たんぽぽの話
注意!
たんぽぽが喋るけど気にしないで!
私は、たんぽぽである。名前はまだない。
気がついた時にはふわりふわりと空を飛んでいて、雲を眺めていた。
広い水たまりを越え、広大な砂地を越え、山を越え、国を越え。たどり着いたのは、ただの一本の木でさえ生えていない、とてもつまらない毛むくじゃらの丘である。
旅人やら商人やらが行き来する獣道が麓に一本見えるが、こっちに向かってくる気配なんぞ霞の中の塵に等しい。
朝には光合成で体を伸ばし、昼には土に根を伸ばし水を飲み、夜には静かに眠りにつく。
そんな暮らしを永遠と続けているばかりだ。
いや、いつだっただろうか。私のそばに女子が寝そべった日があった。
その女子は青いオーバーオールを着た長い髪の人間であり、自転車を引き連れていた。
山のように膨れ上がったリュックから察するに、わざわざこちらにはこないだろうと言う予想は見事に外れ、汗をかいてまで登ってきたのだ。
何を考えているのかさっぱりわからないが、とにかく、私の隣に寝そべったのはその女子だ。
どうやら自転車というのは生き物のようで、愚痴を垂れていたのが印象的だった。あのような体のどこに考える脳みそが詰まっているのかてんで理解出来ない。
その自転車の愚痴にも動じず、女子はただひたすらに私の隣で青空を眺めていた。
真っ白な雲を指さしては、知らぬ言葉を発するので、きっとどこに行っても飽きない性格なのだろう。
渦巻雲を指差せば、あいすくりいむと言い。ふわりとした丸い雲を指せば、ひつじという。
そう繰り返すうちに自転車は諦めたのかガシャんと横たわる。
大きなリュックからガラクタや果物やらが溢れ出し、私をオレンジに踏んづけられたたんぽぽにしてしまうかと思った時、女子がパシッと受け止めて私を守ったのだ。
正直人間には愚図しかいないと思っていたが、この小さな命すら守る人間がいると言う事に感動した。自転車もそんなことするんだと驚いていた。が、ただ単に食べ物が勿体無いから受け止めただけだと女子は言ったのだ。
目を見る限り嘘はついていない。感動を返してほしい。
女子と自転車が去ったっきり、私の隣にくる人間は存在しない。おそらく死ぬまでそうだろう。
名前をつけてあげましょう。名前はたんぽぽです。




