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仇討の島  作者: タヌキ
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ジリ貧

 那覇市内。

 ジェイス達を迎えたのは、死体の数々であった。

 その多くは民間人であり、店の中、道路の上、車の中など至る所にある。

 老若男女、米国人、日本人関係無い。

 中にはまだ幼い子供もいた。金髪が血に汚れ、母親らしき女性が庇うように被さって事切れているのが、胸を締め付けられる。


「ひでぇ……」


 小隊の誰かがそう呟く。ジェイスとカズミも無言ながら、心の中で同意する。

 若い小隊長もこみ上げる吐き気を堪えながら、小隊の面々へ指示を出していく。


「生存者を探すんだ! 敵が撃ってきたら撃ち返せ!」


 街の惨状からは生存者がいるように見えないが、それを探すのも国民国家を守る軍人の務めだ。

 小隊の面々はある程度のまとまりを維持しながら、建物の中へ入ったり車のドアを開けたりして声を掛けを行い生存者を探す。

 しかし、中々見つからない。

 殺され尽くされたか、もっと奥まったところに隠れているかの二択であろう。


「このブロックには生存者はいない! 移動するぞ!」


 小隊長が手を上げ、小隊員へ移動を指示する。しかし、その行動が彼にとっては命取りとなる。

 少し離れたところで銃声がしたと思えば、小隊長が気の抜けた声を発した。


「あれ?」


 胸に朱色のシミが出来たと思えば、みるみるうちにシミは広がっていく。そしてそのまま小隊長は崩れ落ちた。


「スナイパーだ!」


 ベトナム帰りの軍曹が出した野太い声は、間髪入れずに響き渡った銃声にかき消される。

 狙撃の銃声で咄嗟に物陰に隠れたジェイスとカズミを含む数名を残し、小隊の面々は何処からともなく飛んできた機銃弾の餌食となる。

 ジェイスは特徴的な銃声から、小隊の半数以上を死体へ変えた機関銃が旧日本軍の九二式重機関銃――通称、ウッドペッカー(キツツキ)であることに気が付いた。

 父の事から沖縄戦の資料を読み込む中で、彼は自然と旧日本軍の兵器類に詳しくなっていたのだ。


「クソ……」


 ジェイスは生き残った小隊の面々を確認した。

 小隊長以下、下士官もジェイスを除いて全滅。指揮権はジェイスにあることになる。

 現に生き残りの何人かは縋るような眼差しで彼を見つめている。

 見捨てるという選択肢はハナから無い。死ぬという選択肢もだ。

 ここでこうしている訳にもいかない。移動には、機関銃手と狙撃手の両方を潰す必要がある。

 ジェイスは素早く周囲へ目を走らし、機関銃の発射元を探す。

 発射元は二百メートルほど離れたビルの屋上であった。よく目を凝らすと、狙撃手までいるのが見えた。

 建物内部は生存者捜索で見て回ったものの、屋上は盲点となっていた。

 自分達の詰めの甘さに苛立ちを覚えながらも、ジェイスは倒す方法を模索する。

 そこで目を付けたのは、死んだ小隊員の一人が装備していたM72対戦車ロケットだ。暴徒が装甲車を鹵獲したという情報があったので、一門持ってきたのだ。

 M72の最大有効射程は千メートル。

 二百メートルほどなら余裕で狙える。

 それでまとめて始末する算段を立て、ジェイスはM72に一番近い兵士へ叫んだ。


「そのロケットを取って、機関銃手と狙撃手を狙え! 援護する! 取れ!」


 彼は他の小隊員へ援護射撃を命じ、いの一番に発砲する。

 5.56ミリと7.62ミリの嵐を受け、敵は頭を下げた。

 そのタイミングで小隊員は物陰から飛び出し、M72で屋上を狙う。66ミリロケット弾が直撃し、見事に屋上の一角が敵ごと吹き飛ぶ。

 

「移動だ! 急げ!」


 この機を逃すまいと、ジェイスは声を張り上げた。

 そこから少しして。

 煙草を切らしてから補給する間もなく、ニコチンの欲求に耐えていたジェイスであったが、そのうち我慢できなくなり、隊員に煙草をねだった。吸い慣れたマルボロではなくラッキーストライクであったが、この場で贅沢は言えない。

 もしも隊員の誰も煙草を持っていなければ、ジェイスはそのうち床に落ちている誰が吸ったかも分からないシケモクに手を出していただろう。

 彼等は那覇市中心街にほど近い映画館へ逃げ込んでいた。建物も丈夫で椅子もあって広いので、一時避難場所にはうってつけである。

 煙草を味わっているジェイスの元へ、偵察に出したカズミともう一人の兵士が戻ってくる。


「どうだ?」

「……静かです。敵はいませんでした」

「何処かへ移動したか……待ち伏せているか……どっちだ?」

「こればっかりは……」

「出たとこ勝負か」


 ジェイスは残る予備弾倉を確認した。予備弾倉は残り三つ、銃に挿し込んである分を含めて四つ。

 敵中突破するには心もとないが、籠城戦を想定するとなると絶望的な数である。


「援軍は?」


 ジェイスは無線手へ訊ねた。


「司令部は本島北部へ戦力を集中させているそうです。なんでも、嘉手納の弾薬庫にあるVXガスを守るのと、キャンプハンセンとシュワブを奪還するために」

「……期待できないってことか」

「装甲車部隊を編成しているそうですが、襲撃時の損害が酷くて、すぐには出せないそうです」

「ヘリは」


 一縷の望みを賭けて訊ねてみるが、無線手はかぶりを振った。


「ヘリも同様です。残ったヤツは全部北へやってるらしいです」

「……なんてこった」


 そう言い、ジェイスは天を仰いだ。

 援軍が期待できない以上、籠城を決め込むのは良い判断とは言えない。そもそも、今いる映画館も丈夫であるとはいえ、そこかしこで起こっている火災がいつ延焼してくるかも分からないので長居は出来ないのである。


(弾も少なく、いつ飛び火するかも分からない、助けも望めない……となれば、逃げの一手だが)


 考え込むジェイスであったが、集中は続かなかった。

 否応なしに思考へ割り込んでくる泣き声。

 嫌な想像をさせる苦痛の呻き。

 何もかもを邪魔する喚き声。

 小隊は偶然出会った民間人十三名を保護していた。

 彼等もまた混乱の中、家族などとはぐれて隠れ場所を求めて映画館へ逃げ込んだ者達だ。負傷している者も少なくない。

 チラリと市民を窺い、ジェイスは唸る。

 彼等の顔は一様に不安げで、恐怖で震えている者も多い。


(十何人も連れて、逃げ切れるのか?)


 自問してみるも、出てくる答えは一つしかない。


(……逃がさなきゃならんよな。軍人として、人間として)


 暴徒達は日本人だろうが米国人だろうが、お構いなしに発砲する。逃がさなければ、戦う術を知らない彼等は殺されるしかない。


(……やるしかないか)


 決意を固めたジェイスは隊員を招集した。


「これから、民間人を連れ、市内を突破して琉球大学まで戻る。異議は?」

 異議は出なかった。このままいてもジリ貧なのは、分隊員も理解しているからだ。

「よし……とりあえず、車両の確保だ。バス、もしくはトラック、最悪ライトバンでもいい。流石に負傷者担いでいくのは、厳しいからな」

「車両を確保した後は?」

「五号線まで一気に突っ切る。モタモタしてると、包囲されかねんからな」

「異議なし」


 隊員からの了承を得ると、ジェイスは市民達へ移動するから準備してほしいと呼びかけた。

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