勇者の剣を抜いたら王様になれる国 - side the country
注意!
自転車が喋るけど気にしないで!
人が死ぬのが嫌な人は読まないで!
犬は死なないよ!
『この国は腐っている。』
頭の中に、その文字がうねりまわる。
物心がついた頃から思っている言葉だ。
でも、それが間違ってるとは俺は思ってない。
実際、税金の殆どは国王の懐に入っていっているし、それを警察は裏金を貰って見逃している。
国中に監視カメラが張り巡らされていて、国王の悪口でも言ったら即死刑だ。
国王の前を横切ると死刑。国王の銅像に頭を下げないと死刑。国王の悪口なんて言語道断だ。
国を変えなければならない。
それが使命だ。
生きる意味だ。
地下会議室。
僕ら”少年少女反乱軍“のアジトである、この国では珍しく、監視の手が届いていない場所。
いつもと同じ、張り詰めた空気が走っている。
「ねえ、うちのプリン食べたでしょ。」
「いいや!食べてない!」
エレナのプリンを、ドンパが食べてしまったからだ。
「クルトも見たよね。ドンパがうちのプリン食べてたところ。」
急に自分に話を向けられて驚く。
「まあまあ、落ち着いて……。」
「見たのかって聞いてんの!」
「見てない。」
そう答えると、ドンパは調子に乗る。
「そうであろう!そうであろう!私は食べてはいないのだ!」
「ほっぺにカラメルついてるけど。」
「あっ。こ…これは違うのだっ!」
エレナがドンパを追いかけ回す。
その光景を見て僕は大きな笑みを浮かべる。
こんな風に、地上でも笑える日が来ればいいのに……いや、作るんだ。そんな日を。
「そう言えばあのイベントはいつ始まるのだ?」
ポカポカと頭を叩かれているドンパが思い出したかのように聞いてきた。
「勇者の剣のイベントの話?確か10日後だった気がする。だよね?」
「うちの記憶ではそうだった気がするよ。」
「10日後か……。クルト、計画をもう一度説明してくれ。」
そう言われて、僕はホワイトボードを取り出す。
そこに勇者の剣と、僕らの地下会議室を描く。
「これが僕らがいるところだ。」
こんっとペンで地下室を指す。
そこからすーっうっと横にペンを滑らす。
「勇者の剣のちょうど真下まで、こんな風にトンネルを掘ってきたよね?」
「ああ。私の活躍により予定より早く進んだな!」
「無理だと嘆いてたあんたを励ましたうちのおかげでしょ。」
「まあそんな2人のおかげで、いい発見ができた。あの剣はエレメンツ製の塊によってどんな人間でも引き抜けないようになってたんだ。ご丁寧に王族の印までつけられてね。」
剣の根本に丸を描く。
「これをどうにかしないといけないわけだが……。」
エレナの方をチラリと見る。
「エレナのお父さんは花火師だよね。」
「そう。この国で唯一火薬の所持が認められてるの。うちの父さんすごいでしょ!」
「その火薬を使って、私が塊をどかーんと破壊するのだ!」
僕は塊の上に、爆破のエフェクトを描く。
「そうすると、剣が簡単に抜けるようになる。だからイベント中引き抜いた人が国王になる。」
「今の国王よりかは、幾つかマシになるだろうな。」
「うちらで、変えよ。」
「もちろん。」「もちろんだ。」
僕らは同時に答える。
こんな腐った国、一刻も早く変えてやる。
◆
深夜、目が覚めた。
いよいよ、明日か。
緊張して眠れやしない。
僕は布団から出て、地下会議室に向かう。
夜は出歩いてはいけないけど、会議室までの監視カメラは今全部故障中だ。
あの会議室を選んだ理由もそれが理由。
そおっと会議室の扉を開くと、灯りがついていた。
「お!クルトじゃん。」
「君も来たのか。」
2人がいた。なんとなく安心する。
「なんだ。考えることは一緒なんだ。」
「別にうちは眠れなくてここに来たわけじゃないからね!」
