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海の宝石箱の話

注意!


自転車が喋るけど気にしないで!

とある海の上。

小さな船の上、メルが風に身をなびかせている。

いつも近くにいるシドは、潮風のせいで錆びてしまったので修理工場で錆び取りをしてもらっている。

その工場がある陸地も、もう水平線の向こうに消えてしまった。

「この先の海にあるんですか?」

メルは操舵席に乗っている船長の男に聞く。

「おう!伝説の宝石箱はこの先の海の深海にあるんだ!」

親戚を探せば1人ぐらいいるような親しみやすい顔をした船長は答える。

「宝石箱か……。」

シドはびっくりするだろうなと思い、1人呟く。

船が海を裂く音が、なんとも言えない心地よさを生み出している気がした。


何分か進むと、船が止まる。

いつのまにか船長は甲板に降りてきていた。

「この辺りだな!この潜水服を着てくれ。」

船長は二つの潜水服を取り出す。

「二つですか?」

「おっと!すまん間違えた。いつもは2人の娘が乗ってるもんでな。」

「娘さんは今どちらへ?」

「海の底で帰らんやつになっちまった。」

「……すいません。」

「いいってことよ!」

船長はガハハと笑った。

メルは潜水服を着て、海に入る準備をする。

酸素ボンベは謎の圧縮技術から、物凄く小さくなっている。

このサイズで息が続くかと少しだけ心配になっていたが、その考えは杞憂に終わった。


海に入ると、地上とは違う美しい景色に魅了される。

無数の小魚が渦のように並び、優雅に泳いでいる。

ゆらゆらと揺れる木漏れ日が、メルの目を輝かせる。

底があるのかと確認したが、一面青に包まれていて、見当たらない。

そして、呼吸が地上と何も変わらないことに気がつく。

通信機があったなと思い、感動を共有する。

「凄いですね。景色も、この潜水服も。」

『ああ!どっちもうちの国の自慢だ。』


メルは、一緒に潜った船長の背中を追いかける。

岩肌すら見当たらず、どこまで深いかもわからない。

そこまで潜水に自信がなかったメルも、潜水服の補助に助けられ、スイスイと泳いでいる。

「伝説の宝って何なんですか?」

『そりゃあ凄いもんだ。見てからのお楽しみだな。』

「楽しみです。」

『ただ、俺の娘らもそれを目指して帰らなくなったんだ。くれぐれも注意してくれ。またしてる奴がいるんだろう?』

「はい。いい相棒です。」

『あんたがそう言うなら間違いない!』

船長は豪快に笑う。


進むにつれ、太陽の光がどんどん薄れ、暗くなっていく。

『そろそろライトをつけてくれ。くれぐれも逸れないようにな。』

言われた通りにライトをつけると、真っ暗な海が明るくなる。

ただ、何度か点滅し、薄暗くなってしまった。

『くそ。きょ─は調子が─ザザ─いな。』

「すいません。通信機も調子が悪いみたいです。」

『ああ。ざ──音──』

ライトと、通信機が同時に切れる。

暗闇と静寂が訪れる。

こう言う時、あやふやに泳ぐから変なことになることを知っているメルは、あえてあやふやに泳ぐ。


そのせいで、自分がどこにいるかわからなくなってしまった。

ライトだけはまたついた。

「迷子になっちゃった……。」

メルはしらばっくれる。

いつの間にか海底に到着しているのもあり、跳ねるように移動する。

まるで月面に着陸したような気分だった。

「不思議……。」

ポツリと独り言を言う。

足元には黒い何かがあり、覗き込む。

ナマコと言ったのだろうか。

ウニョウニョと、逃げるように動く。

「へんなの。」

メルは1人になるのは久しぶりだからか、子供の頃のように頻繁に独り言を言う。

かなり危機的状況なはずなのに、どこか楽しそうだ。

向こう側に光が見えてくると、目を凝らす。

その光はどんどん大きくなり、やがて目の前にくる。

船長かと思ったが、チョウチンアンコウだったようだ。

「わ。」

メルは少し不気味な顔に驚く。

チョウチンアンコウも、自分より大きな生き物を見て、驚き逃げる。

その状況になぜか笑いが込み上げてきて、「フフ。」っと微笑む。


何分か進むと、何か塊が見えてくる。

近未来的な施設のようだ。

「なんだろう。面白そう。」

メルは少し慎重に近づく。

すると、扉のような部分を見つける。

近づくと自動的に開いたので、そこに入る。

何もない小さな白い部屋だ。

中央あたりに行くと、後ろの扉が閉じる。

機械音が聞こえると、水がみるみる下がっていく。

完全に水がなくなると、目の前の壁が開く。


レストランのような場所があった。

船長が席に座り、何かを食べていた。

メルに気がつくと、元気に言う。

「お!たどり着いたか!」

「ここは?」

少し困惑しながら、メルは聞く。

「海鮮丼屋だ。」

「海鮮丼?」

「ああ。ほらみろ。」

船長が指差す先には、海鮮丼がある。

メルはまさかと思う。

「海の宝石箱だろう?ガーハッハッハッハ!」

船長は豪快に笑う。

確かに新鮮な刺身はキラキラしていて、宝石というのに相応しい。

ただいつかのラジオで聴いたネタだった気がしてならない。

困惑しすぎて逆に笑いが込み上げてきた時、船長が誰かと相席しているのがわかった。

2人の少女だった。

もう、なんとなく察しがついた。

「で、お前らはいつ帰るつもりなんだ?」

「美味しいからまだいる〜!」

「お母さんの海鮮丼は世界一!」

2人の少女は駄々をこねる。

船長はメルに説明する。

「こいつらが俺の娘らだ。」

メルは、呆れながらも海の宝石箱を食べて帰った。


元の国に帰ると、シドが迎えにきていた。

「メル、おかえり!」

「ただいま。」

「宝石は?」

「美味しかったよ。」

「美味しかった?」

「うん。」

メルがそう答えるが、シドは首を傾げる。

「そう言えば、何かあった?」

メルはシドが何かを話したがっているのに気がつく。

「そうそう!面白いことがあってね!」

メルはシドを手で押しながら、夕陽に照らされた海辺の丘の街に向かって歩いていく。

陸の海鮮丼や〜!

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