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もう奴隷すら信じれない  作者: もらもらいずん
12/13

12 ボロボロの夜明け



 酷い頭痛で目が覚める。

 ぐらんぐらん、と揺れる地面の上。

 その地面は、広い骨の上な訳だが。


 何だ、ここ……?

 そう思い、周りを見渡すと。


 夜が明け始めた空と、横へ横へと流れていく草原の大地。

 服だけがボロボロの俺の傍には、明ける日に照らされ、幻想的な雰囲気のフィスがいた。

 フィスが目を覚ました俺に気付く。


「あ、アザミ起きたんだね。おはよう」


「お、おう。おはよう……?」


「今は、アレイスターが出した召喚獣?ってのに乗って、逃げてる途中だよ」


「あ、ああ。あと、俺の傷って」


「アレイスターが治してたよ。服はどうにかしろって」


「そ、そうだな」


 状況が理解できずに、混乱しそうになる。


 取りあえず、前の出来事を整理しよう。

 ダークエルフの策に嵌められた後、俺は精神崩壊して無様に逃げて、フィスが吹っ飛ばされた場所に行きついた。

 その後、フィスと色々喋って、なんか詠唱して、気絶して……。


 今は、恐らくアレイスターが呼び出していた、アメノトリフネとかいう骨の何かの上だ。

 列車のように連なる骨の先頭には、アレイスターがいたのは横目で確認した。

 笑いながら、「おーい」とか言いながら手振って来やがった。


 そして、こうして俺とフィスが生きてるってことは、フィスがあの後ダークエルフに勝ったってことになる。

 ただのフィスの龍化じゃ、そんなのあり得ない。

 俺とフィスが交わした、あの『龍契(りゅうけい)』とやらが関係してると考えるのが普通だ。


「なぁ、フィス。お前あの後何したんだ? ドラゴニカ? とか言う言葉は聞こえたんだけど、それから記憶がない」


「うーん、今見せるのは難しい。でも、あいつは一発で殴って気絶させた。今はエリシアが見守ってる、ほらあっち。仕返しできて、すっきりした」


 一発でダークエルフを……?

 それも意味が分からない言葉だが、それ以上にエリシアが見守ってるってどういう……。


 フィスが指さした方向、骨列車の後方にはむすっとした顔のエリシアと、頑丈そうな縄と何かの魔術具で拘束されたまま気絶しているダークエルフがいた。


 こちらに気付いたエリシアが、怒鳴りながらこっちに来る。

 気絶してるダークエルフをずるずる引きずりながら。

 ああ、可哀そうに。


「アザミ貴様ァ! あの場面で喚き散らして逃げ出すとは何事だ! あの後フィスがこのダークエルフを殴り飛ばしたからいいものを、もしそうでなければ貴様の……!」


「エリシア止めて。あの戦いは、誰が悪いとかじゃない。さっきアザミのことは責めないって、約束したでしょ?」

「それに、最後に私がダークエルフを倒せたのは、アザミのおかげ。エリシアが口を出すことじゃない」


 怒気をはらんだ声でフィスが止める。

 ウッ、と言いとどまったエリシアがばつが悪そうに言う。


「……怒鳴って済まなかった、アザミ。無事に、目を、覚まして、ヨカッタ……」


 言葉尻がロボットのように、ぎこちなくなっていく。


 そんなに俺に気使うの嫌かよ、どこまで行ってもエリシアらしいな。

 改めて感じる日常に、思わず笑ってしまう。


「あはははははは!」


「な、何が可笑しい! 笑うな、おい!」


「いや、生きられたんだなって。なんか、安心しちゃってさ」


「うん!」「……そうか」


 そんな言葉の後、俺の顔をまじまじと見てくるフィスとエリシア。

 二人と交互に目が合う。

 どこかむず痒い感じだ。早く止めて欲しい。


 俺の顔をひとしきり見た後、二人がお互いに目を見合わせてから、言ってくる。


「アザミ」「お前」

「「明るくなった」な」


「は……?」


 俺が? 万年目付き悪、口悪、態度悪の三悪の俺がか?

 いやいや、あり得ない。

 この俺が、明るくなった?