「私が入る時に眠れないって言ってたじゃないか。」
「そ…それは違うの!」
エレナはドンパの頭をポカポカと叩きながら、「バカバカ!」と言う。
僕はそれを見てくすりと笑う。
少し経って落ち着くと、エレナは提案をする。
「うちらの成功を願って、円陣を組もう!」
「いいね。組もう組もう!」
「いい提案しますね。この机をどかしましょう。」
机を運ぶと、丸に並んで肩を組む。
エレナは深呼吸してから、言う。
「少年少女反乱軍、絶対成功させるぞーっ!」
「「「お────────!!!」」」
僕らは、会議室までの道のりの監視カメラ全てが、全て治っていたことに気がついていなかった。
●
会議室に行く為に、階段を下っていると後ろから話しかける。
「クルト!」「クルト君。」
「ドンパ、エレナ。爆弾は?」
「これ!」
エレナは壁に貼り付けられる四角い爆弾を見せる。
僕らで作った爆弾だ。
「よし、準備は万端だな。」
「国の外は挑戦者で賑わっていたのだ。」
「あと3分で開催だな。」
扉の前まで来て、扉を開けようとすると、中から話し声が聞こえてきた。
静かにと、口の前で人差し指を立てる。
大人の声だ。
「こんなところに反乱因子があったなんてよぉ。」
「捕まえればガッポガッポだ!」
小声で2人に言う。
「警察の奴らだ。気が付かれた。」
「ええっ……どうするの?」
「追い払うしかないだろう。」
「ああ。ここまで来て諦めるなんてできない。」
「じゃあうちとクルトがいち、に、さんで飛び出して、警察を止める。その内にドンパは爆弾をエレメンツの塊に貼り付けて。」
「おーけー。」「了解だ。」
息を呑む音が、やけに大きく感じられる。
扉の隙間からエレナが様子を見ている。
やけに呼吸が重い。
「いち、に、さん!」
扉が大きな音を立てて開く。
いきなり飛び出してきた僕らに警察は驚き固まる。
飛び乗ってそいつらを押さえる。
「ドンパ!行け!」
「ああ!」
ドンパが走り、トンネルに入っていく。
「このやろう!」
警察は僕らを押し除け、ドンパを追いかける。
僕らもそれを追いかける。
洞窟の1番奥で、警察にドンパが追い詰められている。
「さあ、坊や、その爆弾を渡しなさい。」
「渡すもんですか!」
ドンパは爆弾を取り出す。
まさか!
僕は最悪な想像をする。
そんなの嫌だ。ドンパ!
そんな思いも届かず。
ドンパは爆弾のスイッチを押す。
燃えるような風が僕らを後ろに飛ばす。
焦げ臭い匂いがトンネル中に溢れる。
警察と、ドンパが肉片になる。
エレメンツの塊にヒビが入ってるのを確認したのが、気絶する前の最後の記憶だった。
○
30分くらいだろうか。
気絶から目を覚ます。
焼けこげた地面を見て、大粒の涙が流れ出す。
「ァァ……ああ…!」
上手く声が出ない。
「嘘。ドンパ……死んじゃったの?」
エレナが膝から崩れ落ちる。
目の前がまた真っ黒になりそうになった時、床に落ちていた警察がつけていた通信機から声が流れ出す。
『こちら勇者の剣監視部署。剣を引き抜いた旅人が逃亡。乱闘が発生。救援求。繰り返す──』
涙を呑み込み、エレナに伝える。
「聞こえたか?ドンパの死を無駄にしちゃいけない。」
「わかった。旅人を引き止めよう。」
僕らは地上に向かって走り出す。
階段を登り終えると、数人のの警察が待ち構えていた。
「エレナ、先に行ってくれ。」
「……うん。死なないでね!」
○
うちは得意の逃げ足で国の門を目指す。
後ろではクルトが警察に抑えられている。
うちが頑張らないと!
道がありえないほど長く感じる。
警察は銃を構え、うちを狙う。
肩に穴が空いて、死にそうな痛みが身体中を巡る。
それでも走る。
地面を踏み締めて、名も知らない、顔も知らない旅人を目指して、走る。
門番も無視して、国から出る。
いた!
