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仇討の島  作者: タヌキ
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市街戦

 時計の針は午後十時を指していた。

 月よりも明るく、市街の火災が夜空を照らしてる。

 ようやくキャンプ瑞慶覧の混乱も収まりつつあり、在沖米軍は事態そのものの解決に向けて動き出した。

 憲兵隊は市街の暴徒鎮圧を目的に基地外へ出動。

 駐屯していたヘリ部隊は嘉手納弾薬庫地区での戦闘の応援へ向かう。

 歩兵部隊も憲兵隊の応援と弾薬庫地区への加勢に当てられる。

 ジェイスも員数外の人員ながら、貴重なベテラン下士官として憲兵隊で指揮を執ることになった。

 ジープに乗り込み、無線で後方に続くトラックへ呼びかける。


「交戦規定は専守防衛。民間人への誤射を防ぐため、撃たれる前に撃つのは無しだ。最優先事項は民間人保護である。……出発!」


 開かれたゲートからなだれ込んでくる民間人達と入れ違いながら、憲兵・歩兵の混成部隊は那覇市街地へと向かう。

 道中も酷い有様であった。

 燃える店舗や車両。

 何処へ行けばいいか分からず立ち尽くす市民。

 冷たくなっていく親に泣いて縋りつく子供。


「……酷い」


 助手席に座るカズミが絞り出すように呟く。


「まるで戦場だ。……いや、戦場か」


 車列は市街地へと近づいていく。

 四方八方から銃声や爆発音が響いてくる。


「ブリーフィングの通りだ。これから小隊ごとに分かれて、市街地に潜伏する暴徒を掃討する。市街地に入ったら姿勢を低くしろ、待ち伏せや狙撃に注意するんだ。総員、降車!」


 現在地は琉球大学、今の首里城にあたる。ここには命からがら逃げてきた市民が集まり、警察が臨時拠点を築いていた。

 騒乱が始まった時、警察署は真っ先に襲撃されその機能を喪失。警察官も多数亡くなった。

 生き残った警察官達は市民を伴い、郊外へ避難。

 そして広い敷地を持ち、暴徒がいなかった大学へ集まっていったのである。

 ここでも市民とすれ違いながら、ジェイス達は市外へと進んでいく。


「畜生、暑いな。サウナみたいだ」


 兵士の一人がヘルメットの顎紐を緩め、ボディーアーマーのファスナーを下げながらぼやく。

 夜といえど気温は然程下がらず、それどころかあちこちの火災で気温は上がる一方だ。

 頬に伝う汗を拭いながらジェイスは心の中で、そのぼやきに同意する。

 二キロほど進んだところで軍道五号線に到着した。五号線は丁度市街地と郊外の境界線となっている。


「安全装置を解除しろ!」


 小隊指揮官の中尉が発した掛け声を、ジェイスは自身が率いることになった分隊員へ投げかける。ジェイスの分隊はカズミを始めとして、主な人員は憲兵隊所属だ。戦場のど真ん中に行くのは初めての連中ばかりで、ガチガチに硬くなっている。

 かく言うジェイスも、戦場に行くのは初めてだ。

 怖い。死ぬかもしれない。

 思うところはある。

 だが、行かねばならない。


「「……行こう」」


 ふと声が被る。ジェイスが視線を少し下ろすとカズミと目が合った。

 同じタイミングで同じことを口にしたらしいことに、すぐ気が付く。

 そして、二人は軽く笑い合う。緊張が少し解れた二人は、燃える市街地へ目を向けた。


 キャンプ瑞慶覧のヘリポートから出撃した六機のUH-1C武装ヘリと一機のOH-6観測ヘリは、十分もしないうちに嘉手納弾薬庫地区上空へ到達した。

 OH-6に乗る指揮官が無線を手に取る。


「エコーリーダーよりエコー小隊各機へ。下では味方戦車隊が敵へ押されている。戦車隊を支援した後に散開。コザ市内に展開している味方歩兵隊への航空支援を行え」


 六つの返事の後、地上の戦車隊からの悲痛な叫びがヘッドホンから流れる。


『おい! チョッパー! 早くベトコン……じゃなくて、ジャップ共を蹴散らしてくれ!』


 戦車隊は十台出撃したはずが、今は残り四台になっていた。

 悲痛な叫びも無理ない話なのだ。


「了解。これよりミニガンを掃射する」


 武装ヘリの横っ腹に装着されたミニガン。その銃身が唸りを挙げて回転しだす。

 次の瞬間、何百発もの7.62ミリNATO弾が地上の暴徒目掛けて発射された。

 ミニガンの発射速度は最低でも毎分二千発。同じく7.62ミリNATO弾を用いるM14ライフルの発射速度が毎分七百発なので約三倍の速さで弾を撃ちだすのだ。

 発射音はバイブレーションみたいな音でありいささか迫力に欠けるも、威力は絶大である。

 戦車に肉薄しようとしていた暴徒達はまばたきする間に、物言わぬ肉塊へと変わった。チョッパー――挽肉製造機の名は伊達ではない。

 更に建物内に身を潜める暴徒や装甲車を倒すべく、武装ヘリはミニガンの下に装着されたロケットポッドから七ミリロケットを発射する。

 ロケットが命中したビルは崩壊して瓦礫の山と化し、装甲車は爆発炎上した。

 これにて戦車への攻撃の手は収まった。


『エコーリーダーへ、こちら一号車。助かった、戦車隊を代表して礼を言う』

「こちらエコーリーダー。礼には及ばん」


 指示通り散開していくヘリを、ある戦車兵はハッチを開けて敬礼で見送る。

 その周囲では、煤けた顔した歩兵達が手を振ったり投げキッスをしたりして、武装ヘリを激励していた。

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