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仇討の島  作者: タヌキ
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燃える中で

 キャンプ瑞慶覧。

 ジェイスとカズミは憲兵隊の部隊と合流し、なんとかキャンプ内にいた乱射魔達を無力化した。

 しかし、市街地の騒動を収めるまでは出来なかった。規模があまりにも大きく、キャンプ内の混乱も収まっていないからだ。

 キャップ内の状況を把握すべく、憲兵隊のオフィスへ集う。

 変電所が爆破された影響で電圧が足りず、室内の蛍光灯が不気味に瞬く。

 電話回線も駄目になっており、伝令を任された兵士がひっきりなしに行ったり来たりしている。


「死者、売店近辺に二十! 怪我人、五十強!」

「第五十二車両保管庫にて火災発生。五十一、五十三保管庫にも延焼中! 至急消防車求む!」

「第三ゲートより伝令! 民間人が保護を求めて、多数詰めかけています!」


 伝令の内容を精査したり聞き直したりする間もなく、兵士達が黒板やメモ用紙に書き殴っていく。

 乱射魔の始末という大仕事を終えたジェイスとカズミ、他数人の憲兵達はその様を少し離れたところで眺めていた。

 早いペースで煙草を灰にし、砂糖をたっぷりと溶かしたコーヒーを飲むジェイス。

 カズミも甘いコーヒーを二杯飲み干し、ストレスとカフェインで目をギンギンにさせていた。


「どこもかしこも、大変だな」


 空になったマルボロのパッケージを握り潰し、ゴミ箱へシュートしながら何処か他人事のようにジェイスが言う。

 自分一人の努力でどうにも出来ない事態であると認識しているからだ。


「……何が起きてるんですかね?」

「情報が錯綜してるから何とも言えない。だが、確実なのは乱射魔は全員、日本人だったってことだ」


 ジェイスとカズミは乱射魔をその眼で見ている。それだけは確かなのだ。


「今はとにかく、混乱を収めるのが先決だ。じゃなきゃ、欲しい情報も集まらない」


 ジェイスは煙を吐き出し、短くなった煙草を灰皿へ押し付けた。


「……収まりますかね」


 弱気な発言をするカズミにつられ、ジェイスの語気も弱くなる。


「……それは分からん」


 彼等の揺らぐ思いを逆撫でするように、無線に貼りついていた憲兵が悲鳴にも似た高い声で叫ぶ。


「嘉手納弾薬庫地区より入電! 暴徒に乗っ取られた武装トラックや装甲車が突入してきた模様!」


 それを聞き、乾いた笑いを発するジェイス。


「戦車がいるな」

「もはや、爆撃機が必要なんじゃないですか?」

「……いっそ、更地にしたらスッキリするな」


 投げやりに吐き捨て、ジェイスは頭を掻いた。


 琉球列島高等弁務官兼在沖米陸軍司令官であるランパート陸軍中将は、職務を放棄し家族を伴って逃亡を図った。

 司令官不在による指揮系統の混乱を避けるため、米国民政府はキャンプ・コトニーにいる第三海兵遠征軍司令であるエッカート中将へ高等弁務官兼陸軍司令官代理を任せることとなった。

 エッカート中将はキャンプ防衛を理由に、独自の判断でM48A3からなる戦車隊を出動させており嘉手納弾薬庫地区では既に戦闘が巻き起こっていた。

 対戦車火器を手に肉薄してくる暴徒に対し、戦車兵達は主砲をぶっ放し、同軸機銃や外付けの重機関銃で掃射を浴びせる。

 それによって暴徒はバタバタと倒れていくも仲間の屍を乗り越えて新たな暴徒が現れ、死体から携行ロケット砲やらバズーカ砲を剥ぎ取って発射した。

 幾つものロケット弾や砲弾を車体へ命中し、弾薬庫に引火し誘爆する。


「ファック! 五号車撃破! 脱出者無し!」

「各車の判断で発砲しろ! 繰り返す、各車の判断で発砲しろ! 自分の身は自分で守れ!」

「こちら二号車! 被弾につき履帯破損! 装填手負傷!」


 嘉手納弾薬庫地区は地獄の形相を呈していた。

 にも関わらず、辛うじて繋がっている無線から流れる指令は。


「全車現在地を死守せよ! 繰り返す! 全車現在地を死守せよ!」


 というものであった。

 その無線を聞いたある戦車兵が怒りを露わにする。


「ちきしょう、俺達を殺す気か!」


 怒るのも無理ない話だ。短時間で仲間が死んだり怪我したりしている中、撤退どころか後退すら許されないのだから。

 しかし、指令を出す側にも理由はある。

 嘉手納弾薬庫地区には誰もが想像する弾薬の他にも、神経剤として名高いVXガスが貯蔵されているのだ。

 VXガスは人類が精製した物で最も毒性の高い物質の一つであり、呼吸器だけでなく皮膚からも吸収される。化学的にも安定しているため、一週間以上その場に残留する。しかも除去するには専用の中和剤が必要なのだ。

 起動にも専門知識が必要な核兵器と異なり、適当にバラ撒くだけでも多大な効果を発揮する。

 そんな物を暴徒達の手に渡らせる訳にはいかないからだ。

 バラ撒かれたが最後。沖縄は死の島と化す。

 それを防ぐための死守命令であるのだが、情報が錯綜している中で一介の戦車兵がそんな事情を知る由もなく。

 彼はハッチから身を乗り出し、敵の様子を窺う。

 勢いはやや落ちていたが、暴徒は依然として迫ってきていた。今度は鹵獲した装甲車を持ち出し、波状攻撃を仕掛けようとしている。

 命令など無視して撤退したい気持ちに駆られる戦車兵であったが、逃げたところでキャンプも完全な安全地帯ではない。街もまだ混乱しているので、逃げ場など何処にもないのだ。

 それに、仲間が死んだりしながらも他の車両が死守命令を守っているのに、自分達だけ逃げ出すなぞシャバ僧のすることである。

 腹を括った戦車兵は無線の送信ボタンを押し、砲手へ伝えた。


「二時の方向、装甲車だ。相手の装甲は薄い、一発で仕留めろ」

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