自転車に乗って、走り出そうとしている旅人が。
息を吸い込む。
そのぶん体も痛む。
「待ってくださ────────い!」
呼吸が荒くなって、頭が高い音を鳴らす。
旅人はこちらを見るなり、顔を真っ青にしてこっちに走ってくる。
倒れそうになるところを、旅人がうちを受け止める。
「どうしましたか!」
「剣を抜いた人だよね。うちの……うちらの王様になってください!」
無理をしたせいか、また気絶する。
うち……頑張れたかな。
○
「メル、この子大丈夫?」
「今すぐ手当しないと死ぬってわけではないけど、応急処置はしておかないと。」
メルはリュックから珍しく一発で救急箱を取り出す。
包帯やなんやらを持って、傷口を覆っていく。
「王様になってって言ってたけど、なんでそんなに必死に?」
「なんとなく、わかった気がするよ。」
メルは応急処置を済まし、傷だらけの女の子を端に寝かせると、すくっと立ち上がる。
「シド、二回目だけど、王様になることにしたよ。冬の間だけね。」
「りょーかい。」
メルは乱闘が起きていた場所に向かう。
するとあの勇者気取りの男が剣を持ちながら剣の見張りに何か言われいていた。
勇者気取りはメルがいると気がつくと、駆け寄って泣き言を嘆く。
「聞いてよ!あの人王様になれるのは剣を抜いた人だけって!」
「大丈夫です。私が王様になるので。その剣、返してください。」
「え?」
メルは半ば強引に剣を返してもらう。
そして剣を一振りして、見張りに言う。
「王様のいる場所に案内してください。」
「ああ?王室はアポ無しじゃ訪問できないんだよ!」
今度は剣ではなく、銃火器を構える。
「へっ!それは脅しのつもりか?」
「いいえ。殺すと言う合図です。」
森が静かになる。
「珍しいね。メル。人を撃つなんて。」
「これはしょうがない死だよ。あとで埋葬してあげよう。」
と、言いつつ、何かいいものがないか死体を漁る。
運良く国のマップと、法律の書かれた本を見つけたようだ。
メルは、いつものように門から国に入る。
銃を奪おうとした門番は撃ったらしいが。
法律全書を読み進めるごとに、国に怒りが湧いてくる。
普段、特に関わる必要のない国には関わらない方針のメルも、やはり許せないこともあるようだ。
シドはメルのいつもと違う行動に不安になる。
「本当に今日はどうしたの?メルらしくないよ。」
「どうして?」
「こんなことしないじゃん。」
「それはそうだけどさ……。」
「あ、そうか。冬を過ごすためのお金ないのか。」
「バレたか。」
本当にそうだったらしく、メルは緊張の表情を解く。
「なぁんだ。メルが珍しく正義を持ったかと思ってヒヤヒヤしたよ。」
「正義に対義語は無いが好きな言葉。」
「今ぱっと考えたでしょ。」
「うん。」
この国は、法律に従う人間が多いようで、勇者の剣をチラリと見せるだけで城の中に入ることができた。
今は、王座に座っている国王と睨み合いをしている。
「なんだ貴様は。」
「法律に確か書いていましたよね。国王に無礼を働いたら、死刑。」
◆
メルさんは、僕らを救ってくれた。
前の王様の作った理不尽な法律は撤廃。
国に自由という言葉を溢れさせた。
でも、冬が終わる頃にはまた旅人に戻るからと、僕と、エレナを王様に育ててくれた。
……メルさんは特に何もせず家庭教師を雇っただけだったけど。
数ヶ月も経てば、僕らは立派な王様になった。
春が訪れた頃に王位継承式をして、パーティを開いた時には、メルさんは風のように旅人に戻っていた。
お礼も言えてない。
先日、エレナとの子が生まれた。
3人の名前を取ってドレトという名前にした。
メルさんは今何をしているのだろう。
多分、旅を続けてるんだろうな。
長い冬を過ごすには、国王になるのが最適です。




