名言の話
注意!
自転車が喋るけど気にしないで!
小池があちらこちらに見える沼地で、シドが自分で走る練習をすると言い出した。
メルはあっさりとオーケーを出し、少し遠くからその様を眺めている。
地面がぬかるんでいて、座るわけにもいかないので、本も読めずに。
まるでカーレーサーになったような気分で小石や池をスイスイと避けているシドは、なんとも気持ち良さそうだ。
数時間が経って、日が少しだけてっぺんに近づいた頃に、シドは泥だらけの車輪のままメルを乗せて旅へと戻っていった。
メルはさっきまで考えていたことをシドに話そうと、風に委ねるように口を開ける。
「名言っていいよね。」
「名言?何か思いついたの?」
「別に。でも今考えることはできる。」
「つまり考えようってことね。」
「当たり。」
さっきまで一人でに動いていたペダルが、今度はメルの足と共に動いている。
少し錆びた音が響く沼地は、風が髪を靡かせるばかり。
不意にメルはハンドルから手を離し、パーの手をぐーで叩く。
「思いついた?メル。」
「うん。」
メルはごほんと咳払いをする。
「人生のゴールを決める必要性を決めるのも、決めないのも人生である。……とか?」
「どういう意味?」
「知らない。シドは思いついた?」
「うん。えーっと、大人へのエレベーターは存在するが、階段はいい運動になる。かな。」
「ふぅ〜ん。いいじゃん。」
と、話に夢中になっていると、いつの間にか……というか元々あった石に盛大につまずいて、横転してしまった。
泥沼に顔から突っ込んだメルの背中にリュックがどしんとのしかかり、
「へぶっ。」
追い打ちをかけた。
チョコレートケーキのようになったメルは、チョコフォンデュにかけられているマシュマロに見えるシドを両手で引き上げる。
「うわ〜泥だらけだよ。メル早く拭いて〜。」
「はいはい。あ〜……あとでちゃんと洗わないと。」
「次の国では洗濯と服を買うのが目的だね。」
泥の塊になってしまったタオルをビニール袋に入れ、メルが背中を痛めて受け止めた泥のついていないリュックに入れる。
メルは背中をさすりながらシドに乗って、次の国に向かってまた走り始める。
「……一個いい名言を思いついたよ。」
メルは痛みに耐えながら口を震わせて開く。
「なに?」
「名言に気を取られているとつまずいても仕方がない。だね。」
メルとシドがつまずいた泥沼チョコレートケーキは税込302円でどこかの国に売っていると思います。




