12 ボロボロの夜明け
酷い頭痛で目が覚める。
ぐらんぐらん、と揺れる地面の上。
その地面は、広い骨の上な訳だが。
何だ、ここ……?
そう思い、周りを見渡すと。
夜が明け始めた空と、横へ横へと流れていく草原の大地。
服だけがボロボロの俺の傍には、明ける日に照らされ、幻想的な雰囲気のフィスがいた。
フィスが目を覚ました俺に気付く。
「あ、アザミ起きたんだね。おはよう」
「お、おう。おはよう……?」
「今は、アレイスターが出した召喚獣?ってのに乗って、逃げてる途中だよ」
「あ、ああ。あと、俺の傷って」
「アレイスターが治してたよ。服はどうにかしろって」
「そ、そうだな」
状況が理解できずに、混乱しそうになる。
取りあえず、前の出来事を整理しよう。
ダークエルフの策に嵌められた後、俺は精神崩壊して無様に逃げて、フィスが吹っ飛ばされた場所に行きついた。
その後、フィスと色々喋って、なんか詠唱して、気絶して……。
今は、恐らくアレイスターが呼び出していた、アメノトリフネとかいう骨の何かの上だ。
列車のように連なる骨の先頭には、アレイスターがいたのは横目で確認した。
笑いながら、「おーい」とか言いながら手振って来やがった。
そして、こうして俺とフィスが生きてるってことは、フィスがあの後ダークエルフに勝ったってことになる。
ただのフィスの龍化じゃ、そんなのあり得ない。
俺とフィスが交わした、あの『龍契』とやらが関係してると考えるのが普通だ。
「なぁ、フィス。お前あの後何したんだ? ドラゴニカ? とか言う言葉は聞こえたんだけど、それから記憶がない」
「うーん、今見せるのは難しい。でも、あいつは一発で殴って気絶させた。今はエリシアが見守ってる、ほらあっち。仕返しできて、すっきりした」
一発でダークエルフを……?
それも意味が分からない言葉だが、それ以上にエリシアが見守ってるってどういう……。
フィスが指さした方向、骨列車の後方にはむすっとした顔のエリシアと、頑丈そうな縄と何かの魔術具で拘束されたまま気絶しているダークエルフがいた。
こちらに気付いたエリシアが、怒鳴りながらこっちに来る。
気絶してるダークエルフをずるずる引きずりながら。
ああ、可哀そうに。
「アザミ貴様ァ! あの場面で喚き散らして逃げ出すとは何事だ! あの後フィスがこのダークエルフを殴り飛ばしたからいいものを、もしそうでなければ貴様の……!」
「エリシア止めて。あの戦いは、誰が悪いとかじゃない。さっきアザミのことは責めないって、約束したでしょ?」
「それに、最後に私がダークエルフを倒せたのは、アザミのおかげ。エリシアが口を出すことじゃない」
怒気をはらんだ声でフィスが止める。
ウッ、と言いとどまったエリシアがばつが悪そうに言う。
「……怒鳴って済まなかった、アザミ。無事に、目を、覚まして、ヨカッタ……」
言葉尻がロボットのように、ぎこちなくなっていく。
そんなに俺に気使うの嫌かよ、どこまで行ってもエリシアらしいな。
改めて感じる日常に、思わず笑ってしまう。
「あはははははは!」
「な、何が可笑しい! 笑うな、おい!」
「いや、生きられたんだなって。なんか、安心しちゃってさ」
「うん!」「……そうか」
そんな言葉の後、俺の顔をまじまじと見てくるフィスとエリシア。
二人と交互に目が合う。
どこかむず痒い感じだ。早く止めて欲しい。
俺の顔をひとしきり見た後、二人がお互いに目を見合わせてから、言ってくる。
「アザミ」「お前」
「「明るくなった」な」
「は……?」
俺が? 万年目付き悪、口悪、態度悪の三悪の俺がか?
いやいや、あり得ない。
この俺が、明るくなった?
