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仇討の島  作者: タヌキ
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出撃拒否

 那覇市街戦では警察本部を奪回するなどの戦果を挙げたものの、大局としては米軍の敗北であった。全滅ないし包囲の後に殲滅されたのである。

 本来の米軍であれば爆撃をして徹底的に敵を叩くのであろうが、極東最大である嘉手納基地の滑走路は先の蜂起で暴徒達の手によって破壊されていた。

 復旧作業が急ピッチで進められているが、一日やそこらで直るなら工兵はいらない。

 航空支援はヘリ頼みであり、そのヘリも搭載できる兵器の量には限りがある。そしてその量は、戦闘機の搭載量を大きく下回る。

 また、ヘリパイやガンナーだって人間だ。飯も食うし、休息も必要になる。

 最初の総攻撃以降は二機一組のローテーションで出撃していたが、それもやはり限度があった。

 攻勢に出たくとも、転々と散らばって潜む暴徒を叩くには火力が足りない。それが在沖米軍の現状であった。

 対し米軍相手に勝利を収めた暴徒であるが、彼等もまた攻勢に出れなかった。

 彼等の問題は、頭数にある。

 蜂起に参加した人間は千人弱。蜂起や米軍の反撃を経て、その人数は七百人弱になっていた。

 一個大隊程度の数は揃っているが、一か所に集まっている訳ではない。ある程度の集団を形成しつつも、沖縄本島の中でバラバラになっている。

 中には無線機を喪失したことで、孤立無援になっている集団もあった。組織立った行動が出来ないのだ。故に場当たり的に動くしかなく、効果的な行動は起こせない。

 所詮彼等は軍隊ではなく、暴徒でしかないのだ。

 双方共に望む攻勢の意志とは裏腹に、戦線は膠着したまま蜂起から二日経った――。


 キャンプ・フォスター

 朝を少し過ぎた頃合い。

 ジェイスとカズミは兵舎の廊下を早歩きで進んでいた。その顔は険しく、室内にも関わらずヘルメットを被っている。

 やがて二人は、廊下を埋め尽くさんばかりの人垣にぶち当たった。

 しかし二人は足を止めることなく「憲兵隊だ」と声を挙げながら、人垣を割って進んでいく。

 人垣はある部屋の前で無くなり、そこでは別の憲兵が困り果てた顔をしていた。

 ジェイスがその憲兵へ声を掛ける。


「応援だ。……また、例の騒ぎか」

「ええ……これで五度目です。しかも今度は……」

「今度は?」


 カズミの疑問に答えるように、銃声が一発響いた。閉じられたドアに穴が一つ増える。


「……拳銃か」

「はい。迂闊に踏み込もうとすると、頭に風穴が開きます」

「投降させるのが平和なやり方だろうが……聞く耳持つかな?」


 街中で暴れるヤク中の兵士を説得しようとしたのは記憶に新しい。なんだかんだで彼は聞く耳を持ってくれたが、今回の彼はどうか。

 カズミが一歩前に出て、掌をメガホン代わりにして部屋の中へ呼びかける。


「憲兵隊です! 武器を捨てて、部屋から出てきてください!」


 返答は銃撃であった。音からして四十五口径――銃はGIコルトだと、ジェイスは分析した。


「うるせぇ! 俺は出撃しないぞ! 絶対にだ!」


 部屋の中から男の怒鳴り声。内容は想像通りのもので、ジェイスは溜息をつく。

 ここ二日間で、兵士達の間では厭戦気分が広がっていた。

 パッとしない戦果や、壮絶な戦闘、安全な後方であったはずの沖縄が突如として戦場に変わり果てたショックなどで兵士達は戦うことを拒否するようになったのだ。

 中には、ベトナムで負った心の傷を悪化させて、暴れたり自殺を図ったりする者も出てきた。

 出撃拒否も多発し、まだ朝なのに今日だけで五回は出撃拒否に関する騒動が起こっていた。

 拳銃所持の上で立て籠もるのは、今回が初めてであるが。


「出撃するしない以前の問題です! 武器を捨てなさい!」


 カズミの説得虚しく、再び銃声が響く。既に何発が撃っているようで、扉に空いた穴は六つになった。

 GIコルトの装弾数は七発なので、銃にはあと一発残っていることになる。


「黙れ! あっちいけ!」

「行きません! 貴方が武器を捨てるまで!」

「うるせぇ! あんな地獄に行くぐらいなら、死んだ方がマシだ!」

「気持ちは分かりますが、死んではダメです!」


 このまま売り言葉に買い言葉のやり取りが続くかと思ったその時、ジェイスは部屋の中で息を吞む気配を感じ取った。その気配はカズミにも感じ取れたようだ。


「……分かるのか?」

「分かります。私も一昨日、那覇の街に出ましたから」

「……なら、なんで俺を説得する? 放っておいてくれ」


 兵士の声は、先程に比べていくらか勢いが落ちていた。揺らいでいる証拠だ。


「兵士としての義務を果たさず、騒ぎを起こして、基地の治安を乱してくるからです。……憲兵としての義務を果たしているだけ」


 やや皮肉めいた口調でカズミは答えた。


「義務? 義務だって? 好き好んで憲兵やってるアンタ等と、俺達は違う。兵役で、都合お構いなしに連れてこられただけだ」


 言い分自体に間違いはなく、不謹慎ながらもカズミは思わず失笑してしまう。


「なんで戦うかもロクに分からないまま、クソッたれの戦場に放りだされて、安全な後方に行けたと思ったらこの様だ!」


 こればかりは、運が悪いとしか言いようがない。しかし、運が悪いからといって拳銃片手に立て籠もっていい訳ではない。


「心中お察しします。でも、銃を持ち出して暴れるのは話が違う。ただの拒否なら営倉も行かずに済んだかもしれないけれど、こうなったら不名誉除隊ものです」


 不名誉除隊。年金等の社会保険も無しに、その事実も一生履歴書に書かなければならないという懲役刑も真っ青になる処罰だ。

 カズミはそれを口にすることで更に揺さぶりをかけたのだが、立て籠もり犯もそれなりの覚悟を持っているようで動揺はしない。


「不名誉除隊がなんだ! 死ぬよりマシだ! 俺は絶対に戦場には出ないぞ! だから俺に寄るんじゃねぇ!」


 銃声が鳴り、ドアに七つ目の穴が空いた。

 それを見るや、ジェイスはドアを文字通り蹴破る。

 ドアの破片を踏みつけながら部屋へ入ったジェイスが見たのは、スライドストップしたGIコルトを握る若い兵士であった。

 予備弾倉は無いようでリロードが出来ず、兵士はせめてもの抵抗でGIコルトをジェイスへ投げつけた。

 だが、ジェイスはそれをサッと避ける。GIコルトは廊下の壁に当たり、床に転がった。カズミが素早く回収する。


「……よかったな、これで戦場に出なくて済むぞ」


 ジェイスは兵士にそう言い、手錠を掛けた。兵士は引きつった笑みを浮かべていた。

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