激戦
那覇市街で苛烈な市街戦が始まった頃。
北部でも占拠されたキャンプ・ハンセンで、米軍と暴徒との戦闘が始まった。
ここの暴徒は米軍の車両類を鹵獲しており、強力な火力を有していた。
装甲車に先んじて到着した攻撃ヘリがその洗礼を受ける。
M42自走高射機関砲の四十ミリ機関砲が、攻撃ヘリへその矛先を向ける。
「ブラボー1 ブレイク! ブレイク!」
それに気が付いたリーダー機が編隊機へ呼びかけるも、一歩遅かった。
砲撃を喰らい、コックピットとローターが破片となって宙を舞う。揚力を失ったヘリは木の葉のようにひらりとその場で墜落していく。
仲間がヘリごと無残な残骸と化すのを目の当たりにしたパイロットとガンナー達は憤慨するも、攻撃はそれで終わらなかった。
暴徒達は荷台部分に重機関銃を装着させたガントラック、バズーカや対戦車ロケット、果ては自動小銃で対空戦闘を行う。
当然、ヘリ側も応戦するものの六機中、二機が撃墜され残る四機も無事では済まなかった。
キャンプ内の敵を掃討するなどもってのほかで、這う這うの体で帰投していく。
それと入れ替わりで、機械化歩兵達がキャンプ・ハンセンに到着する。彼等もまた苛烈な戦いを強いられることになった。
ヘリの攻撃を耐え抜いた自走高射砲がその機関砲を水平にし、装甲車の列へゆっくりと向ける。
それを見た銃座の車長から血の気が引いていき、慌てて車内へ叫ぶ。
「総員、下車! 降りろ!」
車長もキューポラから飛び出る。乗員もハッチから転がり出るも、定員の十人全員が降りるよりも先に機関砲が咆える。
四十ミリ砲弾は装甲車の装甲を容易く貫いた。
降り損ねた二名の乗員が肉片となって車内全面にへばりつく。水平射撃はその一台に留まらず、高射砲は薙ぎ払う形で砲を動かす。
砲撃を防ぐ遮蔽物など滅多になく、隠れるべき塹壕も無く、兵士達は神に祈りながら逃げ惑うしかなかった。
高射砲の掃射が終わると、暴徒達がわらわらと得物片手に兵士達を追いかけだした。
一人の暴徒は兵士に追いつくや、ライフルの銃床で兵士の頭を殴りつけて転倒させる。
ヘルメットを装着しているとはいえど、衝撃はそれなりのものだ。悶絶する兵士の足を撃って身動き出来なくさせ、死んだ家族の名前を口にしながら、一発一発急所を外して弾を撃ち込む。
暴徒の目に、もはや理性など無い。しかし、暴力に酔っている訳でもない。
全てを失った者だけが持ちうる、悲しい怒りの青白い炎だけが光っていた。
そしてまた、酷い有様なのは那覇市街も同様であった。
警察署を目前にして、歩兵達は足止めを喰らっている。彼等が乗っていた装甲車は迫撃砲弾の直撃を受けて、燻っていた。
縮こまって隠れている彼等の頭上を、機関銃の弾が飛び交っている。
生き残った無線手が必死に呼びかける。
「こちらチャーリー1-2! チャーリー1-2! 近接航空支援を要請する! 座標は――」
基地へ補給に戻っていたAH-1Gの内、二機がおっとり刀で駆けつけてくる。
『こちらオメガ1、近接航空支援を開始する』
低空飛行で這うように飛んできたヘリは、機関銃陣地と迫撃砲陣地を真正面に捕らえる。
ガンナーはまずはミニガンを撃ち、陣地にいた人間を蹴散らす。それから、ロケット弾で陣地を吹き飛ばす。
これで迫撃砲陣地は潰せたものの、建物の陰に設置できる機関銃を全て潰すことは出来なかった。
しかし、進軍が前に比べて楽になるのは間違いない。
無線手が基地へ再び戻っていくヘリへ礼を言い、指揮官は前進を指示する。
M60機関銃で牽制射撃を行いながら部隊はじりじりと警察本部へと近づき、そして突入した。
「着剣しろ!」
「手榴弾!」
「衛生兵、来てくれ!」
二度のヘリによる攻撃を生き延びた敵は、文字通り死に物狂いで抵抗する。敵もライフルへ着剣し、血みどろの白兵戦が展開された。
刺して切って、血にまみれ、鉄錆の味を感じる。
そうして大量の犠牲を払いながらも、なんとか米兵達は警察本部を制圧寸前までもっていった。
「クリア!」
「こっちもクリア!」
「残すは三階部だけです」
未探索の三階へ踏み入ろうと階段へ向かった米兵達の前に現れたのは、双眼鏡で米兵達を観察し戦闘開始の号令を出した老人であった。
老人の異様ないでたちに、米兵達は怯んだ。
老人は全身に手榴弾やクレイモア地雷を括り付けていた。
「バンザーーーーイ!」
そう叫び、掲げた手にはクレイモアや手榴弾の安全ピンに繋がる紐が握られていた。
老人の意図を察した指揮官が、泡を食う。
「カミカゼだ! 逃げろ!」
老人が階段を駆け下りてくる。指揮官をはじめ何人かが逃げ出すも、数人が老人に対して発砲する。
小口径のライフル弾故に動きを止めるまではいかなかったが、ダメージは与えられていた。
意識が遠のいていく中で老人は最後の力を振り絞り、紐を引く。
刹那に浮かぶ走馬灯。そこにいたのは、集団自決で死んだ彼の妻と娘であった。
老人の肉体は粉々になり、実体を失った。
魂も散らずに家族の元へ行けたかどうかは、定かではない。