「冗談よせお前ら。俺の感情はいつでも下向きだ。明るくなるなんて、天地がひっくり返ってもあり得ん」
「でもお前、このダークエルフから逃げる時に子供みたいに喚いて逃げてただろう。見てたぞ」
「私も、アザミの言葉は何となくは聞こえてた」
前方から、声を張ったアレイスターが何か言ってくる。
「私もー、あの時にはもう起きてましたよー!」
「…………」
脳内の情報を整理する。
そして出た結論は。
「ふぅ……。よし、死ぬか」
自死一択!
「……!?」「あ、おいアザミ!?」「あーあ」
骨列車から飛び降りようと走り出そうとするが、全力でフィスに止められる。
女に負けてたま、こいつ力強っ。
どれだけもがいても、地面は近付いて来ない。
このままじゃ、死ねないだろう。早く、早く死ななきゃ。
じゃなきゃ。
恥ずかしすぎて、死ぬ。
なんだよ、これ。
死ぬ間際だからって、思うこと全部叫んだら、皆に聞かれてるって地獄かよ。
無理無理無理。ほぼ狂乱状態だったけど、言ったこと大体覚えてるって。
自分でもちょっとびっくりしてたもん、俺こんなこと思ってたんだって。
思い出すだけで暴れ出したくなる。全員にそれ聞かれてたとか。
これからどんな顔で接していけばいいんだ。折角生き残ったのに。
てか俺、フィスの前でめっちゃ泣いたな。
あーあーあー、全部消えろもう。
ここじゃないどこかへ逃げ出してぇ……。
暴れる俺の肩に、そっと手が置かれる。
今までで見たこともないような優しい目で、エリシアが言った。
「今まで済まなかったなアザミ。お前がどれだけ苦しんでいたのかも知らずに、辛い態度になってしまっていた」
「だが」
エリシアの語気が強くなる。
「奴隷を買うというのは違うだろう、お前はしっかりと他人を頼るべきだ」
チッ。
今までの嬉しさや恥ずかしさが嘘のようになくなり、頭が水を被ったかのように冷え切る。
その言葉は、俺にとっての禁句だ。
「うるせぇんだよな、その一回同情してから言うのが鼻に付くわ。何か縛りがなきゃ、他人なんて信用できるか。今まで魔法を解いてたのは、俺が生きるために過ぎないんだよ」
「『俺に危害を加える全ての行為を禁止する。関節的なものも含めて全てだ』」
エリシアみたいな人間は前にもいた。
助けるふりはする、だがその助けは本当に意味の助けでなくて、いつも俺が騙されて終わる。
エリシアが言った、他人を頼れ、ってのは、その頼った人間が悪人である可能性を排除してる。
俺が、異世界から来た貴重な『流れ人』であるのに、だ。
「アザミ……」「貴様は、そうやって人を阻むんだな」
二人の目線や言葉が少しだけ、胸に刺さる。
「何とでも言ってろ。俺はこういう生き方しか知らねぇ」
「お前らは、他人よりも少しだけ信用できる人間なだけだ。俺が人を信用した、これだけでも十分な進歩だろうが。人がそんなすぐに変わると思うなよ」
悲しそうな顔でフィスが言ってくる。
「私は、アザミが何か抱えてるのは分かってたけど、アザミは自分の弱みは知られるの嫌かと思って、聞けなかった。でもあんなに苦しいなら、たまには私にも話してほしい。アザミは、この言葉も嫌かもしれないけど、私は待ってるから」
「一人じゃ、ないよ」
「……ああ」
フィスの目は、どこまでも純粋なそれだった。
ゆえに、俺の心にいつも通りのムカつきと、得体の知れない嬉しさが混在してしまう。
自分が自分でなくなった気分だ。
逃げ道を、誰かを頼ってみようなどと、思ったせいだろうか。
クソクソクソっ。感情が上手く纏まってくれない。
それからしばらくし、冷静になった頭を働かせる。
フィスとエリシアは俺を慮ってか、特に何かを言うことはなかった。
そっちの方がありがたい。
この気持ちに整理を付けるには、多少自由な時間が必要だろう。
なら、今やれることは……。
ああ、そうだ。アレイスターがいるじゃないか。
あいつに色々質問してやろう。この世界は俺の知らないことが多すぎる。
とりあえずなんか話してたら、気も紛れるだろ。
アマノトリフネの先頭へと歩いていく。
俺に気付いたアレイスターがこちらに振り向く。
「ん? どうかしましたか?」
「お前に聞きたいことが山ほどある」
「いいですよ、今は暇ですしね」
「まず最初は……。そうだな、今はどこに向ってるんだ?」
「今は、国境を抜けてラヴィーナ帝国に向っていますね。行き先はレグリアという都市です。説明は?」
「いる」
「はい。レグリアは、剣闘士が賞金を懸けて戦う闘技場があることで有名な都市ですね。他にも、ラヴィーナ帝国の特色が、色濃く出ている場所とも言えるでしょうかね」
剣闘士? 奴隷で興行をしてるのか? ヨグトじゃあり得ないことだが、それがラヴィーナ帝国の特色ということなのか?
