議論する国
注意!
自転車が喋るけど気にしないで!
そこ国には彼方此方で野良猫が溢れていた。
三毛猫、黒猫、白猫……世界中の猫を集めた様な国で、誰かからしたら楽園と書いてこの国と読めるだろう。
その国で、メルは猫と睨みあっていた。
真っ黒なサラサラの毛並みの黒猫と、ジィーッと、ジィーッと睨み合っている。
シドが無い喉で唾を飲み込んだ時、素早い動きでメルが動く。
目にも止まらぬ速さでリュックからカメラを取り出し、猫に向けてシャッターを押す。そのままリュックにカメラを戻し、何事もなかった様に元のポーズに戻った。
猫はなにが起きたのか理解しておらず、ポカンとした表情でメルを見つめる。
終始見ていなかったシドは、とりあえず「お〜。」と反応しておいた。
「これでカメラのフォルダには203個目の猫の写真が入ったわけだ。」
「撮りすぎじゃ無い?メル。」
「あるにあるは越したことないでしょ。こんなに人に馴れた猫なんてそうそういないよ。」
「猫好きだったりする?」
「そこそこね。」
撫でて欲しそうな猫を撫でたり、毛繕いをしている猫を眺めたり、猫に囲まれたりして、依頼をこなすために議論塔と呼ばれる建物の前まで来た。
依頼というのは議論の内容を暗記するという金を大量に積まれなければ引き受けないであろう内容だった。
〇
正面には少し高い席が三つ。左右には一つずつ机があって、対立意見を持ったと思われる人々が座っている。
後ろの方に並べられた傍聴席にメルは座って、他の人と同じように慎重な趣で正面を見ている。
シドはいつの間にかいなくなっているが、おそらく外をブラブラ走っているだろう。
正面中央の人がガベルでいい音を鳴らして、議論の開幕を知らせる。
「これより議論を開始する。本議論は猫の餌についてだ。チェール派閥、意見を。」
その言葉で、右側に座っていたチェール派閥の男が席を立つ。
「はい。猫は主にチェールを好んで食べます。こちらの資料をご覧ください。」
そう言ってリモコンを操作する。と、白い幕が降りてきて、そこにグラフが映し出される。
「百種類の有名キャットフードを猫の前に設置した結果、98%の猫がチェールを選びました。それにチェールは人間が食べても害がなく、赤ん坊の誤飲での被害を防げます。よって、我々はチェールを猫の餌に選ぶことを推します。」
そう言うと、周りの人は深く頷く。
「なるほど。では、お着席お願いします。次にニャーゴロ派閥どうぞ。」
左側に座っている人々が自信満々な顔で椅子から立ち上がる。
「ニャーゴロは猫に対していい栄養分ばかり入っています。主に血流を良くするアルギニン、骨の成長を促すリンカルシウム、寿命を長くするレベニウム。他様々な成分が他商品に比べて最も多く入っています。それに比べてチェールは人間で言うジャンクフード。健康を害する恐れがあります!」
「それは与えすぎた場合のみだ!第一猫はそれを好むのか!?」
そうだそうだと声が巻き起こり、議論は熱中して行った。
メルは内容を忘れないようにと、集中して聞いていた。
〇
メルがガチャリと塔の扉を開くと、そこには眠りかけたシドが立っていた。
「おーおかえり。暗記できた?」
「途中で中断されたからギリギリ覚えられたと思う。」
「じゃあ内容を依頼主に話に行こう。」
のんびり歩く道には、猫が何匹もメルよりものんびり暮らしている。
その猫たちを見てメルはさっきの議論を思い返す。
「猫の餌についての議論だったんだけど、ちょっと少しだけ変だなあって思ったことがあるんだよね。」
「へぇーそれはなに?」
「猫が出席してないこと。」
「それは変だ。猫の声も聞かないとね。」
「どっちでもいいにゃ。」
メルでも、シドでもない声が後ろから聞こえた。
メルが振り返ると、そこには毛繕いをしている黒猫がポツンと佇んでいた。
にゃあと静かに鳴いたのは、その後のことだ。
猫みたいにのんびり生きていたいです。
……猫も猫なりに忙しいのでしょうが。




