ファンタジーな国 後編
注意!
自転車が喋るけど気にしないで!
「やあ、君。パーティに入ってない様だったら、僕のパーティに入らないかい?」
「いいですよ。」
「早っ!」
メルは即答した。
その反応に誘ってきた剣士は、ツッコミを入れる。
「もうちょっと疑った方がいいんじゃないんですかね〜。」
至極当然なことを魔法使いが言うが、
「まあ言っちゃったものは仕方がないので。」
と、メルは当たり前かのように答える。
本当にいいのかなと不安げな剣士だったが、シドの一言でもっと不安になった。
「話しかけたが運の尽き。そう言う人だよ。」
四人用のテーブルに移動し、ぐるりと囲むように座る。
剣士がパンっと手を叩き仕切る。
「それじゃあ、パーティが揃ったことだし、自己紹介から始めよう。僕はヘルベルド。ヘルと呼んでくれ。剣士をやっている。一応このパーティのリーダーだ。よろしく。」
次にドワーフのヒゲがモジャモジャの兜を被った男がこほんと息を吐く。
「俺。ドロ。戦士だ。よろしく。」
少しの間が空いたあと、それだけ?と言う雰囲気が流れる。
「すまない、ドロは少し口数が少ないんだ。じゃあ次、カナ。」
「はい。私の名前はカナです。魔法使いをしていますが、ヒール系が得意です。よろしくお願いします。」
メルはなるほどと首を頷き、口を開く。
「私の名前はメルです。役職は旅人。魔法は使えますが不得意です。よろしくお願いします。」
「名前はシド、荷物持ちだし自転車だから荷物運ぶぐらいしかできないよ。」
二人の自己紹介が終わると、パチパチと拍手が起こる。
メルがもう一度ペコリと頭を下げると、男が目標を話し始める。
「じゃあ、今回の標的を話そう。今回の標的は岩山の主、レッドワイバーンだ!」
「お〜。」と、周りにも聞こえていたようで、ギルドが関心の声で埋まる。
「レッドワイバーン。強い。俺怖い。」
「安心しろ、僕らならきっといけるさ!」
カナが手を挙げる。
「ハイ!作戦はどんな感じですか?」
「メルさんが囮になって、その間に僕とドロが殴る。攻撃されたらカナが回復。名付けて力こそパワー作戦だ!」
「ただのゴリ押しじゃない!」
カナの勢いのいいツッコミに、ギルドに笑いが満ちる。
期待というより、無謀な人を見る目だ。
「ま、やってみるまではわからない!明日、決行だ!」
「「「おー!」」」と、パーティの全員が掛け声を上げた。
シドは少し不安になった。
◯
解散した後の深夜。
宿でワクワクしたメルが布団の中で、壁に横たわったシドと話している。
「シドは楽しみ?」
「そこそこ。ちょっと不安だけどね。」
「私も。でもファンタジーといえばって感じだから。」
「それはそう。じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ〜。」
そう言った後も少しだけ眠れず、少し本を読んでいつの間にか眠りについた。
●
「やあ!メルさん!」
集合地点に向かうと、もうすでに三人が集まっていて、ヘルが出迎えてくれた。
「これで揃ったね。じゃあ、向かおうか。」
五人は岩山へ向かった。
「メルさん、昨日はちゃんと眠れましたか?」
カナがメルに近寄って、顔をのぞいてきた。
シドは意外とヘルとドロと気が合ったようで、一緒に前の方で三人で歩いている。
「はい。貴女は?」
「いいなあ!私は全然眠れませんでした!」
えへへと笑うカナにつられ、メルも笑う。
「メルさんは囮役らしいですけど大丈夫ですか?」
「まあ、そういうの結構慣れているので。」
「慣れている?」
「囮みたいな役回りは好きなんです。」
「へぇ〜!私なら絶対にゴメンです!」
そんな話をしていると、ヘルが声を上げる。
「岩山が見えてきた!そろそろ休憩にしよう!」
「あ、ぬぺんだぽん山だったんだ。」
と、メルがポツリと言った。
「ぬぺんだぽん?なんて言いました?」
ヘルが全員に作戦説明をしていると、メルが丸太に座り込んでいるドロを見かける。
どこか寂しげで、不安そうな顔をしている。
メルは隣に座って、「どうしましたか?」と、声をかける。
「俺、やられるの、怖い。」
「そういう事ですか。大丈夫ですよ。」
メルはシドの元へとたったったと走っていき、リュックから何かを取り出して戻ってくる。