考えても仕方ないので、アレイスターに聞く。
「ラヴィーナ帝国とやらの特色を知らん」
「国の特色も知らないので、って貴方流れ人でしたね。通りで最初から何も知らない訳です」
恐らく素で煽られた。
こいつは普通の会話で人を苛立たせる才能がある。
落ち着け俺。こんな奴に起こるだけ無駄だ。
「……特色はなn」
バッ、とアレイスターの手が俺の言葉を遮る。
こいつ……!
「待ってください。その前に貴方が言っていた報酬がまだではありませんか? つい忘れていましたが、思い出せば私のものですよ」
普通に俺も忘れてた。
ポーチにしている魔法の袋から、何重にも布に包んであるスマホを取り出す。
「ほら、俺の世界の超精密機械だ。それ一つで色々できるぞ、まぁこの世界じゃ持ってても意味ないけどな」
「この板がですかぁ? ふむ、見た目は美しいですが、これで何を……」
アレイスターがべたべたとスマホを触るが、特に何の反応も起こらない。
この世界では電源って概念もないのか。まぁそれもそうか。
アレイスターからスマホを取り上げ、電源を付けて渡す。
充電は48%だった。まだ使える。
俺が電源を付けた時から、口を開けて固まっているアレイスターの手のひらに、スマホを置く。
そのスマホを触るアレイスターが、一言。
「素晴らしい!!!」
今までで一番の大声で叫ぶアレイスター。
なんか目が血走っていた。
「アザミさん! これは何という名前なのですか!?」
「スマートフォン。スマホとも言う」
「このスマホは本当に凄い! もう何が凄いのか分からないほどですが、これに使われている技術、そのレベルの高さは十分に分かります! この薄い板は魔力で発光しているのではない! この中にある金属と微弱な電気が作用して光っているのですね!? 他にも、この動く絵! これが魔術でないというでないのが本当にあり得ません! あ! 何か変わりましたよ!? 何ですかこれは、ん!? 何とも美しい裸婦画n」
「おいおいおい」
俺のエロ画像フォルダまで行きやがったコイツ。
うるさいし、鼻息荒いし、何か気持ち悪い。
その後、スマホに入っている写真やビデオ、ゲームなどを見せたら失神していた。
そんな驚くなよ……。
気絶したアレイスターの頬を叩いて起こす。
バチン、と音がするような目覚めの後、アレイスターが俺の手を取り、固く握ってくる。
「アザミさん……!」
「何だ気持ち悪い……」
「あ゛り゛が゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛!!!」
うるさかった声がもっとうるさくなった。
ここまで来ると耳が死に始める。
本当にやめて欲しい。
後ろにいるフィスとエリシアも、何かあったのかという感じの目を向けてきている。
そんな気にする程のことじゃないです……。
「もう分かったから。報酬はそれでいいだろ?」
「はい! こんな神の造形物に等しいものを手に入れられて、私は本当に幸せですよ!」
「貴方! 何か欲しいものはありませんか!? 正直このスマホに比べたら、あの手助けは価値が劣ります! それは私の等価交換という信条に反しますのでね! お金だけはよして下さいね! 他なら私の研究所から取ってきますよ! あそこは異空間になっているので、扉さえ用意すれば大丈夫なのでね! 凄いでしょう!」
「うるさいから声量絞れよ……。いつものお前に戻ってくれ……」
そんなことを言いながら、アレイスターに貰うものを考える。
アレイスターが持ってたもの。
呪いの品とか、実験動物とか、成果物やら色々とあったが、どれもリスクがあるような気がしてならない。
特に持ってても害の無く、一応使えるもの。
記憶の中を辿り、それを探していく。
