人が働く国
注意!
自転車が喋るけど気にしないで!
『食品、衣類、工具などなどが生産速度No.1*!どうぞ、機械のない工場のみの、我が国へどうぞお越しください!工場見学実施中!(*機械不使用部門)』
と、煌びやかなイラストと共に描かれているチラシを、公園のベンチでパサリと仰ぐ。
国にくる道中の地面に泥に塗れて落ちていたようで、まだ土の香りがほんのりと香ってくる。
「このチラシに書かれているのってこの国だよね。メル。」
「多分ね。ここに書いてある事が嘘じゃなければ工場が人力なわけだ。」
「それって大丈夫なやつ?労働基準法とかないのかな。」
「さあ?工場見学に行けばわかると思うよ。」
メルはまだ休んでいたいと言わんばかりに、ベンチから動こうという意志を微塵も見せない。
ポカンと空を眺めている様子に、シドは少し呆れ始めた。
不意に、メルの耳にため息が聞こえてくる。シドのではない。
チラリと聞こえてきた方を見ると、隣のベンチに落ち込んでいる少女がいた。
茶髪のおさげの、メルよりも小さな少女だ。ピンク色のワンピースが少し目立つ。
「どうしたの?」
と、シドが声をかけると、少女は顔を上げる。
「だあれ?」
「ただの旅をしている自転車。何故落ち込んでるの?」
「……パパは知らない人には話しかけられても無視してって言ってた。」
「知らない自転車なら?」
「言ってなかった。」
「じゃあいいじゃん。」
「……わかった。」
シドは少女の将来が心配になりながら、暇つぶしになりそうだと親身に話を聞く。
「あのね、この国では10歳になるとチップをはめ込まなきゃいけないの。」
「チップ?」
「うん。この頭のあたりにね。」
少女はおでこの中心を小さな人差し指で指す。
「それをはめるとどうなるの?」
「お絵描きが上手くできるようになったり、走るのも早くなって、いろいろな事がなんでも上手に出来るようになるの。」
「へえ〜いいじゃん。」
「全然良くないよ……だってさ、私は走るのも、お絵描きも苦手なんだよ?ただ少しだけ早く泳げるだけ。」
「泳げるのは凄いや。うちのそこでグースカ寝息立ててるメルってやつは全く泳げないらしいからね。」
シドの言った通り、メルは涼しい顔でぐっすり眠ってしまっている。
「もしさ、私が何でもかんでもできたら、私だっていいなって思うよ。でも……。」
「でも?」
「そうなった私ってさ、私なのかな。」
シドはその問いを少しの間考える。
答えを出そうと思ったその時には、公園の出入り口で、父親と思われる男性と手を繋ぐ少女が、バイバイと手を振っていた。
疲れた時は、ベンチで寝ましょう。
家で寝た方がいいですが。




