表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は消耗しない  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/41

第十話 引き継げない仕事

改革開始から一週間。


 


王宮は、

新たな混乱へ突入していた。


 


「……待ってください」


財務局の若手官僚が、

引き継ぎ表を前に固まる。


 


「この業務、説明できる人います?」


 


沈黙。


 


部屋の空気が止まる。


 


「ええと……」


「前任者がやっていたはずだ」


「資料は?」


「ない」


 


嫌な予感が広がった。


 


 


問題が発覚したのは、

業務分担を進めた瞬間だった。


 


“誰も説明できない仕事”


が、

大量に存在していたのである。


 


レティシア・ヴァレンフォール

は額を押さえた。


 


「……嘘でしょう?」


 


だが現実だった。


 


「こちらの書類ですが」


官僚が恐る恐る差し出す。


 


『王都東門鐘楼保守確認補助申請』


 


レティシアは眉をひそめる。


「何のための書類?」


「わかりません」


「誰が作ったの?」


「昔からあるそうです」


「提出先は?」


「不明です」


 


怖い。


 


宮廷ホラーである。


 


別部署ではさらに酷かった。


 


「この決裁、誰の承認が必要です?」


「たぶん副局長かと」


「“たぶん”?」


「昔から口頭で……」


 


口頭。


 


レティシアは静かに天を仰いだ。


 


今までよく国家運営できていたわね本当に。


 


 


午後。


 


王宮西棟の仮設整理室。


資料の山の中で、

カイル・エヴァンス

が淡々と書類を分類していた。


 


「不要」


「不明」


「責任者不在」


「目的不明」


 


恐ろしい速度で仕分けされていく。


 


レティシアは机へ突っ伏した。


「頭が痛い……」


 


「正常な反応です」


カイルは淡々と言う。


 


彼は一枚の古い書類を持ち上げた。


 


「こちら、“春季貴族馬車通行証簡易確認書”」


「何の用途です?」


「誰も知りません」


 


沈黙。


 


カイルは無表情のまま続ける。


「発行だけ三十年継続」


「恐怖でしょう?」


レティシアは真顔で返した。


 


彼は小さく頷く。


 


「つまり、“前任者がやってたから”で数十年続いてると」


「ええ。しかも皆、必要だと思い込んでいる」


 


思考停止。


慣習化。


属人化。


 


王宮には、

そういうものが山ほどあった。


 


「こちらは?」


カイルが別書類を示す。


 


『北部倉庫鍵管理補助記録』


 


「鍵管理記録?」


「ええ」


「現在も使われている?」


「いえ」


「ではなぜ継続?」


「誰もわからないそうです」


 


レティシアは静かに机へ額をぶつけた。


 


ごん。


 


「大丈夫ですか」


「大丈夫に見えます?」


 


珍しく投げやりだった。


 


だが、

これは笑い事ではない。


 


意味不明業務が積み重なれば、

本当に必要な仕事を圧迫する。


そして結局、

有能な人間へ負荷が集中する。


 


全部、

繋がっているのだ。


 


 


夕方。


 


レティシアたちは、

試験的にいくつかの業務停止を実施した。


 


・用途不明書類発行停止


・重複承認廃止


・慣習的確認作業停止


 


数日様子を見る。


 


そして。


 


何も起きなかった。


 


誰も困らない。


 


問い合わせも来ない。


 


存在を忘れられていた業務が、

大量に発覚したのである。


 


会議室。


官僚たちの顔色が微妙に青い。


 


「……これ、今まで何を」


「いや、必要だと思って」


「誰が始めたんだ……?」


 


レティシアは静かに資料を閉じた。


 


「“昔からある”は、理由になりません」


 


その言葉に、

皆が妙に気まずそうな顔をした。


 


だがカイルだけは、

少しだけ楽しそうだった。


 


「組織改革っぽくなってきましたね」


 


レティシアは疲れ切った目で彼を見る。


 


「嬉しそうですわね」


 


「ええ」


 


即答だった。


 


怖い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