とある場所で、思考が止まる。
アレイスターがその価値を言っていた物、売れば30ゴールドのそれ。
そう、フィスやエリシアの所有権を手に入れるために使った、『隷属の首輪』である。
これからも奴隷は増えるだろうし、その首輪があれば、今思い付いたことも出来る。
うん、これしかないな。要らなくても売れるし。
「決まったぞ。隷属の首輪をくれ」
「お、あれですか。やっぱり必要になりましたねぇ。あの時から懐にしまってあるので、わざわざ研究所から取り出さなくてもいいですね」
ガサゴソと、自分のポーチをまさぐるアレイスター。
少しして、細かい印が刻まれている金属製の首輪を取り出す。
「どうぞ。丁度もう一つ手に入れたので売る所だったんです」
「よし、じゃあ話を戻すぞ━━━━━」
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長い質問攻めの結果、この世界の色々なことが分かった。
まずは、今向かっているラヴィーナ帝国について。
代々女帝が治める帝国だそうで、兵力や財力に長け、食糧自給率も安定しているという大陸屈指の大国だという。
今の皇帝は自由な人間らしく、戦いや芸術、奴隷から料理と、自分の好きな分野に力を入れているそう。
今から行くレグリアという都市も、その影響を多分に受け、奴隷産業や音楽や絵画といった芸術が盛んになっているらしい。
それについては、アレイスターから話を聞いた時に驚いたものだ。
なにせ、俺が転生した町であるヨグトには、表立った奴隷産業というのはない。
そもそも、国全体で奴隷の売買は禁止されているらしい。
元から持っていた奴隷については何も言われないらしいが、正直それなら禁止してる意味はないと思った。
きっと全面的に禁止したら、貴族とかその辺りから反感を買うのだろう。
そうだそうだ、俺が転生した国にもちゃんと名前があるらしい。
スレタ王国。それが俺が転生した国の名前だ。
帝国と比較すると少し劣る国力だが、エルフやドワーフといった多種族との交流や、王宮魔導士の存在により、帝国と同じレベルの国になっているらしい。
王宮魔導士という甘美な響きに少し反応してしまったが、スレタ王国にはしばらくは来れないので、その王宮魔導士とお目見えすることもないだろう。
仕方ない。
竜種がこの世界でどういった存在なのか、それを真に理解していなかった俺の責任だ。
これから行くラヴィーナ帝国では竜種に対する恐怖意識は薄いそうだが、とりあえずは隠した方がいいだろう。
個人的に竜種に恨みを持つ奴にバレたら、どうなるか分からない。
そう、今丁度目覚めた、あのダークエルフみたいな奴にな。
エリシアがしっかりと体を押さえているので、特に暴れるようなことはない。
手足、魔術まで全てを封じているそうだ。
後から口も封じさせた。
詠唱だけで発動する魔術、こいつがやったあの超パワーがまたあるかもしれないからだ。
拘束で何も動きはしないが、俺のことをじっと睨んでくるダークエルフ。
おお、怖い怖い。
でも、そんな怒りもこれには消えるかもなぁ。
俺は、さっきアレイスターから手に入れた隷属の首輪を取り出して近付いていく。
しっかりと、見せびらかすようにしながら。
「お前を、奴隷にしてやるよ」
さぁて、仲間が増えるぞ。
フィス、エリシア、ダークエルフ←NEW!
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ここ変じゃね?とか、このキャラのここって、みたいなのでも有難いです。
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