自爆
スイスイと進んでいたトンネルラットの足が止まる。
「ブービートラップだ」
そう言い、彼は懐中電灯で少し離れた地面を照らす。そこにはワイヤーがピンと張られており、その端はMK2手榴弾の安全ピンに繋がっていた。ワイヤーに引っかかると、手榴弾からピンが抜けて炸裂する。古典的なトラップだ。
ベトナムでさんざん経験したようで、トンネルラットは腰のポーチからペンチを取り出しワイヤーを切ろうと歩み寄った。次の瞬間、彼の足元が爆発した。ブービートラップの少し前に地雷が仕掛けられていたのだ。しかもその爆発の衝撃でブービートラップも作動し、トンネルラットの肉体はズタズタに引き裂かれる。悲鳴を挙げる間もなく、爆発音だけがトンネルに響いた。
「クソ……」
ジェイスの吐き捨てた言葉は、誰の耳にも届かなかった。爆発音が響いたせいで、誰の耳も使い物にならなくなっていたからだ。
酷いことになっていたのは北東側から突入した部隊も同様であった。
敵は突入された時の事を考えて、本島北部へ更に逃走を図るべく北東側の空間に集中していた。彼等と突入してきた海兵隊がかち合い、大規模な銃撃戦に発展したのだ。
敵は文字通り死に物狂いで抵抗する。逃走経路であった北東側から海兵隊が入ってきたということは、南側からも海兵隊が入ってきていると考える方が自然だ。ということはつまり、敵からすれば逃げ場が完全に塞がれたことになる。死に物狂いになるのは当然と言えた。
かつては倉庫として使われていた広場、そこは今、弾丸が飛び交う鉄火場となっていた。
敵側は虎の子である旧日本軍の九六式軽機関銃を据え付け、弾幕を張って海兵隊の進出を防いでいる。
対し海兵隊側は岩陰に身を隠し、リロードや僅かな隙を突いて牽制射撃をするだけであった。本来であれば携行ロケットランチャーなどで機関銃を潰すのだが、狭いガマの中で使おうものならバックブラストで後ろの人間が丸焦げになってしまう。なので、今回の突入作戦においては携行してきていなかった。
また交戦するのが狭いガマの中なので、狙撃手もいない。狙撃での排除も難しかった。
それだけなら、機関銃の弾が底を尽きるのを待てばいい。だが、そうもいかない事情があった。
「沖縄、バンザーイ!」
そう叫び、一人の老人が手榴弾を手に海兵隊の方へ駆け寄ってくる。
「カミカゼ!」
掛け声も銃声や耳鳴りのせいで誰も聞くことはなかった。前の方で牽制射撃をしていた隊員が慌てて奥へ引っ込むも、間に合わなかった何人かが爆発に巻き込まれる。このような特攻攻撃で、ジワリジワリと頭数を減らされるのだ。
このような状況に置かれ、カズミは焦り、歯噛みする。何かこの状況を打破する術はないかと模索するも、いいアイデアは浮かんでこない。
どうしようもないと思った時、ふと彼女の脳裏にジェイスの顔が浮かんできた。何故かと疑問が浮かぶも、それについて考える暇もなく目の前のことに忙殺されてしまったが。
トンネルラットが死んでから、待ち伏せやトラップを経てジェイスの分隊はほぼ壊滅状態にあった。分隊長も死に、生き残りの中で最高階級のジェイスが指揮を執っている。指揮といっても大したこと技能的にしないし、出来ない。慎重に歩を進め、なるべく兵を死なせないようにするだけだ。
図面通りなら、あと少しで北東のトンネルに繋がる広場に出る頃。ジェイスは硝煙の臭いを感じ取った。耳鳴りが酷いので確かなことは分からないが、微かに銃声のような破裂音も聞こえてくる。
後ろについてきている隊員に、身振り手振りで気を付けるよう促す。ブービートラップに引っかからないようにしつつ、スリ足で音がする方へ近づいていく。
そして、広場の手前。多くの人間が溜まっており、その先の方では閃光が瞬いていた。彼等の格好は米兵の物ではない。敵だ。
彼等は広場の方に視線を向けているので、不意打ちが出来る。ギリギリまで近づいてから、上げた手を勢いよく振り下ろし攻撃を支持する。
分隊員が持つM16やイサカM37が一斉に火が噴く。
意識の外からの攻撃に敵は泡を食い、転げるように広場に出ていく。それを追いかける形でジェイス達は広場に出る。
すると、反対側のトンネルから北東側から突入した部隊が顔を出す。意図しない形であったが、挟み撃ちになった。
海兵達を追い払うように射撃していた機関銃も、弾が切れて沈黙する。囲まれているので敵はリロードはおろか、銃を構えることも出来ない。
すると、敵の何人かが武器を捨て両手を上げた。投降の示したのだ。一人、二人が示すと抵抗する気力の無い者、観念した者、怯えた者が俺も俺もと銃を捨てる。このまま全員が投降するかと思われた時、数人の老人が動いた。手榴弾や爆薬の安全装置を解除したのだ。
「逃げろ!」
誰かが反射的に叫んだ。
海兵達がまたそれぞれのトンネルへ逃げ込もうとするも、全員が逃げ切ることは叶わない。
数々の爆薬が炸裂する。炸裂する瞬間、自爆を選んだ老人達の顔は何処か満足気であった。
敵は老人や投降の意志を示した者も関係なく爆死した。海兵達も何人も巻き込まれた。




