だった。


 


レティシアはしばらくそれを見つめる。


 


それから、

机いっぱいの苦情書類へ視線を移した。


 


そして小さく呟く。


 


「……効いてるわね」


 


その声には、

ほんの少しだけ満足感が混じっていた。

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― 新着の感想 ―
 根性と忍耐に優れてるらしい大先輩方、怒鳴る元気あるなら潰れた若手の仕事手伝ってあげてよ。結局は責任取りたくないから押しつけて、文句つけてるんでしょう?
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