「冗談よせお前ら。俺の感情はいつでも下向きだ。明るくなるなんて、天地がひっくり返ってもあり得ん」


「でもお前、このダークエルフから逃げる時に子供みたいに喚いて逃げてただろう。見てたぞ」


「私も、アザミの言葉は何となくは聞こえてた」


 前方から、声を張ったアレイスターが何か言ってくる。


「私もー、あの時にはもう起きてましたよー!」


「…………」



 脳内の情報を整理する。

 そして出た結論は。



「ふぅ……。よし、死ぬか」


 自死一択!


「……!?」「あ、おいアザミ!?」「あーあ」


 骨列車から飛び降りようと走り出そうとするが、全力でフィスに止められる。


 女に負けてたま、こいつ力強っ。

 どれだけもがいても、地面は近付いて来ない。

 このままじゃ、死ねないだろう。早く、早く死ななきゃ。

 じゃなきゃ。 



 恥ずかしすぎて、死ぬ。



 なんだよ、これ。

 死ぬ間際だからって、思うこと全部叫んだら、皆に聞かれてるって地獄かよ。

 無理無理無理。ほぼ狂乱状態だったけど、言ったこと大体覚えてるって。

 自分でもちょっとびっくりしてたもん、俺こんなこと思ってたんだって。

 思い出すだけで暴れ出したくなる。全員にそれ聞かれてたとか。

 これからどんな顔で接していけばいいんだ。折角生き残ったのに。


 てか俺、フィスの前でめっちゃ泣いたな。

 あーあーあー、全部消えろもう。

 ここじゃないどこかへ逃げ出してぇ……。




 暴れる俺の肩に、そっと手が置かれる。

 今までで見たこともないような優しい目で、エリシアが言った。


「今まで済まなかったなアザミ。お前がどれだけ苦しんでいたのかも知らずに、辛い態度になってしまっていた」

「だが」


 エリシアの語気が強くなる。



「奴隷を買うというのは違うだろう、お前はしっかりと他人を頼るべきだ」



 チッ。


 今までの嬉しさや恥ずかしさが嘘のようになくなり、頭が水を被ったかのように冷え切る。

 その言葉は、俺にとっての禁句だ。


「うるせぇんだよな、その一回同情してから言うのが鼻に付くわ。何か縛りがなきゃ、他人なんて信用できるか。今まで魔法を解いてたのは、俺が生きるために過ぎないんだよ」

「『俺に危害を加える全ての行為を禁止する。関節的なものも含めて全てだ』」


 エリシアみたいな人間は前にもいた。

 助けるふりはする、だがその助けは本当に意味の助けでなくて、いつも俺が騙されて終わる。

 エリシアが言った、他人を頼れ、ってのは、その頼った人間が悪人である可能性を排除してる。

 俺が、異世界から来た貴重な『流れ人』であるのに、だ。


「アザミ……」「貴様は、そうやって人を阻むんだな」


 二人の目線や言葉が少しだけ、胸に刺さる。


「何とでも言ってろ。俺はこういう生き方しか知らねぇ」

「お前らは、他人よりも少しだけ信用できる人間なだけだ。俺が人を信用した、これだけでも十分な進歩だろうが。人がそんなすぐに変わると思うなよ」

 

 悲しそうな顔でフィスが言ってくる。


「私は、アザミが何か抱えてるのは分かってたけど、アザミは自分の弱みは知られるの嫌かと思って、聞けなかった。でもあんなに苦しいなら、たまには私にも話してほしい。アザミは、この言葉も嫌かもしれないけど、私は待ってるから」

「一人じゃ、ないよ」


「……ああ」


 フィスの目は、どこまでも純粋なそれだった。

 ゆえに、俺の心にいつも通りのムカつきと、得体の知れない嬉しさが混在してしまう。

 

 自分が自分でなくなった気分だ。

 逃げ道を、誰かを頼ってみようなどと、思ったせいだろうか。

 クソクソクソっ。感情が上手く纏まってくれない。




 それからしばらくし、冷静になった頭を働かせる。

 フィスとエリシアは俺を(おもんばか)ってか、特に何かを言うことはなかった。

 そっちの方がありがたい。

 この気持ちに整理を付けるには、多少自由な時間が必要だろう。

 

 なら、今やれることは……。

 

