底力
空母ミッドウェイは七十機のF-4J戦闘機を搭載していた。
嘉手納基地の滑走路が使用不能であるので、今のミッドウェイは貴重な航空機基地だ。
市街地とジャングルに潜むゲリラに悩まされていると聞き、飛行隊の隊長は胸が高鳴らせた。
そのようなゲリラに対処するのが、戦闘機の仕事だからだ。
飛行隊の隊長は即座に空母艦長と掛け合い、すぐに出撃することになった。
甲板上を作業員達が行き来し、エレベーターで昇ってきたF-4をカタパルトへと誘導していく。
「メビウス1、離陸を許可する」
定位置に着いていたF-4のパイロットは管制官からの無線を聞き、アフターバーナーを焚いた。
そして、F-4はカタパルトで一気に射出される。甲板を飛び出したF-4は一瞬沈むも、揚力を得てすぐさま大空へと吸い込まれていく。
「メビウス1、高度規制を解除する。幸運を祈る」
コールサイン「メビウス1」に続き、次々とF-4が空母から飛び立って行く。それらのF-4はいずれも爆装していた。
那覇市街。
廃墟同然となったビルに潜んでいたゲリラは、良くも悪くも聞き慣れたしかし聞こえるはずのないジェットエンジンの甲高い轟音を耳にした。
窓から外を窺えば、港の方からF-4が飛んでくるのが目に入る。
ゲリラはそれが信じられなかった。蜂起した時、嘉手納基地の滑走路を破壊したはずだからだ。
「嘘だろ……」
その呟きはエンジンの轟音に容易くかき消された。
F-4はウェポンベイへ格納していた爆弾を市街地へ投下していく。そのうちの一つが、ゲリラがいるビルへと落ちてくる。
「逃げろ!」
ゲリラは仲間に向けて叫ぶも、仲間に届くよりも先に爆弾が爆発する。
爆弾の直撃を受けたビルは中にいたゲリラごと崩壊していく。同じようなことが那覇市街では続出した。
辛うじて生き残った者達は、自分達が行ってきた破壊が児戯に思えるほどの圧倒的な破壊を前に憎悪すら忘れ、呆然と空を見上げるしかなかった。
しかし、爆撃はそれ一度で終わらない。那覇市街の殆どが瓦礫の山と化すまで、F-4は往復を続ける。
警察本部を確保していた米兵達はそのF-4の勇士に歓喜し、空では聞こえないし見えないと分かっていながらも指笛を鳴らしたり、投げキッスをしたりして激励した。
一方、島の北部でも同じことが繰り広げられていた。
友軍の施設だろうがお構いなしに、F-4は爆弾を投下していく。
驚き、慌てふためくゲリラ。
対空砲を動かそうとするも、鹵獲した兵器を運用している都合で練度の低いゲリラではジェット戦闘機を撃ち落とすのは難しい。また、戦闘機パイロットもプロだ。地上に対空砲を認めると、すぐさま潰しに掛かった。
鹵獲兵器や仲間を失ったゲリラ達は、更に北部のジャングル・山岳地帯へと逃げていく。
蜂起から二日目。
米軍はようやく、勝利という勝利を手にしたのである。
空母の到着と飛行隊の活躍によって、基地は沸き立った。
散々煮え湯を飲まされた相手が、味方の活躍によって文字通り粉砕されたのだから当然と言えば当然だ。
また、嘉手納基地の滑走路復旧の目途が立った。明日の昼には使用可能になる。
それによって、岩国で足止めを喰らっている海兵隊が沖縄に来れ、嘉手納にある航空戦力も投入出来るようになる。基地に避難している民間人も日本本土の米軍基地へ逃がすことが出来る。
そうなれば、戦闘ももっと派手に行える。となると、自然と勝ち筋も見えてくる。
ゲリラが潜む市街地とジャングル。戦場のシチュエーションは現在進行形で戦っているベトナムと同じであるが、根本的な部分がベトナムとは異なっていた。
ベトナム戦争において俗にベトコンと呼ばれる南ベトナム解放民族戦線の構成員数は最終的に約四十五万人とされている。対し、今回蜂起した人数は千人弱、そこから戦闘や爆撃を経た上での数は四百人弱。
頭数が圧倒的に違うのだ。
また、ベトナムで米軍を苦しめたのはホーチミンルートと呼ばれる補給路だ。ベトコン達はそのルートを用い、ベトナム各地に散らばるゲリラまで兵站を行き渡らせた。実態はただの獣道であったが、故に米軍がいくら爆撃してもすぐに復旧可能であったのだ。
しかし、蜂起した人々にはホーチミンルートのような組織的な補給体系は無かった。
そもそもの話、蜂起した人々は軍隊ましてや軍人ではないのだ。元軍人はいるが、だからといって補給が受けられる訳ではない。どんなに溜め込んでいたとしても、戦えば戦うほど物資は減っていく一方だ。
更に言えば、この場所は島だ。追い詰められても逃げる場所が無い。先の大戦で集団自決が多発したのも、その地理的条件が原因の一つだ。
それに、米軍にとっては沖縄での戦闘は先の大戦含めて二度目となる。そして、先の大戦では勝利を収めている。
長期的に見れば、苦戦を強いられても負けない理由は無いのである。




