ファンタジーな国 中編
注意!
自転車が喋るけど気にしないで!
「えいっ。」
深く暗い森の中、メルが手のひらを突き出して念じる。
すると光の玉が浮かび上がり、辺りがぼんやりと照らされる。
「それだけ?もうちょっと明かり強くならない?」
「仕方がないでしょ。魔法なんて使ったことないんだし。」
「ランタンの方がまだ明るいよ。」
「気分が出るでしょ。死者の森っていうぐらいだし、明るかったら意味ないじゃん。」
「薬草採取はもっと明るいところでやると思ってた。」
メルとシドは霧のかかったおどろおどろしい森をゆっくりと進む。
一寸先は闇と言えるほど、真っ暗で、間違えれば根っこに躓いてこけてしまいそうだ。
「思い込みは良くないよ。」
「そうだけどさ〜……あ、あそこに一本薬草。」
「どこ?」
「もっと先。」
「ストップって言って。」
シドは間髪入れず言う。
「ストップ。」
「目の前じゃん。」
「こっちから見たらそこがもっと先だもん。思い込みは良くないよ。」
「一本取られた。」
そんな話をしながら、全く進まない薬草採取を続けていた。
三十分も経ったと言うのにまだ三本しか集まってない事に、シドがため息を吐き始めた頃。
メルの口笛がただ虚しく響くばかりの暗闇に、奇妙な声が聞こえ始めた。
「聞こえた?メル。」
「うん。ゾンビかゴブリンか……。」
「最初の敵はスライムが妥当でしょ。」
「じゃあスライムの可能性は?」
「ゼロ。こんな唸り声出さないよ。」
耳をすませば、すぐ近くで唸り声を出す何かがウロウロしていることがわかる。
「ゥゥ……ガァ……。」
チープなビデオだったら、大きな音と共に目の前に現れてもおかしくない。
そんな中、シドがメルの腰にいつもあるあの銃火器がない事に気がつく。
「メル、あの銃は?」
「世界観に合わないから宿に置いてきた。」
「本当は?」
「トラブルに巻き込まれた方が楽しいじゃん。」
「よく言えました。それでどう対処するか考えて……。」
シドはメルの顔を見て言葉を切る。
「ないね。」
「よくわかったね。まあ魔法があるし、いざとなったら殴れば。」
「1人で飛んで行かないでね。」
「大丈夫。」
真正面の茂みが、がさりと動く。
メルは光の玉を前に動かす。
「ウガァァァァ……ァァゥゥガアア!」
唸り声を上げながら、腐敗した人間の形をしたモンスターが闇の中から現れた。
「ほらメル、魔法魔法!」
「えーっと……やー。」
気の抜けた掛け声と共にメルの手のひらから火の玉が勢いよく飛び出る。
ぽすんと音を鳴らして、モンスターの胸に当たる。
「アガァ?」
モンスターが首を傾げ、胸の辺りをさする。
「メル、今思ったんだけど、アンデットって死体だよね?」
「……普通の攻撃効かない?」
メルの顔から汗がダラダラと溢れる。
その姿を見て、モンスターはニヤリと笑う。
「ウガァァァァァァ!!!!」
刹那。
メルとシドの目の前を閃光が走る。
モンスターはチリも残らないほど粉々に消え去り、森が光に包まれる。
「大丈夫ですか───────!」
ポカンとしている2人に向かって誰かがこっちに走ってくる。
昨日の馬鹿みたいに盛られたステータスの青年だった。
「大丈夫です。」
「よかった。君も大丈夫?」
青年はしゃがんでシドに目線を合わせる。
「まだびっくりしてる。」
「怖かったんだね。君たちは……冒険者?」
「はい。今日の昼頃に体験に参加しました。」
「なるほど。」
青年はメルの手元に握りしめられたボロボロの三本の薬草に気がつくと、カバンの中を漁り始める。
「これ、薬草だからあげる。」
青年の手には花束の様な量の薬草が握られている。
「時間かかりませんでしたか?」
「五分もかかっちゃいました。でも、僕はゴブリン討伐が目的だからさ。」
「ではお言葉に甘えて受け取っておきます。」
「じゃあ、気をつけてね。」
青年は颯爽と空に飛んでいった。
「メル、これ全部“超薬草+3”じゃない?」
「金と同価値の?……確かに。」
「伊達に超人やってないって言うことかな。」
「とりあえず……帰ろっか。」
巨獣が夕暮れ空を飛んでいた。
影が伸びた帰り道。
メルがさっきの青年を思い出す。
「主人公みたいな人だったね。」
「無自覚チート系?」
「言っちゃえばそう。」
噴水広場のあたりでは、また騒ぎが起こっている。
『勇者、ゴブリンエリーターうっかり討伐!』
と、大きな看板がふよふよと浮いていた。
「メル、またあの人の話題だよ。」
「うっかりね……。」
メルの手にはヨレヨレの薬草五つ。
貰った超薬草は全て、ご自由にお取りくださいと書かれたカゴと共に森へ置いてきたようだ。
「まあ、初クエスト完了だし、今日はギルドの酒場で夜ご飯でも食べよう。」
「お金もらえるんだっけ?」
「多分無理。」
報酬金に一銅貨を貰ったメルは、1人用の席に座ってサラダを食べていた。
「面白い人沢山いるね。」
「メル、あの人ドワーフじゃない?あの有名な。」
「まさにファンタジー。」
その時、メルに三人のグループが話しかけてきた。
杖を持った薄緑色の髪の女性と、斧を持った男のドワーフ、そして剣を持ったリーダーの様な男性。
「やあ、君。パーティに入ってない様だったら、僕のパーティに入らないかい?」
後編へ続く。




