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仇討の島  作者: タヌキ
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最後のガマ

 那覇市街、南袢島。その二か所で首謀者の老人が確認出来なかったことから、与那覇岳のガマに潜伏している可能性が高くなった。爆撃で民政府の庁舎は一部崩壊したが、資料室は残っており占領軍が残した資料からそのガマの全容が明らかになる。

 大戦時は旧日本軍が基地として使用しており、元の洞窟から改築、拡張がなされていた。

 図面から作戦が立てられ、海兵隊から突入要員を募り、ガマ制圧の準備が着々と整えられていった。

 そして、南袢島制圧から三日後。

 ガマ突入作戦が決行されようとしていた。


 キャンプ・フォスター。

 トラウトマンは今日何回目かの質問を投げかけた。


「本当に、行くのかい?」


 海兵隊より貸してもらったイサカM37散弾銃へ弾を込めながら、ジェイスは頷く。


「はい」


 トラウトマンの目線がカズミへと移る。彼女はヘルメットの顎紐をキッチリと締めていた。


「勿論です」


 先程から二人の答えは変わらない。老人を逮捕すべく、ガマ突入作戦へ参加するのだ。既に海兵隊の了承は得ており、後は集合場所に行くだけである。


「……分かってることだと思うが、憲兵は正規の戦闘部隊員じゃない。根っからの戦闘屋である海兵隊員に混ざったところで足手まといになるだけじゃないかな」


 心配から歯に衣着せぬ物言いになるトラウトマン。それにはジェイスとカズミは困り笑いをするしかない。


「……どうしても、行かないとダメかね」

「行かないといけないんです、私達が」

「ちゃんと決着をつけないと。これは、どうしても海兵隊には任せられない」


 二人の気持ちは決意した時から変わっていない。なんなら、自分達が出ても老人を海兵隊に殺されては負けだと認識している。


「馬鹿なことをしていると思うかもしれません。でも、二人で決めたことなんです」

「大佐には申し訳ないですが、止めても無駄です。俺達はもう腹を括ってるんです」


 ここまできて若者二人の強い意志を汲み取ってやれないほど、トラウトマンはボンクラでも野暮ではない。それでも、かなり悩ましい顔をしているが。

 準備を終えた二人はトラウトマンへ敬礼をする。


「じゃあ、行ってきます。大佐」


 キャンプ・コトニーへ向かうジープをトラウトマンは静かに見下ろし、張っていた肩を下ろした。


「若いってのは……」


 その口調は怒っているようで、嬉しそうで、悲しそうであった。


 キャンプ・コトニーで海兵隊と合流した二人は、彼等と共にトラックで与那覇岳を目指す。海兵達は一個中隊分いた。

 海兵達は憲兵ながらこの作戦に志願した変わり者二人に、あれやこれやと質問を投げかける。特にカズミは質問攻めに遭っていた。女だてらに捜査に参加しただけでなく、銃を持って戦おうという。男社会の軍隊では物珍しい存在だからだ。

 しかし、自身の過去や志願した理由を明かす訳にもいかず、カズミは愛想笑いで誤魔化すしかない。質問に答えなくとも女っけに飢えた野郎共は、その笑顔を見れただけで満足そうであった。

 ジェイスの方もシンプルであった。とっくの昔に殺人童貞を卒業していて、那覇での激戦を経験したと分かると海兵達はジェイスに一目置く。若い海兵が特に顕著だ。

 そうして交流を図っている内に、トラックは山へと入り、しばらく走ったところで停まった。


「総員、降車!」


 中隊長の号令で、海兵達とジェイスとカズミがトラックを降りる。目的のガマ、その出入り口は南と北東の二か所。中隊は二個小隊ずつ分かれ、それぞれの出入り口からガマ内部へと突入する。ジェイスは南側から、カズミは北東から突入する部隊に配属された。


「じゃあ」

「ああ、また中で」


 二人は別れ、それぞれの部隊は山を登る。ナパームで煩わしい木々は全て燃えてしまったので、部隊はすいすいと登っていく。

 そして、ガマの入口に辿り着く。発見時から入口は監視されており、報告の上ではここ三日間で人の出入りはなかったという。このガマは旧日本軍が籠城を前提に改築しており、内部には井戸や炊事場まである。食料を持ち込みさえすれば、それなりの期間籠っていられるのだ。

 部隊の中から背の低い者が先頭に立つ。彼等はベトナムでトンネルラット――ベトコンが構築した地下トンネルの掃討を専門にしている者達だ。ゲリラ化した敵が地下に潜っているという点では今回のこの状況とベトナムはそっくりそのままであった。なので、その手のプロへ任せる


「行くぞ!」


 トンネルラット達がガマへ突入していく。続いて海兵達が列を成して入っていく。ジェイスとカズミはそれぞれ列の最後の方であった。

 入口付近は人が通れるギリギリの幅と高さしかない。入口付近で敵をもたつかせることで、籠城側が迎撃の準備をする猶予を作らせていたのだ。海兵達はあちこちで詰まるも、先行していたトンネルラット達は慣れたものでスイスイと進んで最初の広場を確保していた。

 狭く息が詰まりそうだったが、広場に出るといくらか楽になった。

 広場には四つ、トンネルへの入り口があった。二つは横へ繋がっており、一つは上、もう一つは下へ繋がっている。

 かねてよりの打ち合わせ通り、二つの小隊が更に四つの分隊に分かれ、それぞれのトンネルへ割り当てられる。ジェイスの分隊は下へ続くトンネルの担当だ。ジェイスとカズミの狙いは最下層にある指揮所。何処にいてもおかしくないが、首謀者ならそこにいる可能性が高いと睨んだのだ。

 トンネルラットを先頭に分隊は進む。各所に空けられた通気口を通じ、何処からかの銃声が聞こえてくる。


「始まったな」


 周りに聞こえないくらいの小声でジェイスは呟く。トンネルはまだ、下へ続いていた。

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