美しくも汚らわしい国
注意!
自転車が喋るけど気にしないで!
清々しい蒼の空が揺れるように笑っている。
向こうの空では黄金と茜色が波立った夕暮れが、人々の頬を照らす。
西を見れば大きな満月が夜空に浮かび、流れる星に誘われて光っている。
桜が靡き、満遍なく花びらを散らす。
向日葵は太陽を永遠と眺めて、橙の花びらを揺らして。
紅葉した木の落ち葉がカサカサと深い穴を作る。
雪が積もり新しい雪だるまという名前の命が生まれる。
耳を澄ませば、ひぐらしの鳴き声が、鶯の鳴き声が、蝉の鳴き声が、雨の音が、人々の喧騒が、カラスが羽ばたく音が。……聞きたい音が聞こえてくる。
お腹がなるのは、どこかの家が焼く魚の香りのせいだろうか。
それとも、一生懸命に鳴らすラーメン屋のチャルメラの音のせいだろうか。
子供のためにぐるぐると氷を削る、かき氷を作る音のせいだろうか。
ただひたすらに、美しいと言う考えが浮かぶ。
メルはそんな国を、永遠とそんな光景が終わらない国を黙って歩く。
宿に泊まりたいなと思ったら、いつの間にか近くに来ていて。
まだもう少し歩いていたいなと思ったら足が勝手に動き出す。
理想郷と一言で表すと、無粋だろうか。
メルは偶然この国に辿り着いただけなはずなのに、頭のどこかで、ただいまとでも言いたい懐かしさが溢れる。
一度も見たこともないのに、メルがなりたい気分になる。
メルは、河川敷の土手に座り、シドに話しかける。
「この国、どう思う?」
「うーん……一言で言うなら、綺麗だね。」
「だよね。でも、なんて言うか……。」
「なんて言うか?」
「そうだけどそうじゃないって感じ。」
「だね。」
美しすぎたら逆に嫌になってしまうのでしょうか?




