勇者の剣を抜いたら王様になれる国 - Outside the country
注意!
自転車が喋るけど気にしないで!
「ここだって。」
メルが指差す先には、輝いている白い大理石の台座と、そこに刺さっている太陽の温もりを詰め込んだかのような美しい銀の剣があった。その後ろには長蛇の列ができている。
「あれが勇者の剣?」
シドが聞く。
「そう。抜いたら勇者になって近くの国の王様になれるんだって。」
「チャレンジするの?」
「抜けたらお金になりそうじゃん。」
メルはすっからかんの財布を逆さまにして、パタパタと振る。
中にあった埃が、空の財布に残っていたという誇りを持って宙に旅経つ。
「……この列なのに?」
長蛇にも程があると言うのに、列は縦にしたら月にも届きそうだと思えるほど長い。
「メル、勇者の剣には簡単に辿り着けないってのはこの事?」
「多分ね。」
列に並んでいると、前に並んでいた男が、話しかけてくる。
「もしかして、メルか?」
「はい?……誰ですか?」
どこかで出会った気がするが、どうにも思い出せない。
「メル、あれじゃない?ほら勇者の。」
「ああ!あなたでしたか。」
以前一つの村の悪党のアジトを共に壊滅させた記憶がある。
脳の端っこで縮こまっていた記憶を、なんとか引き出して思い出せた。
「思い出せたのだな!まあ無理もない。旅人はそう言うものだと聞いている!」
「それで、挨拶だけですか?」
「いや、列並ぶのに飽きてきてな。世間話でもしようかなって!」
「遠慮しておきます。」
「遠慮せずに!これは山を三つほど超えた湖にいる巨大ナマズを倒した時の話です。なんと身長が6mもあり、それは本当に大きかったのなんのって!しかし僕は勇者、諦めるわけにはいかない!この剣を引き抜いて飛びかかる!するとナマズがその体からは考えられないほどの跳躍を見せ、ビタンと地面を叩いた!地が揺れ波が暴れ、僕でも驚いた。でもナマズが体を止めていることに気がつき!隙を逃さずズバリと剣を突き刺した!その結果ナマズはジタバタと暴れた後、息を引き取った!僕の勝利!ちなみに突き刺した剣は火山に住まう灼熱のドラゴンが守護していたエレメンツセカンドバスターソードって言って、その話も聞くか?」
メルはしゃがんで、地面に迷路を描いて遊んでいた。
急に回答を求められたメルは、戸惑いつつ返事をする。
「え?あ、えーっと……凄いですね。」
「ウンウン。スゴイスゴイ。」
シドも適当に返事をする。2人とも何も聞いていなかったらしい。
「だろう?そういえば、メルもあの剣を抜こうとしているのか?」
「そのために並んでいるんです。」
「ああ!そうだったな!ではエレメンツセカンドバスターソードの話を続けるぞ!ドラゴンは──」
○
いつのまにか、勇者気取りの男が剣を引き抜く番になっていた。
「さあ、さっさと抜け。」
見張りが急かす。
「ああ!絶対引き抜いてやる!」
勇者気取りは剣のガードを持つ。
「ふんっ!」
思いっきり力を入れるが、剣はぴくりとも動かない。
「ふぅぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」
顔が崩れ、笑えるほど変顔になろうとも、ぴくりとも動かない。
「はーい、お時間でーす。」
「くそう!」
男は潔く諦める。
「次の方ー。」
メルはゆっくりと剣を見つめ、ゆっくりと近づく。
ゆっくりと、撫でるように、ガードを持つ。
なんだか地面が揺れた気がするが、気にしない。
あの屈強そうな体をしている男も抜けなかったのに、抜けるのかとか考えながら、力も込めずに持ち上げようとする。
ぴくりとしか動かない。
「ん!?」
見張りが驚く。
「今まで一度も動いたことないのに…!」
「ひゅー!メル怪力!」
シドが茶化すが、結構深刻な事態なようだ。
ぴくりと動いたと言うことは、最悪抜かれてしまう。
そう考えた見張りは、誰かに連絡をつける。
その間にも、メルは剣を持ち上げる。
剣は少しずつ天へ伸びていく。
32分と43秒経ったあたりか。
剣の長さは思ったよりも長く、抜けそうなあたりまで持ち上げてもまだ抜けない。
もう諦めようかなとメルが思ったその時、
「スポンッ───!」
剣がいい音を鳴らして台座から外れた。
メルは少し困惑する。
「えーっと……?」
振り向くと、屈強な男らが信じられないものを見るかのように体をのけぞらせている。
「最近溢れてきたジャンルの主人公目線はこんな感じかー。」と思いながら、持ち上げていた剣を床に下ろす。
そして声を上げる。
「これー早い者勝ちでーす。」
乱闘が勃発した。
メルは国にも入らず、夕暮れの中をシドに乗って走る。
「お金に変えられたのに、よかったの?」
「なんか面倒くさくなった。」
「なんで?」
「なんでだろうね。」
何やら国の中が騒がしい気がするが、気のせいだろう。
運が良かったのでしょうか?




