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仇討の島  作者: タヌキ
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過去への姿勢

 瓦礫と廃墟だけになった那覇市街。

 そこの道路を一台のジープが走っていた。死体確認を終え、キャンプ・フォスターへと戻るジェイスとカズミが乗るジープだ。ジェイスがハンドルを握り、カズミが助手席にいる。彼女は死体の腐敗臭でグロッキーになっている。無理もなかった。ジェイスの顔色も悪い。

 新鮮な空気を吸って気分転換ともいかない。やたらと埃っぽく、しかも鼻に臭いが染みついてしまっているので吸えば吸うほど気分が悪くなる。それを誤魔化すため、ジェイスはやたらと煙草を喫した。ニコチンで頭がぼんやりとした。

 ジープは歩く海兵隊員達とすれ違う。その瞬間、ジェイスはふとデジャヴを覚えた。

 あれは、潮見派の残党へ会いに本島南端の村へ向かっていた時だ。父の姿を幻視した。あの時と同じ感じがしたのだ。

 あの時は戦場も一緒に幻視したが、今の那覇は戦場そのものだ。奇しくもその光景は、ジェイス自身が見たかった二十五年前の光景と一致する。

 燃えたヤシの木。崩れた建物。その間を進む兵隊。

 それらを眺めていると、ジェイスは心に虚しさが湧き上がってくるのを感じた。そして思う。父も同じ気持ちだったのだろうかと。少し考えてみた後、彼は咥えていた煙草を車外へ放り捨てた。

 考えて出した結論は「分からない」であった。

 父親は何も語らなかったし、死人の気持ちなど分かるはずもない。分からなくて当たり前だ。だが、前のジェイスは父の影に怯えながらもそれを求めようとしていた。

 狂った末に死んだ父を理解しようと、自分に何も授けてくれなかった男の死にざまから何かを得ようとしていたのだ。

 しかし、追い求めれば追い求めるほど苦しいだけ。何かを得るどころか、失うばかりだ。

 答えがある問題ならまだしも、それには答えがない。答えの無い問題をどうしたところで、答えが出てくる訳がない。言ってしまえば、無駄なのだ。ジェイスにとって、父親のことを考えるのは。

 過去に思うことがあろうと過去に介入は出来ない。今を生きている以上、どんなに嘆いても悲しくても辛くても前に進むしか出来ないのだ。

 ジェイスはいつぞやカズミに促されて外出した際に見上げた星空と、口にしたバニラアイスの味を思い出す。あの時も落ち込んだままであったら、星空の美しさを感じることなく美味しいアイスも食べ損ねていたことだろう。そう、得ることなく失っていたのだ。

 ジェイスは再び煙草に火を点けた。

 過去に囚われて失うばかりなら、悲しくとも辛くとも何かを得るべく進んだ方がよっぽど良い。

 辛かった過去を振り返ってそれを今後の糧とするならまだしも、でもしかの問答を繰り返したところで過去は変わらない。なら今この瞬間の現実と、これからの未来を良いものにすべく付き合っていくしかないのだ。

 ジェイスは煙を吐き出すついでに空を見上げた。荒れ切っている地上に対し、ひとしきり雨を降らせた空は清々しい青が広がっていた。


 キャンプ・フォスターへ戻ったジェイス達をトラウトマンが出迎える。


「ご苦労だったね」


 腐敗臭が染みついているはずなのに、トラウトマンは嫌な顔をせず笑顔でいた。こういうところが大佐である所以なのだろうとジェイスは思った。それでも本人達が耐えられないので、二人は揃ってシャワーを浴びた。

 シャワーを浴びた二人へ、トラウトマンはあるニュースを報告する。


「麻薬工場がある島……南袢島へ特殊部隊が突入することになった」

「特殊部隊、ですか」

「ああ。戦闘要員が出払っているから戦力的には十分で、目的が島の制圧ではなく首謀者の確保にあるからだ」


 首謀者の確保と聞き、ジェイスとカズミは顔を上げた。


「死体が確認出来ていない以上、まだ生きていると考えるのが自然だ。そして、何処かに潜んでいると考えるのも」

「ですね」

「それと、この島の北にある与那覇岳で、山狩りをしていた海兵隊が深いガマを見つけた。他のガマはあらかた制圧したから、残る敵はそこに集まっているようだ」

「じゃあ……あの老人は、そのどちらかにいる、ということですね」


 カズミの言葉にトラウトマンは頷いた。本島はそのほとんどが制圧されたので、いる可能性があるのはその二つぐらいだ。


「見つかればいいんだがね……」


 重々しい口調でそう言うトラウトマン。今度はカズミとジェイスが頷く番であった。


 数時間後。南袢島。

 三機のUH-1Hヘリが島中央部の農地上空でホバリングしている。ヘリから合計三十名のグリーンベレー隊員がラペリングで降下した。

 降下した隊員は、M16の短縮化モデルであるXM177E1ライフルを手にしていた。隊員はガマと村で二手に分かれる。

 ガマではヘリの音が聞こえず、不意を突かれた島民達はロクな抵抗も出来ないまま無力化された。対して村の方ではばっちりヘリの音が聞こえており、隊員と島民との間で銃撃戦が起こった。

 しかし、戦闘員のほとんどを本島の方へ送っており、村に残っていたのは僅か十名。銃撃戦は長くは続かなかった。

 隊員達は死体、生存者関係なく島にいた全員の顔写真を撮影する。後に現像された写真がジェイスとカズミの元へやってきたが、お目当ての老人の顔は写真にはなかった。

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