 ああ、そうだ。アレイスターがいるじゃないか。

 あいつに色々質問してやろう。この世界は俺の知らないことが多すぎる。

 とりあえずなんか話してたら、気も紛れるだろ。


 アマノトリフネの先頭へと歩いていく。

 俺に気付いたアレイスターがこちらに振り向く。


「ん? どうかしましたか?」


「お前に聞きたいことが山ほどある」


「いいですよ、今は暇ですしね」 

 

「まず最初は……。そうだな、今はどこに向ってるんだ?」


「今は、国境を抜けてラヴィーナ帝国に向っていますね。行き先はレグリアという都市です。説明は?」


「いる」


「はい。レグリアは、剣闘士が賞金を懸けて戦う闘技場があることで有名な都市ですね。他にも、ラヴィーナ帝国の特色が、色濃く出ている場所とも言えるでしょうかね」


 剣闘士? 奴隷で興行をしてるのか? ヨグトじゃあり得ないことだが、それがラヴィーナ帝国の特色ということなのか?

 考えても仕方ないので、アレイスターに聞く。


「ラヴィーナ帝国とやらの特色を知らん」


「国の特色も知らないので、って貴方流れ人でしたね。通りで最初から何も知らない訳です」


 恐らく素で煽られた。

 こいつは普通の会話で人を苛立たせる才能がある。

 

 落ち着け俺。こんな奴に起こるだけ無駄だ。


「……特色はなn」


 バッ、とアレイスターの手が俺の言葉を遮る。

 こいつ……!


「待ってください。その前に貴方が言っていた報酬がまだではありませんか? つい忘れていましたが、思い出せば私のものですよ」


 普通に俺も忘れてた。

 ポーチにしている魔法の袋から、何重にも布に包んであるスマホを取り出す。


「ほら、俺の世界の超精密機械だ。それ一つで色々できるぞ、まぁこの世界じゃ持ってても意味ないけどな」


「この板がですかぁ? ふむ、見た目は美しいですが、これで何を……」


 アレイスターがべたべたとスマホを触るが、特に何の反応も起こらない。

 この世界では電源って概念もないのか。まぁそれもそうか。


 アレイスターからスマホを取り上げ、電源を付けて渡す。

 充電は48%だった。まだ使える。


 俺が電源を付けた時から、口を開けて固まっているアレイスターの手のひらに、スマホを置く。

 そのスマホを触るアレイスターが、一言。


「素晴らしい!!!」


 今までで一番の大声で叫ぶアレイスター。

 なんか目が血走っていた。


「アザミさん! これは何という名前なのですか!?」


「スマートフォン。スマホとも言う」


「このスマホは本当に凄い! もう何が凄いのか分からないほどですが、これに使われている技術、そのレベルの高さは十分に分かります! この薄い板は魔力で発光しているのではない! この中にある金属と微弱な電気が作用して光っているのですね!? 他にも、この動く絵! これが魔術でないというでないのが本当にあり得ません! あ! 何か変わりましたよ!? 何ですかこれは、ん!? 何とも美しい裸婦画n」


「おいおいおい」


 俺のエロ画像フォルダまで行きやがったコイツ。

 うるさいし、鼻息荒いし、何か気持ち悪い。


 その後、スマホに入っている写真やビデオ、ゲームなどを見せたら失神していた。

 そんな驚くなよ……。

 



 気絶したアレイスターの頬を叩いて起こす。

 バチン、と音がするような目覚めの後、アレイスターが俺の手を取り、固く握ってくる。


「アザミさん……!」


「何だ気持ち悪い……」


「あ゛り゛が゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛!!!」


 うるさかった声がもっとうるさくなった。

 ここまで来ると耳が死に始める。

 本当にやめて欲しい。


 後ろにいるフィスとエリシアも、何かあったのかという感じの目を向けてきている。

 そんな気にする程のことじゃないです……。


「もう分かったから。報酬はそれでいいだろ?」


「はい! こんな神の造形物に等しいものを手に入れられて、私は本当に幸せですよ!」

「貴方! 何か欲しいものはありませんか!? 正直このスマホに比べたら、あの手助けは価値が劣ります! それは私の等価交換という信条に反しますのでね! お金だけはよして下さいね! 他なら私の研究所から取ってきますよ! あそこは異空間になっているので、扉さえ用意すれば大丈夫なのでね! 凄いでしょう!」


