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仇討の島  作者: タヌキ
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計画

 混乱――いや、騒乱はキャンプの外でも起きていた。

 午後六時丁度を境に、各所で爆発や火災が発生。

 それから、銃を持った暴徒が何処からともなく現れ、民間人・警察官・軍人問わず無差別に発砲。多数の死傷者が出た。

 その騒乱の規模は琉球警察ならびに在沖縄米軍憲兵隊の処理能力を大きく超えており、行政機能はパンクする。

 それによる隙を突く形で、多数の小型船舶が本島中部の金武湾へ集結していた。

 金武湾は海兵隊の基地であるキャンプ・コトニーに接しており、湾内は訓練水域に指定され普段は立ち入りが制限されているが基地内の騒乱に気を取られ、侵入を許してしまったのだ。

 小型船舶はいつぞや大宜味村の港で比嘉派構成員と取引をした連中が乗っていたのと、同様の改造が施されていた。乗員達もあの時と同じく銃を手にしていた。

 旧日本軍の物から、米軍の倉庫から盗み出された物まで多種多様だ。

 船は金武火力発電所の護岸に停まると、乗員達が次々と上陸しだす。乗組員は二手に分かれ、行動を開始する。

 一方は火力発電所を制圧し、一方は近くにある米軍兵士の保養所である屋嘉レストセンターを占拠するために動く。

 彼等の動きはプロをも凌いでいた。火力発電所内に突入した集団は、一気呵成に制御室へ向かい大した戦闘もせずあっという間にコントロール権を手にした。

 レストセンターへ向かった集団も同様。センターにいるほとんどが軍人とはいえ、保養所ということで武装はしておらず占拠は容易であった。

 センターは拠点となり、物資と人員が集合する。

 制御室に最低限の人員を残した発電所襲撃組とレストセンター組が合流し、今度は近くにあるキャンプハンセンとキャンプシュワブへ襲撃に向かう。

 その二つのキャンプも日本人スタッフによる蜂起が起きており、組織的な抵抗は無かった。

 乗員達は武器庫へ殺到し、中の武器弾薬類を持ち出す。

 装甲車や武装トラックも鹵獲し、キャンプ内を地獄へ変える。

 そして、午後八時十分。

 キャンプハンセン、キャンプシュワブ共に陥落。

 キャンプが陥落したタイミングで、一人の老人がやってくる。ハジメだ。

 ハジメは転がる米兵の死体や米兵を跪かせ脳天を撃ち抜く仲間を見て、満足そうに頷く。


「作戦の第一段階は、成功か」


 キャンプ襲撃組のリーダーをしていた中年男が口を開く。


「はい。ここのキャンプの米兵は、一部の将校を除いてほとんど殺しました。……仲間も、何人か死にましたが」

「もとより覚悟の上だ。それに今更死を恐れたところで、家族や友人は帰ってこない」

「その通りです」


 中年男は頷く。


「……第二段階の方は?」


 ハジメが訊ねると、中年男がある方を指さした。

 そちらでは、若者達が鹵獲した装甲車を動かし、トラックにM72対戦車ロケットを積んでいた。


「今、部隊を再編しています。街にいた仲間も順調に集まってきています。警察も予想以上に機能していないので、集まりも早いです」

「そうか。だが、油断するな。キャンプを二つ潰したとはいえ、戦力差は圧倒的だ。第一段階は奇襲効果で成功を収めたが、第二段階から奇襲の効果は薄くなる。我々が部隊を整えるように、米兵共も部隊を整えているだろう」

「………………」

「しかし、狼狽えるな。この島から米兵や米兵に媚びを売るクズ共を一掃するまで、我々は止まらん、止まってはならんのだ。死んでいった家族や友のためにも、今や失われた美しき故郷のためにもな」

「分かってます」


 中年男はシャツの胸ポケットから一枚の写真を取り出し、目を細める。

 そこには彼と一緒に彼の妻と息子が写っていた。彼は二十五年前に妻を米軍の機銃掃射で、息子を疎開船への魚雷攻撃で喪っている。また、家族と共に暮らしていた家は空襲で燃やされ、跡地は嘉手納基地の滑走路の下であった。

 このように、この襲撃に関わった人間は皆大なり小なり二十五年前に米軍によって何かを失っていた。

 ハジメが口にしたように、「計画」とは米兵や米兵に媚びを売る売春婦やおこぼれに預かり甘い汁を啜るヤクザなどのクズ共を一掃するためのもので、それが彼等にとっての復讐なのだ。

 ハジメ達にとっては薬物はあくまでも、計画の前座でしかなかった。

 いくら薬物をバラ撒こうと、米兵全員がヤク中になる訳ではないからだ。

 薬物を使ったのはジェイス達が予想したように米兵やクズ共を苦しませ、ヤクザを甘言で釣って薬物を捌かせて、それによって起こるヤクザ同士の抗争やそれを捜査する警察や憲兵隊の手によってヤクザを潰させるもしくは弱体化させようとしたからだ。

 もっとも抗争やジェイスとカズミの手によって比嘉派・潮見派双方ともに壊滅まで追い込まれたのは、ハジメ達にとっては少しだけ幸運な出来事でしかなかった。

 彼等の目的は、あくまでも己等の手で確かに米兵やクズ共を一人残らず抹殺することだからだ。

 その連中が勝手に潰しあったところで、過去の傷は癒えない、復讐心は消えない。

 だからこそ、己等で米兵やクズ共を殺せる計画の本番で盛り上がっているのだ。

 彼等からすれば、二十五年前の傷は二十五年前と同じことをやり返すことでしか癒えないのである。

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