「これはあなたです。」
「俺?」
「えいっ!」
メルは地面にその石を叩きつける。
すると石が真っ二つに割れる。
「あらら、敵にやられちゃいました。でも、大丈夫です。」
「……?」
「これが私たちです。」
メルは接着剤を取り出す。
「これでくっ付ければ、元通りです。」
「でも、仲間に頼りっきり。よくない。」
メルは少し微笑む。
「この石、くっつき鉱って言うんです。」
「くっつき?」
「少し置いておくと……ほら。」
何もしてないのに、あの石がピッタリとくっついていた。
「メル、後出し、ずるい。」
ドロの顔が少し笑った顔になった気がした。
メルが元の場所へ帰ると、シドが茶化す。
「メルもあんなことするんだね。」
「全部聞いてた?」
「買わないでって言ったくっつき鉱を持ってるところもね。」
メルとシドがぬぺんだぽんの話をしていた岩山をさらに上に登っていると、広い場所に出た。
「ここにいるはずだが……どこだ?」
ヘルが地図を見ながら辺りを見渡す。
平らな岩地が広がっているだけで、ワイバーンのワの字もない。
と、油断していたその時。
バサリと何かが上空を飛んだ。
それに気がついた時、ドシンと音を立てて、真っ赤な体のワイバーンが、メル達の目の前に現れた。
「ギャァァァァァァワァァヮヮヮン!!!」
ワンバーンが咆哮を上げる。
「作戦通り、頼む!」
ヘルのその掛け声と共に、パーティはワイバーンを囲うように散らばった。
シドは岩陰に隠れて観戦していた。
散らばったパーティに、ワイバーンは混乱してぐるぐると首を回す。
「プフゥゥゥゥッ!」と、メルがラッパのような楽器を鳴らす。
その音に釣られて、ワイバーンが首をメルの方を向かせ、体も動かす。
隙が生まれたと察知したドロは、斧を構え飛び上がり、思いっきりをワイバーンの首に当てる。
重い一撃にワイバーンは体制を崩す。
ヘルはワイバーンの背中に駆け上り、剣に火を纏って両手で突き刺す。
剣は深く刺さり、少し抜くのに時間がかかる。
その間にワイバーンはのそりと立ち上がり、咆哮を上げる。
ヘルは振り落とされ、尻餅をつく。
かなりのダメージを受けたようで、起き上がるのに時間がかかる。
「ヘル!」
カナが駆け寄り、魔法を唱える。
「神よ、この者に癒しを与えたまえ!ヒール!」
ヘルの体が光に包まれ、傷がどんどん消えていく。
「ありがとう、カナ。」
「全然。さ、立って!」
カナが手を引っ張ってヘルを起き上がらせたその時。
ワイバーンが口を大きく開き、まとめて噛もうと言わんばかりに勢いよく顔を二人に近づける。
目から光が消え、殺されるのを覚悟でヘルはカナに抱きつく。
ヘルの片腕にワイバーンの歯が食い込んだその時。
ワイバーンの背中で何かが爆発する。その威力からワイバーンはひっくり返り、柔らかいお腹を見せる。
どうやらメルがあの威力がアホほど高いグレネードを投げたようだ。
メルはドヤ顔で、抱き合っている二人にグッドサインを贈る。
カナがヘルの腕を癒す。
「いまだ!」
その掛け声と共に、ヘルとドロが飛び上がる。
「「うらぁぁぁぁぁぁ!!!」」
ワイバーンのお腹に、斧と、剣が刺さる。
「ウギャアアァァァァァァヮヮ………。」
咆哮が収まる。
荒れた呼吸が聞こえるほどの、静けさが続く。
ヘルが剣を振り払うと、岩山はたった五人の歓声に包まれた。
◯
ギルドの酒場。
「「「かんぱーい!」」」と、三人が酒を交わす。
メルはオレンジジュースを飲んでいる。
「いやあ!あの時はファインプレーだったよメルさん!」
ヘルが拍手を送るとメルはオレンジジュースを机に置き、笑みを浮かべながら喋る。
「いえ、私だけの力じゃないです。シドが爆弾を持ってきたんですよ。」
「メルには爆弾を使わせたくなかったのに……。」
「じゃあ全員に拍手!」
ワイバーンを倒したのは注目されたようで、ギルド中でも拍手が起こる。
昨日と同じくどんちゃん騒ぎのギルドがさらにうるさくなる。
「メルさんは体験でしたっけ?実際の冒険者になりましょうよ!ここに住むなら私の家使ってもいいですよ。」
と、カナが誘うがメルは首を振る。
「いいえ。私は、旅人なので。」
ファンタジーな国、あと一日何をしましょう。