「うるさいから声量絞れよ……。いつものお前に戻ってくれ……」


 そんなことを言いながら、アレイスターに貰うものを考える。

 

 アレイスターが持ってたもの。

 呪いの品とか、実験動物とか、成果物やら色々とあったが、どれもリスクがあるような気がしてならない。

 特に持ってても害の無く、一応使えるもの。

 記憶の中を辿り、それを探していく。

 

 とある場所で、思考が止まる。

 アレイスターがその価値を言っていた物、売れば30ゴールドのそれ。


 そう、フィスやエリシアの所有権を手に入れるために使った、『隷属の首輪』である。

 これからも奴隷は増えるだろうし、その首輪があれば、今思い付いたことも出来る。

 うん、これしかないな。要らなくても売れるし。


「決まったぞ。隷属の首輪をくれ」


「お、あれですか。やっぱり必要になりましたねぇ。あの時から懐にしまってあるので、わざわざ研究所から取り出さなくてもいいですね」


 ガサゴソと、自分のポーチをまさぐるアレイスター。

 少しして、細かい印が刻まれている金属製の首輪を取り出す。


「どうぞ。丁度もう一つ手に入れたので売る所だったんです」


「よし、じゃあ話を戻すぞ━━━━━」




━━━━━━━━━━




 長い質問攻めの結果、この世界の色々なことが分かった。


 まずは、今向かっているラヴィーナ帝国について。

 

 代々女帝が治める帝国だそうで、兵力や財力に長け、食糧自給率も安定しているという大陸屈指の大国だという。

 今の皇帝は自由な人間らしく、戦いや芸術、奴隷から料理と、自分の好きな分野に力を入れているそう。

 今から行くレグリアという都市も、その影響を多分に受け、奴隷産業や音楽や絵画といった芸術が盛んになっているらしい。

   

 それについては、アレイスターから話を聞いた時に驚いたものだ。

 

 なにせ、俺が転生した町であるヨグトには、表立った奴隷産業というのはない。

 そもそも、国全体で奴隷の売買は禁止されているらしい。

 元から持っていた奴隷については何も言われないらしいが、正直それなら禁止してる意味はないと思った。

 きっと全面的に禁止したら、貴族とかその辺りから反感を買うのだろう。


 そうだそうだ、俺が転生した国にもちゃんと名前があるらしい。

 スレタ王国。それが俺が転生した国の名前だ。


 帝国と比較すると少し劣る国力だが、エルフやドワーフといった多種族との交流や、王宮魔導士の存在により、帝国と同じレベルの国になっているらしい。

 王宮魔導士という甘美な響きに少し反応してしまったが、スレタ王国にはしばらくは来れないので、その王宮魔導士とお目見えすることもないだろう。

 仕方ない。

 竜種がこの世界でどういった存在なのか、それを真に理解していなかった俺の責任だ。

 

 これから行くラヴィーナ帝国では竜種に対する恐怖意識は薄いそうだが、とりあえずは隠した方がいいだろう。

 個人的に竜種に恨みを持つ奴にバレたら、どうなるか分からない。

 



 そう、今丁度目覚めた、あのダークエルフみたいな奴にな。


 エリシアがしっかりと体を押さえているので、特に暴れるようなことはない。

 手足、魔術まで全てを封じているそうだ。

 後から口も封じさせた。

 詠唱だけで発動する魔術、こいつがやったあの超パワーがまたあるかもしれないからだ。

 

 拘束で何も動きはしないが、俺のことをじっと睨んでくるダークエルフ。

 おお、怖い怖い。

 



 でも、そんな怒りもこれには消えるかもなぁ。

 

 俺は、さっきアレイスターから手に入れた()()()()()を取り出して近付いていく。

 しっかりと、見せびらかすようにしながら。

 



「お前を、奴隷にしてやるよ」




 さぁて、仲間が増えるぞ。



フィス、エリシア、ダークエルフ←NEW!


たまには、感想とか頂けたら喜んで返信します。

どんな些細なことでも結構です。

ここ変じゃね?とか、このキャラのここって、みたいなのでも有難いです。


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