魔法少女の話
注意!
自転車が喋るけど気にしないで!
とある修理店の中。
暗闇の中、シドがぼんやりと待っている。
いつも近くにいるメルは、宝石箱かなんやらで海に出かけている。
シドは錆び取りをしてもらって、暇な時間を過ごしている。
暗闇で1人になるのは慣れているが、久しぶりだ。
もしかしたら誰かいるのかもしれないと思い、呼びかけてみる。
「誰かいる?」
シーンとした空気が流れる。
修理店なら自転車の一台や二台いるはずだが、いないようだ。
「つまらないの。」
シドはメルに何か面白い話をしてあげたいと思い、何か物語を考える。
1時間ぐらい経った頃。
物語の結末を思いついてワクワクしていたシドは、誰かこっちに歩いてくる音がするのに気がつく。
「──ます─?」
何か言っているようだが、遠くにいるようで、よく聞き取れない。
「誰?」
シドは呑気に聞く。すると、駆け足で近づいてくる音が聞こえる。
目の前に来たのはわかるが、暗闇すぎて誰だかわからない。
「この辺から聞こえてきたよな〜?」
「ここにいるよー。」
「そこか!今明るくするね。」
何か、不思議な音が鳴った。
刹那、辺りがパッと明るくなる。
見た目は少女だ。服装が魔法少女ですと自己紹介している。
不思議な力でもあるのかとシドはワクワクする。
「なんだ自転車か。」
少女は少しがっかりするが、すぐに「まあいいや。」と持ち直す。
「──ねえ君、僕と契約して魔法少女になってよ!」
「やだ。」
即答だった。
「なんでよ!」
「魔法少女ってあれでしょ?殺されては生き返り永遠の苦痛を受けるっていう鬱アニメの。」
「なにそれ?全然そんなことないよ?」
少女は首を傾げる。
「魔法少女はそういうものじゃないの?」
「うん。なんでそうなるの?」
「小説とか?」
「フィクションじゃん!」
少女は大きな声でツッコミを入れる。
「とりあえず、代理で1日だけだから!おねがい!」
「じゃあいいよ。暇だし。」
「軽!」
その時、修理店の壁に大きな音を立てて穴ができた。
その穴には大きな拳があった。
「これは怪物ってやつ?」
「そう!変身した僕と会話した時点で契約されちゃってるから見えるの。」
「理不尽じゃない?」
「まあまあ。ハイ、これ!」
少女はキーホルダーのような何かをシドのハンドルにくくりつける。
「それ、変身アイテムだからすぐ変身できるよ!じゃ、僕先に戦ってるね!」
そう早口で説明したあと、少女は壁から飛び出す。
「本当にできるの?」
と、独り言を言った時、シドは謎のキラキラとした空間にいることに気がついた。
妙に明るい音楽も流れている。
変身タイムなんだろうか。
関節部分がハンドルとサドルと前輪しかないシドは、踊って変身とは程遠い動きをする。
ただ、変身はできているようで色が微妙に変わったりサドルが少し上がったりする。
音楽が終盤に近づき、なんとなく決め台詞が思いつかなくて無言のまま変身が終わった。
「お〜?」
シドは試しに前後に動いてみると、いつもより動きやすい。
「よっと!」
なぜかタイヤを使ってジャンプもでき、ふわりと浮かぶ。
魔法少女になっただけあって、魔法が使えるようになっているのか、空も飛べた。
とりあえず、穴から飛び出て少女を追いかけることにした。
「お!変身できたんだね!」
少女が極太レーザーを怪獣に放ちながら、手を振る。
「もう勝ったの?」
シドは聞いたこともないレーザーの音に少し驚きながら言う。
「まさか!合体技じゃないと倒せないよ!」
「いつもはどうしてるの?」
「今熱で休んでる子と一緒にやってる。」
「もしかして合体技をするだけのために呼んだ?」
「そう。」
「やっぱり。」
怪獣が咆哮を上げる。
魔法少女はレーザーを放つのをやめて、杖を取り出す。
「怪獣は迷惑をかけるために生まれた絶対悪だから家族とか色々考えなくていいよ!」
「小説化したら売れなさそうな設定。」
「だから小説はフィクションだって!」
少女はツッコミながら合体技の準備をする。
「せーのっていったらリザルネーションって叫んでね!せーのっ!」
「りざるねーしょん。」「リザルネーション!」
少女とシドの声は反響し、杖からもはやオーバーキルとも思える超極太レーザーが放たれる。
レーザーは怪獣の腹を貫通し、怪獣は消滅する。
そして、なぜかボロボロになっていた街は元通りになる。
少女とシドは港に降り立った。
「いやー!助かったよ!」
「どういたしまして。」
「お礼としてそれあげるよ!」
少女は変身アイテムを指差す。
「誰でも変身したくなったら変身できるから!じゃ〜!」
少女が走って去っていくと、海からメルを乗せた船がやってきた。
シドは今日起きたことを話したくて、そして宝石箱の話を思い出し、うずうずしている。
「メル、おかえり!」
「ただいま。」
「宝石は?」
「美味しかったよ。」
「美味しかった?」
「うん。」
メルがそう答えるが、シドは首を傾げる。
「そう言えば、何かあった?」
メルはシドがうずうずしているのに気がつく。
「そうそう!面白いことがあってね!」
メルはシドを手で押しながら、夕陽に照らされた海辺の丘の街に向かって歩いていく。
真っ暗な魔法少女多すぎません?
そんなことないですか……。




