デジャブ
午前七時。
司令官代理は再び兵の投入を決定した。
部隊の再編成が完了し、各基地の混乱も収まりつつあったからだ。
応援が来るまで基地に籠っていても良かったが、やられっぱなしではプライドが許さないという米軍人らしい理由から兵を動かすに至った。
昨晩は緊急事態故に動かせなかった兵器類も、大量に投入することに。
ヘリポートでは昨晩は出せなかったAH-1G攻撃ヘリまで、ターボシャフトエンジンの唸りを挙げている。
耳を刺す甲高い音を立てながら、ヘリは離陸する。
十二機のAH-1Gは六機ずつ編隊を組み、北部と南部の二手に分かれて飛んでいく。
その下をM113装甲兵員輸送車に乗った機械化歩兵達が、基地の正門をくぐる。
機械化歩兵の先陣を切るのは、M60戦車の車体をベースにクレーンアームとドーザーブレードを装着したM728戦闘工兵車だ。
道路に並ぶ放置車両を押し除けながら、機械化歩兵の列は前進していく。
先んじて市街地へ到達した攻撃ヘリ隊は散開し、敵を捜索する。
市街地に潜んでいた敵は良くも悪くも血気盛んな連中であり、機関銃や携行ロケット弾を持っている者は例外なくヘリに向けて発砲した。
「オメガ3 ブレイク! ブレイク!」
パイロットが迫りくるロケット弾を最小限の動きで避け、ガンナーが機首にあるミニガンの銃口をロケット弾の発射元へ向ける。
AH-1攻撃ヘリは二人乗り。パイロットとガンナーで役割分担して、戦闘行動しやすくなっている。
ミニガンの銃身が回転し、発射元である裏路地の一角を7.62ミリ弾で敵ごと抉る。埃が収まった後には死体――ではなく、肉塊とM9A1バズーカの残骸が散らばっていた。
このようにヘリで一通り掃討した後、機械化歩兵達が市街地へ入場する。
「これより、敵が占拠している琉球警察本部庁舎へと向かう」
日の出と同時に発進させた偵察ヘリから得た情報だ。市街地の敵はそこを前線基地にしていた。
ヘリで機銃弾とロケット弾を散々浴びせたものの、建物内に敵が残っている可能性は高い。
建物の確保は歩兵の仕事だ。
市街地では生き残った敵による散発的な攻撃を受けたものの、対戦車火器による攻撃は無かった。鉛弾は装甲に弾かれ、兵が怪我はすることない。装甲車上部のM2重機関銃が火を吹き、敵はバタバタと倒れていった。
庁舎周辺には車両等を用いたバリケードが設置されていた。
戦闘を往くM728戦闘工兵車がデモリッションガンで破壊し、破片をドーザーで退けて道を作る。戦闘工兵車の面目躍如である。
バリケードを抜けると、ヘリの攻撃を耐え抜いた敵による攻撃が機械化歩兵達を襲う。
今度の敵は対戦車火器を温存しており、あちこちからロケット弾が飛んでくる。
ロケット弾の直撃を喰らい、一台のM113が爆発炎上した。脱出者はいない。
戦車よりも装甲が薄いため、ロケット弾を喰らえばあっという間に安全地帯から鉄の棺桶へと変貌するのだ。
「全員降車! 急げ!」
上部機銃についている車長を除き、兵士達が後部のハッチから飛び出してくる。
「三時方向! 車の後ろだ!」
「やり返せ! LAWを寄こせ!」
投げ渡されたM72を兵士の一人が展開し、敵が身を隠していた車へと撃ちこむ。
敵は車ごと吹き飛ばされ、無力化された。
ロケット弾射手をある程度排除したあたりで、兵列は再び警察本部へ向けて動き出す。
警察本部の庁舎はヘリの攻撃を受けて三階部分が崩れていたが、まだ建っていた。
前線基地なだけあって要塞化されており、内部や周囲では蜂起した人々が武器や弾薬を手に右往左往している。
崩れた三階部に立ち、双眼鏡で周囲を監視していた老人がいた。彼は、黒煙が近づいてくるのを見つけた。
よく観察すると、それが装甲車が吐き出す煤煙であるのが分かる。
「敵襲! 戦闘配置に着け!」
年の割にはハリのある声で老人は叫ぶ。要塞内がにわかに騒がしくなる。
攻撃を受けながらも機能を失っていなかった機関銃陣地、迫撃砲陣地へ担当者が走っていく。
「まだだ! まだ撃つな!」
老人は叫びながら、遠い昔のデジャブを感じていた。
あれは、二十五年前の五月二十九日。首里城に構築された防衛陣地に彼はいた。
主力戦力は既に南部へ撤退しており、彼が属する部隊は米軍の侵攻を遅らせるために死守命令を受けていたのである。
あの時の彼も、こんなふうに米軍がキルゾーンに踏み込むのを待っていた。
結局、戦争に負け、あとには敗北の事実と荒廃した沖縄しか残らなかった。
いや、それだけならまだスクラップアンドビルドの精神でなんとかなったかもしれない。アメリカはそこから更に色々なモノを奪っていった。
尊厳、故郷、思い出。金などでは到底替えることが出来ない、かけがえのないモノを。
そうされて許せる人間が、この地球上の何処にいるか。
怒りを負け戦を仕掛けた連中へ向けようにも、旧軍のお偉方は皆東京裁判で処刑された。恨もうにも相手がいないとなれば、いる方を恨むのが筋だ。
だからこそ彼等は麻薬を作って捌き、武装蜂起までしたのだ。
憎しみに目を血走らせた老人は、兵列が迫撃砲の射程圏内に入ったのを見た。
「撃てぇー!」
号令一下、六十ミリと八十一ミリの迫撃砲が火を吹き、三十口径の機関銃が猛烈な勢いで弾を発射しだした。




